「デートしたい」
「………」
「……ナー……なんて…」
珍しく歯切れ悪く、言葉尻も弱くそう言われて面食らってしまった。イジョンくんがデートしたいと言うだなんて……
「もちろん、いいとも!」
先日決まったイースターの演奏会、生憎僕は家業の手伝いをしなければならず、小次郎と共に実行係になる事は叶わなかった。先週末、部活が終わってから係のメンバーでウサギキングダムに出掛けると聞いた時はあまりの羨ましさにチーフを噛みたくなってしまったけれど、小次郎とはまた日を改めて遊びに行く約束をしている。イジョンくんもこういったイベントには喜んで乗って、きっと実行係に立候補するだろうと思ったのだけれど私用があるらしく係になるのは見送ったようだ。朝の練習後に小次郎の思い出話を聞いて良いな、楽しそうだね、なんて話していたが。また放課後に、と小次郎と別れてから少しの間ふたりになって、ウサギキングダムにデートに行きたいのだと、そう言われた。僕の反応が鈍いものだから断られると思ったのかもしれない。イジョンくんは僕らにアイドルだと隠していて、どうやら今後も出来る限り知られたくないようだ。僕が彼の秘密を知ったのは偶然だったけれど、秘密にしているのには彼なりの特別な理由があるのだろうと解釈している。知ってしまったけれど、秘密にしたいと言うのならば知らないふりをして秘密のままにしておこう。余談ではあるけれど、僕はアイドルとしてのイジョンくんも好きだよ。とてもね。こっそり自室でライブのブルーレイやグッズを集めている。秘密だよ。
話が逸れてしまったが、イジョンくんはアイドルとして活動してるのを隠している。人目に多く触れる可能性の高い遊園地は避けたいのでは。ならば僕に出来る事は。
「早速貸切の手配をしようか!」
「貸切?」
「その方が落ち着いて楽しめるだろう?少し待ってくれないかな、今運営会社に連絡を」
「ストップ!ダイスケ、貸切じゃなくても良いんだヨ!ダイジョブ!」
「え?いいのかい?小次郎の話によるとかなり人が居るようだよ」
貸切に出来たなら人目も気にならないだろうに。
「賑やかなウサギキングダムでデートしよう!」
「ふたりきりでもなくなるよ?」
「イイヨ!遊園地はソーユーところ!」
そう…なのかな。正直に言うと僕も遊園地で遊ぶなんて経験はない。その点では彼に従うのが正しいのかもしれないね。
「わかったよイジョンくん!」
君に任せる、と笑うとイジョンくんはどこかほっとしたように視線を外した。
ダイスケがウサギキングダムを貸切にしようと言い出す気はしていた。なんとなくだけれど。コジローの話を聞くダイスケがきらきらした目で楽しかっただろう、いいな、よかったね小次郎と笑うから。ほんの少しだけ、寂しそうに。だからボクがダイスケを楽しませてあげたくて、彼のスケジュールが空いた頃に一緒に行きたい、デートしたいと言うと一瞬だけ戸惑った目をした。多分、「いいのかい?」といった意図の。なんの伺いかはわからないけれど、ボクがそれにNOと言う訳が無い。案の定貸切にしようだなんて言うから、貸切にしなくたっていいんだと説得してみた。ボクら以外誰もいない遊園地ではアオハル出来ない気がする……色々と気を遣っての提案だろうけれど。一緒に行こうね、と約束した日に待ち合わせをしてウサギキングダムに向かった。ボクは初めてで、ダイスケも初めてだと言っていたけれど本当に物凄くかわいらしい遊園地で。
「ご覧イジョンくん!うさぎがいるよ!」
「モコモコモフモフだネ……ハワワワ…」
「あははは、なんて声を出しているんだい」
「ダイスケ…膝に乗せてみて…」
「どれどれ……ハワワワ……」
同じ声が出ちゃうデショ。温かくてフワフワ…あ、耳の下が一番温かいネ…連れて帰りたい…その気になれば広場から動かないまま一日が終わってしまいそうだった。また後で絶対来ようと誓って離れ、遊園地のマップを広げて本格的に回る事にした。
「ダイスケはジェットコースターヘーキ?」
「どうだろう。乗った事がないんだ」
「おけまる!ボクは韓国で乗った事あるヨ!高いところはダイジョブ?」
「大丈夫!」
仕事で乗っただけだけれど。高いところが平気ならきっと大丈夫だろう。多分。逸る気持ちそのままにダイスケの手を握りジェットコースターに向かった。少しの時間並ぶ事にはなったけれど割とすぐに順番が回ってきて、運良く最前列に乗ることが出来た。並んでいる途中で響き渡る悲鳴で少し恐怖心が芽生えてしまったのか、どこか顔色が悪いような。
「ダイスケ?」
