「そういや沙弥香先輩の部屋って割とイマドキだったよね」
 スマホをポチポチと弄っていたハルがそんなことを言い出したのは、いつものことながら唐突なものだった。
「……どういう意味?」
 今日もハルの部屋にお邪魔して本を読んでいた私は顔を上げる。もはや入り浸ってる私はこの部屋のもう一人の住人と言っても差し支えないのかもしれない。家賃も折半すべきだろうか。
「や、家の方は昔っぽかったけど部屋は板張りだしベッドもあるしさ」
 どういう意図か掴めずにいたけれど、なるほど家の外観とのギャップということらしかった。
 確かに祖父母の部屋などは完全に和室の体裁だ。畳に押し入れ、箪笥、嫁入り道具の化粧台といった時代がかった物が敷き詰められている。長年使用された部屋や道具は持ち主に似たのか、ある種の威厳さえ放っているかのようだった。
 それを考えたら、私の部屋は洋風に改装してある。別にこんなのは他の和風建築でもあることだと思うのだけど、ハルはギャップを感じて訊いたのだという。
 まぁ小糸さんや燈子みたいにからかうんじゃなくてよかった――
「それにお嬢様っぽいし」
 ――訂正。安堵した直後に懸念した通りのからかいが飛んできたので、私はぺちんと優しく頭をはたいた。
「あでっ」
「痛くないでしょ。……私のこと、みんなしてどう思ってるのかしら」
「お嬢様」
 ……ハル、図太くなったわね。最初の頃だったら「沙弥香先輩のこと? 好きだよ」って純粋にズレたこと言ってただろうに。一体どんな悪友の影響なのやら。
「次言ったらデコピンだから」
 生まれてこの方やったことなんてないけど。
「はーい」
 ともあれ素直にお嬢様ネタから引き下がってくれたのは、一通り満足したからなのだろうか。それはそれで癪な気もするけど、わざわざ掘り返すのも面倒なので、私は息を一つ吐いてから説明した。
「今時家具屋に和物なんてそう多くないわよ」
「えー」
「そもそも畳も障子も維持に手間暇がかかるもの。ベッドだって、布団を直敷きにするよりスプリングある方が寝る時に体の負担はかからない。正座なんて座り方だって膝を悪くするし、かと言って胡坐じゃ姿勢を悪くするから椅子や座椅子に座る方が幾分はマシよ」
 慣れた人はその方がいいのかもしれないけれど、私は現代っ子だ。そっちの方が慣れない。
「わぁ、沙弥香先輩らしいや」
「どういう意味?」
「にしてもやっぱりちょっと意外だなー、部屋がイマドキなの。オシャレだけど」
 話を逸らした――というより説明されたからそこへの関心がなくなったのだろう。生憎と私の方はハルと違って根に持つ方なものだから掘り下げたかったのだけど、もう済んだことを追及しても仕方あるまい。
「なにが意外なのか、全く分からないのだけど?」
「家もそうなんだけど、先輩の雰囲気? レトロ系好きそうな感じ」
 ……それは一体どういう雰囲気なのだか。
 そんなに昔に引きずられそうな雰囲気してる?
「そもそも私は別に懐古趣味もないわけだし」
 いや、確かに古臭い物に囲まれると落ち着くところは否定できない。Echoの常連なのも、児玉さんが店主でコーヒーが美味しくて近いという点以外に、ちょっとばかり時代遅れな空気が漂うあそこの雰囲気が好きというのもあった。
 けれどそこに望郷や郷愁はなく、あるのは懐古と追憶のみ。
 ……懐かしさに目は細めても、そこに手を伸ばす必要もないのだから。
 結局、私が昔に捉われずに済んでいるのは……単純な話、昔よりも今の方がいいからなのだろう。
「でもいいなぁ、広い家」
「いいことばかりでもないわよ。冬場は寒いもの。私にはこのくらいでちょうどいいわ」
「え、と、そう?」
「あ、でもやっぱり個室はあった方がいいわね」
「沙弥香先輩?」
 百面相するハルの顔を見て、私の表情も綻ぶ。
 ……この今も、いずれは過去になっていく。
 だから、その先も一緒にいられるために、私は前を見るのだった。
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向き
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やが君ワンライ㊾
初公開日: 2022年04月30日
最終更新日: 2022年04月30日
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お題 ゴールデンウィークorレトロ