連れ合いの頼みで譜面を起こす作業のためにパソコンに向かい何度も音を繰り返し聴いているとぽよん、とニャインの通知音がしてスマホを見る。とっくに断った同窓会のお知らせがきていた。参加メンバーが出た時から諸事情で断っていたから連絡回されても普通に困るんだけど。
「そういえばオレ、今週末大学の同窓会誘われててー」
「そうですか」
「まー行かないんだけど」
再度断りのニャインを返しつつ、ヘッドホンを外して首にかけ、汗だくで筋トレしている修くんに声をかけて振り返るとえ、なんで?行けば?と言いたげな顔でこっちを見ていた。
「いいと思いますよ」
「…や。ちょっとね」
「なに?」
「やー、その。気まずいと言うか。修くん的にも行かない方がいいでしょ」
「ああ、元カノですか。それとも元カレ?」
「んーーー…」
「ああ…セフレか」
まあ、参加メンバーの中に顔合わせるのがね、若干気まずい相手が居まして。だから断ったのだ。修くんってこういうの気にならないタイプ?ちなみにオレは気にしてくれないとイヤなタイプ。
「いいんじゃないかな、別に。私に気を遣っているなら気にしないでください」
「はあ?」
「牛尾先生もたまには羽目を外したいと思いますし。ああ、あくまで牛尾先生が本当は行きたかったという前提ですが」
あ、先生モード入りやがった。
「嫌じゃないの」
「そもそも牛尾先生は縛られてるタイプじゃないでしょう」
「はあ〜〜〜?どうすんの。再会して燃え上がっちゃったら。嫌じゃないの」
「あはは。そうですね、泊まりになる時は連絡してくれれば」
は〜〜〜〜〜????完全にむっときた。他の人とセックスしても嫌じゃないの。まさかとは思うけどこの期に及んでまだ自分は遊び相手だと思っているんじゃなかろうね。
「いいんだ!じゃあすげーオシャレして同窓会行っちゃうけど!」
「いいですね!写真撮らせてください!」
溌剌とした笑顔で言いやがって…完全に臍を曲げたオレはスマホを片手に意気揚々と立ち上がった。今から服選んですんげえオシャレしてやる…半ばヤケクソでクローゼットを開けた。今日の牛尾先生は閉店です。譜起こしはまた後でやるね。
「それで?言えたの?行かないでって」
「バカねえ〜!言えなかったからここに来てンのよ!」
「………」
週末、かつて彼と出会ったゲイバーに来てやけ酒に付き合ってくれたおねえさん方に事のあらましを説明して麦焼酎一階堂を煽る。行ってもいいなんて、これっぽっちも思っていなかった。いなかったけれど、行かないで欲しいとも言えなくて余裕ぶって送り出してしまったのだ。本当は行って欲しくないし、余裕なんてないし、自分以外の誰ともセックスして欲しくない。この本心があまりにも幼稚で面倒で、どうしても言えない。
「言えばよかったのよぉ。喜ぶと思うわよ?」
「…そうかな…うれし〜って顔より、うわあ、って引く顔の方が想像出来るんだけど」
「悲観しすぎよつっしー。もっと自分に自信持ったら?」
「自信はあります」
最近プランク重点的にやってこの、この辺がうまいこと仕上がってきてて、と腕と腹と足に力を入れると服から悲鳴が上がる。破けちゃうよーと言ってる、気がする。
「筋肉じゃなくて。前にも言ったけどうっしーが自分から誰かを誘ったのなんてつっしーが初めてだったわ」
「ははは、光栄だな」
「その爽やかなスマイル見せてる時は一ミリも信じてない時の顔だってうっしーが言ってたわよママ」
「んもう!」
喜ぶはずなんてない。ああ、修くんってそんな感じの子なんだ、と呆れられたらどうする。嫌われる可能性は全部潰しておきたい。俺は一切重くなくて、気楽で、便利で、都合のいい人間でいた方がいい。だから他の誰かを抱いた体で俺を抱いたって、気になんか………
「怒ってたんでしょ?つっしーが止めてくれなくて」
「怒ってたのは…多分、大学時代の恋人やセフレが同席するんじゃないかって詮索したからで」
思えばその辺からむすくれていたのだ。俺がうっかり面倒なことを言ってしまったのだろう。やらかしたなあ…
「ママさん、おかわり」
「アンタ今日はもう帰んなさい」
「ママさん今日のファンデ、エプスリークからプレマヴィスタに変えたでしょ。いいね、それ。サラサラしてるから好きだな」
「んも〜〜〜〜〜つっしーだけよアタシの化粧の違いに気付いてくれるの〜〜」
「おかわり」
「…一杯だけよ!」
「やった」
「ママ…」
その一杯以降はどう頑張ってもママさんが首を縦に振ってくれなくて渋々帰ることになった。誰もいない、一人取り残された家に帰るのが嫌だから飲みに出かけたのに。たった一人で、いつ帰ってくるかわからない人を待つなんて。今日、帰ってこないかもしれないのに。ものすごくおしゃれして行ったな…彰利くんは自分の良さを熟知しているからどの服を着ても素敵だけれど、今日は格段によかった。暗い部屋に帰り、電気をつけてリビングのソファに座る。空気がやけに冷えて感じて、ソファの上で膝を抱えた。窮屈、狭い。でも今はそれが心地いい。
そのまま何もつけていない真っ黒な画面のままのテレビをじぃと見つめ、壁にかけた時計の秒針の音を黙って聞いていたら玄関が開く音がした。この家の鍵を持っているのは俺と彰利くんしかいない。帰ってきた?パッと顔を上げたがさっきまで落ちに落ちていた気分が上がってきた気がする。駄目だな、顔に出てはいけない。あくまで何も気にしていません、あ、帰ってきたんだ、とでも軽く言ってしまえばいいのだ。
「ただいまあ」
「あ、か………赤!」
「あづぅ…」
全然余裕ですけど、と言う顔で出迎えるつもりが、帰宅した彼の顔が真っ赤っかでなんかもう、全部飛んでってしまった。
結論から言うと同窓会には行ってない。言ったじゃん、断ったって。ちょっとは妬いたりしてくれるかと思ったのにケロッと見送ってくれちゃうもんだから少しくらい焦って欲しくて外で時間潰してきただけなのだ。たまに行ってたゲイバーのママから「アンタ今すぐ帰んな」と鬼ニャイン来てて帰ることにしたんだけど、時間潰してた場所が場所なものだからそのニャインを確認するのも随分遅れてしまって。帰ると修くんは開口一番に赤!と叫んだ。やっぱり?