「だ…大丈夫だとも。ところでイジョンくん?この安全バーは絶対外れる事は無いんだね?」
「エート…」
「外れる事があるのかい!?」
心配ならもう一度確認してあげようか。安全バーを下ろしてちゃんとしっかり固定されてるか確認しているとちゃんとスタッフも見てくれた。
「ダイスケ…手、繋ぐ?」
「…いや!遠慮しておこう…」
「エッ…」
「今握ったら握り潰してしまいそうだからね…!」
まさか断られるとは思わなくて驚いてしまったけど、握りつぶされるのはもっと困る。行き場のない手で安全バーを握った。
「はっ…はっ…」
「だ…ダイスケ、」
「大丈夫!問題ない!」
最初の下りに入る前に登ってゆく、チキキチ…という機械音で緊張がピークに達したらしく、ダイスケの呼吸が荒くなる。心配で楽しむどころじゃない。
「声っ…声を出した方が楽になれるんだろうか…」
「声?」
「むしろ逆かな!?声を出すから余計に恐ろしくなるなら我慢した方が…」
「ダイスケ、そろそろ下りが」
「だ、出してもいいかな!?やっぱり、声……ッひ、」
がっくん、と落ちた瞬間ダイスケが声にならない悲鳴を上げた。
イジョンくんの手を借り、がくがく震える膝でなんとか歩く。ボクは思い知ったよ…ジェットコースターとはとんでもないものなのだと……上手く歩けないなんて、まるで……いや今はよそう。
「ダイスケ、ダイジョブ?」
「す…少し、時間が欲しい」
「モチのロン!………ぷ、ふはっ」
少し休めば回復するだろう。そう言うと快くベンチを勧めてくれたけれど、僕を座らせた彼は途端堰を切ったように笑い出した。
「イジョンくん?」
「だ…ダイスケ、さっき。「声を出させてー!」って、あはっ」
「そ、それは……錯乱していて」
「「頼むから声をー!」って、だ、誰も声を出してはいけないなんて、言ってない、のにっ、アハハハハ!」
落下の恐怖で錯乱したまま叫んだ言葉を改めて指摘されると流石に恥ずかしいのだけれど。お腹を抱えて片手で顔を覆い大きな声で笑っている珍しい彼を見ると、いまさっき命の危険すら感じる恐怖を味わったところではあるが、今日共に来る事が出来て良かったと心からそう思える。
「ハー…ダイスケ、みあねー」
「…いいよ。恥ずかしいからみんなには秘密にしていて欲しい」
「おけまるー」
笑い過ぎて涙目になっている。少し座って落ち着けたから気を取り直し次のアトラクションを目指した。
「コーヒーカップ!とっってもカワイー!」
「形状はティーカップのようだね…初めて乗るよ」
「ボクも初めて」
並んでいる間に乗っている人達を見ていると、カップの中にあるテーブルのようなものを掴んでぐるぐる回している。上がる悲鳴は先程のジェットコースターのものとは違うがなかなか激しいアトラクションのようだ。落下系は苦手だと知ったが回転系はどうなのだろう。どれも初めてのものばかりだ。順番が巡り、ピンクのカップの中に入る。カップは周りと同じようにくるくる回るがテーブル…ハンドルを回すと自在に回るスピードや回転数を変えられるらしい。軽快な音楽と共にステージが回り、みっつずつの台の上でカップが踊る。ええと…周りを見るに、そろそろ張り切って回しても良いようだ。
「いくよイジョンくん!」
「負けないヨ!」
んっ?勝負なのかな!?なんの勝負になるのかわからないが、お互い主導権を譲らず、右に左にとハンドルを回し同じ回に同乗したどのカップより激しく回った自信がある。回している間は夢中になっていてわからなかったけれど、カップが止まって降りる時に思い切りふらついてしまいイジョンくんにぶつかってしまった。
「おっ、と」
「ゴメンネダイスケ」
どうやらそれは彼も同じだったようで、同じタイミングでふらついて同時にぶつかった。
「わ、わっ」
「大丈夫かい?掴まるといい!」
「ダイスケもフラフラ……アハハッ!」
自覚していなかったけれどかなり目を回してしまったようだ。平衡感覚を失った状態で手すりに掴まりながらなんとか最寄りのベンチにふたりで座る。イジョンくんは何かがツボに入ってしまったようで先程のように大きな声で笑っている。
「ボク、回るのは得意だヨ」
「回る?」
「レッスンで………アー…ボク、むかーし、これくらい小さい頃バレエやっていて」
これくらい、と手で作ったサイズはおやゆび姫サイズだが。レッスンと聞いて向こうでのダンスレッスンの一環だと察した。
「フェッテも得意!イチバンながーく回れるケド、コーヒーカップはギブだヨ……目回って、フラフラ。ダイスケはヘーキ?」
「落ちるものよりは命の危険がないからね」
「アハハハハ!」
