目を閉ざすと、雨の音と、あったかい体温。
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……やらかしてしまった。
学校終わって帰りがけにベンチに座ったらそのまま寝ちゃった、なんて。まるで子供みたいで恥ずかしいったらありゃしない。
それが一人でなんだったらまだよかったんだけど、よりにもよって先輩と一緒。寝てたのは二十分くらいだったみたいだけど、先輩も先輩だ。
「起こしてくださいよ」
「侑の寝顔見てたから」
自分のことを棚に上げて文句を言ったら、そう笑顔で返された。そういうことじゃないんだけど。
雨はまだ、しとしとと降り頻っている。靴が跳ねる水飛沫、雨と膨らんだ緑のにおい。頭上からはビニール傘と雨のセッションが鳴り響いてる。
隣を歩く先輩との距離はない。互いを濡らさないように。だから先輩に触れる左っ側ばかりが、先輩の熱をもらってぬくまっていく。
だけど熱は残念ながら右半身までは届いてくれない。届く前に、天気と気温に打ち負けてしまう。
またビニール傘の露先から、ぽつりと雨粒が腕に落ちて染み込んでいく。
……冷たい。
――その嬉しいって、どういう意味?
どうしてだろう。さっき、あの目を見た時にもそう思ったのは。
あんなに昂揚していた先輩の瞳から、一瞬で熱が冷めていた。先輩はなにも言わなかったけど、わたしから一歩引いて意図を探ってたのが見て取れた。
わたしが余計なこと言ったから。
でもわたしだって、その言葉が自分の口から出たことに驚いてた。
だってわたしは別に誰でもよくて。先輩じゃなきゃいけない理由はなかったはずだ。
だからこれまでだったらきっと、「助かりました」で済ましてた。
なのにどうして言葉を続けてしまったんだろう。
嬉しくないわけじゃなかったのが、嬉しいになってる。
嬉しかったの? 本当に?
その変化はなんなんだろう。いや、そもそもこれは変化してるんだろうか。
それすら分からない。
……体の内側がぞわぞわする。胸の内がひんやり冷え込む。
わたしは一体、なにを感じているんだろう。
それを探ろうと思って思考を回そうとしているのに、頭はちっとも動いてくれない。
まるで考えることを拒絶してるみたいだ。
「――侑?」
先輩が名前を呼ぶ声に、我に返る。
気付けば家の前に着いていた。
「え――あ、すいません! ウチまで送ってもらっちゃって」
「え? いいのいいの、侑といつもより一緒にいられて嬉しかったから」
慌てて頭を下げると、先輩はそう、本当に嬉しそうに笑った。
……あぁ。ほんと、この人は。
「ありがとうございました、助かりました」
「それならよかった。それじゃあ、侑、また明日」
「はい、また」
別れの言葉を交わしたのに、七海先輩は何度も名残惜しそうに振り返っては手を振っていた。そんな先輩に苦笑を浮かべながら見送る。
その背中がとうとう振り返らなくなって、見えなくなってから、わたしは小さく息を吐いた。
……左の二の腕をさする。
分けてもらった熱は、まだ少しだけ残っていた。