「そんなに飲んできたんですか?」
「いや…飲みになんて行ってないし」
「え?」
「妬いて欲しくて時間潰しに出てただけ」
「どこに…」
「健康ランド」
どんくらい時間潰せばいいかわかんなくてとりあえず風呂、と健康ランドに行ってきた。ほらほら触ってみ、と修くんに近づくとなんでかソファで小さくなってる。隣に座り手をとって頬や首を触らせた。
「あっつ」
「あったまりすぎた」
一回風呂入って、上がってマッサージチェアで微睡んで、そんでもう一回入って露天風呂で長湯して…上がる頃には若干のぼせてた。
「本当に健康ランド?」
「嘘ついても意味なくない?つくならもっとかっこいい嘘つくよ」
「キメキメにおしゃれして?」
「いーじゃん抜群にオシャレして健康ランド行ったって!」
なんか恥ずかしくなってきた。結局ケロッとしてるし、今日の休み無駄にした気分。これなら不貞腐れずに修治と一緒にいればよかった。もったいねー。
「なんだ……行かなかったのか……」
「ん?」
「そうか………なんだあ…」
見るからに脱力した修くんが窮屈そうに膝を抱く腕に顔を埋める。ソファ狭そう。や、そうじゃないね。修の髪に触れるとワックスの感触があって、そのままくしゃりと撫でた。そうだった。あんまりにもへっちゃらな顔で送り出されたけれどこの子はさみしいのが大の苦手。うまく隠されたかもしれないけど。
「ほんとは行って欲しくなかった?」
「………」
ウン、とぐぐもった声が漏れる。
「なんだよ最初から言えよ!」
「言えるわけないじゃないか!」
「おおっ?」
こいつめえ、と肘で小突いたら勢いよく顔を上げてぼろぼろ泣き出してしまった。
「面倒な男になりたくないんだよ、嫌われる要素は一つでも減らした方がいいじゃないか!行かないでくれなんて、そんな。言って、困らせたくない」
ひぐ、としゃくりあげるのがかわいそうでぎゅうと抱き背中を撫でる。あらら、泣いちゃった。
「かわいそうに。かわいいね」
「ぅぅぅうう」
恨みがましい唸りが聞こえるけど知らんぷりしとこ。
「さみしんぼなのになんで突き放そうとすんの。一緒にいようよ。行くな、俺を離すな、くらい言えよ」
「うう…」
「よそ見すんなって叱ってよ。オレはそっちの方が嬉しい」
修くんに叱られる自分を想像してちょっと面白くなってきた。いいね、叱られてみたい。……叱られるだけならアレだけど、グーで制裁されるとなると…アゴ、砕けるかな…想像してゾッとした。
時々ふっと忘れてしまうけどこの子は寂しんぼなのだ。一人でいるのが下手すぎる。今だってテレビもつけないで小さくなってさ。上背と筋肉で全然小さくないけど。それなら最初から行かないで、一緒にいてくれって甘えてくれればいいのに言えないのだ。かわいそうに。かわいいね。
色々と自分で考えているのか、ゆっくり顔を上げた修治は目を赤くしながらももう泣いてはいなかった。
「ねえ、いつか一緒に死のうね」
「え」
「ん?あーなんか違うな、言い方変」
一緒に年取って、一緒の墓に入ろうねって意味で言いたかったのになんかうまく言えなかったな。そうしたら寂しくないでしょう、と思ったんだけど言い方がおかしくなってしまった。一緒に死のうだなんて物騒。
けれど言い直す前に彼の目に光が灯る。
「………ウン」
今まで見たどの顔よりうんとかわいい顔で小さく頷いた。………こんなんでいいんだ。
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ハリボテ・ドルチェ
初公開日: 2022年07月08日
最終更新日: 2022年07月08日
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コメント
付き合っていて同棲している牛尾先生×先生(つしま)
津島先生という存在の説明が不要な方のみでお願いします!
おっと、誰か来たようだ
愛実×了太郎 おべんとう気合い入るよね…彼氏のだもんね…終始眠たい気持ちで書いてたので打ち間違いだら…
高柳つむじ
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プチプチする左京さんに寄り添う各組+α 春:こっそり近付く千景 夏:△プチプチあげる三角 秋:106…
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