きりっと凛々しく言ったけれどそれもまた面白かったようでしばらくお腹を抱えて笑っていた。それにしてもイジョンくんがレッスンとはいえバレエもやっていたとは…いつか見たいものだ。見たいと言ったら見せてくれるのだろうか。バレエだけでなく、本当の君の事を知りたいと僕が言えば教えてくれるだろうか。それとも僕であっても、……
「ダイスケ!あとふたつでコンプリートだヨ!」
「complete?」
「お化け屋敷と、観覧車」
お化け屋敷!?その響きにぎょっとしてしまったが、どうやらウサギキングダムのお化け屋敷はコースターで屋内を回るアトラクションらしい。
「ダイスケはホラーがニガテ、観覧車乗って終わりにしよう」
「ああ、大丈夫さ。お化け屋敷、行っても構わないよ」
「エッ!」
自分の足で歩くなら一生前には進めないかもしれないが、コースターで自動で進むなら問題はない。それに僕が苦手なのはこう…白く透明なゴーストとぐちゃぐちゃになった死体。イギリスではそういったホラーが多かったのと、舞台が祖父の家のような大きな屋敷であった事から昔はイギリスは日帰りで行きたいと両親に頼んで困らせた。火葬の日本ではぐちゃぐちゃ系は少ないだろうし、ひゅ〜どろどろどろ…といった感じに出てくるゴーストは僕の苦手なものではないだろう。お岩さんの話だって平気だったのだ。
「怖かったらボクの手をギュッて握ってイイよ」
「問題ないとも!」
ジェットコースターで随分心配かけてしまったようだ。大丈夫、このコースターは途中で落下するギミックもないようだから。そもそも作り物だし、いよいよ怖いと思ったら目を閉じて仕舞えばいい。どこかで旗が立つ気配がしたが気のせいだとも!
「本当にすまない…………」
「ひっ………ひぃっ……」
「…イジョンくん」
「ひっ……は、っ…だ…ダイスケ、あんな、あんなふうに、怒ったって……ひっ…」
今日のイジョンくんはとてもよく笑ってくれるね!全く問題ないと思ったのだが、僕が想定していたものよりうんと凝ったものだったのだ。お化け屋敷が。ふたりでひとつのポットに乗り、コースターで緩やかにスタートしたとの同時にポットのスピーカーから物語が音声で流れたのだ。音はいけない。目を閉じたって耳を塞いだって入ってきてしまう。僕は……幼い頃から、自分を怖がらせるもの全てに理不尽に怒ってしまうという良くない癖がある。だから「そんな話を聞かせないでくれ」とか「やめてと何度言ったらわかってくれるんだ」とか「終わり!もう終わりだよ!……終わりだって!」と怒ってしまった。その度にイジョンくんに「機械だよ」「そういうシステムだよ」と宥められてしまって………しまいには「君のせいだよイジョンくん!!どうしてくれるんだ!!」とまで……本当に申し訳ない。乗ると決めたのも大丈夫だと判断したのも自分なのに……気を悪くしただろうに、と彼を伺うと声も出ない程に笑っていた。
「おわりだって、いっても、コースターは止められない!なのに、ずっ、ずっと怒って…」
「すまないねイジョンくん…恥ずかしいところを見せてしまったよ…」
「イチバン面白かった……ハー…腹筋ムキムキになるヨー」
彼の楽しみ方は特殊だな。……作り物だとわかっていたのに。否、作り物だからこそ想像し得る最大の恐怖を作り出せるのかもしれないね……とても疲れてしまった。お化け屋敷が終わって観覧車に並び、乗った頃にようやく落ち着いて謝罪したがその間ずっっっと笑っていた。怒っていないようで安心したけれど、そんなに笑う程だったのだろうか…
「上がってきたね」
「ダイスケの家見える?」
「ははは、僕の家はここから見えるような大豪邸じゃ…………見えるね。ほらご覧、あの高台の」
「見えてる!アハハ!!」
笑いのスイッチが甘くなっているのか僕の家が見えるだけでとても喜んでいる。
「今日は小次郎がクラスの子と勉強会をやっているんだよ」
夕飯を食べてから解散だと言っていたから今頃頑張っているだろうか。吹奏楽部の子達は頻繁に来るし、同じ部活の仲間だから僕も進んで仲間に入るけれど今日はクラスの子だから。出掛けによろしく伝えておくように言うだけに留めた。夕飯をうちで食べるならば泊まって行けばいいのに。
「ソッチに行っても?」
「そっち?ああ、構わないが……狭くないかい」
膝がぶつかるような狭さではないが隣に並ぶまでもないような。けれど断る理由もなく隣にスペースをあけた。ふたりが同じところに座るものだからゴンドラのバランスが崩れて傾いた気がする。ぎくりと自身が固まった。落ちたりしないだろうね?ね?
「アッハッハッハ!落ちないよダイスケ!」
思考が読まれてしまったよ……本当に今日の彼はよく笑う。楽しんでくれているならいいかな。
「今日、一緒に来れて嬉しい。ニガテなのに……ぶふっ」
「イジョンくん?」
「アハッ、みあねーダイスケ」
思い出し笑いまでされてしまった。ごめんねと謝られたけれどその顔はまだ笑ってる。
「良いんだよ。君が楽しそうに笑ってくれると僕も嬉しい」
「ダイスケ…」
「けれど…やっぱり恥ずかしいから、みんなには秘密にしておいてくれないかな」
平気平気と言っておきながらジェットコースターで足ががくがくになってしまったりコーヒーカップで目を回す程張り切ってしまったりお化け屋敷でギミックに怒ったり……恥ずかしいところを見せてしまった。
「ボクね、ダイスケはあんまり遊園地がスキじゃないって思った」
「え?」
「誘った時、ナンデ?イイの?て顔した」
「ああ……」
それは…イジョンくんが人の多い場所は避けたいんじゃないかって思ったからだ。とは言え、本当に誰の目にもつきたくないと言うなら部活動の一環であってもSNSでの露出は避けるだろうしイベントへの参加も積極的にはならないか。本人がそれでいい、そうしたいと願うなら僕は何も言うまい。なので余計なお世話でしかなかっただけで。もちろんそのまま伝える訳にはいかないね。少しだけ嘘をつかせてくれ。
「ふたりで行ってイジョンくんに楽しんで貰える自信がなかったんだ。僕は遊園地に行ったことがなかったから」
今は克服したけれど、昔小次郎は乗り物に本当に弱くてね。だから遊園地に遊びに行くといった選択肢がなかったのだ。友人と行く機会もなかなかなかったね。
「ダイスケ、きょあな」
「えっ!い、今かい?いいとも、でもゆっくりだよ」
ハグして、と言うけれどこんな不安定な場所で…ゆっくりで、と言ったのに腕を広げると思い切り飛びつかれてゴンドラが揺れる。思わず漏れた声にもまた彼は笑う。悪戯っ子で困ったよ!むぎゅ、と腕が回って彼の背を撫でる。顔を上げたイジョンくんとぱちりと目が合い顔に熱が集まった。
「…いけないよ?」
「ダメ?」
観覧車のゴンドラはふたりきりの空間ではあるけれど外からは丸見えだ。前後のゴンドラがこちらから見えるという事はつまり、僕らも見えているということで。ゴンドラが観覧車の頂点にきた時にキスをする、というのは物語の中だけであって…人に見られてしまうかもしれない環境では…
「ふたりきりの時だけだよ」
「ムゥ」
妙なところで僕を上回るロマンチストになってしまうな。元からの困り眉を更に下げて唇を尖らせてしまった。
「じゃあ、この後ボクの部屋来てくれる?」
「え……あ、」
すぐ近くにある彼の目が熱を持って濡れている。言わんとしている事がわかって心臓が高鳴った。
「……いいよ。行こう」
「ヤッタ!うれしみ!」
「ひっ!揺れる!」
「あはははは!」
ぐわん、とゴンドラが揺れてイジョンくんにしがみついた。観覧車が下に降りる頃、スタッフや周りから妙な目で見られてしまったが。
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高柳つむじ
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秘密だらけのエトセトラ
初公開日: 2022年04月17日
最終更新日: 2022年04月18日
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ひとりわんどろ特訓。イジョ大