傘に跳ねる雨の音、水溜まりに反射する街灯のオレンジ、仕事終わりのくたくたの身体、早く家に帰ろうという気持ちすら浮かんでこない週の真ん中で突然知らない声がした。
「やぁ、久しぶり」
知らない、というのは厳密には違った。聞き慣れないが正しいだろうか。それでもテレビの中でこの前聞いたばかりの声であることは確かだ。
プロテニスプレイヤー幸村精市。
火曜日の、夜10時に、こんな住宅街の真ん中で会うような人間じゃない。
ついに幻覚でも見たか。はたまた怪奇現象の類か。
「あれ、無視しないでよ」
傘を下げて目線を合わせず、足早に横をすり抜けようとしたのに、腕を掴まれ阻まれる。
大きい掌の感触と体温がちゃんと生きている人間であることを伝えてくる。
自然、目線が上がる。
有無を言わさない圧が、幸村精市であることのこれ以上ないことの証明だった。
「ね、ちゃんと迎えに来たよ。泊まるところないし、家行っていいよね?」
「……警察呼びますよ」
「なんだよ。俺が誰かなんて分かってるだろ。傷つくよ」
腕を掴んでいた幸村くんは流れるように私と手を繋ぐ。
恋人繋ぎだ。そのまま進行方向に勝手に歩き出した。前後に揺れる腕は子ども染みている。
「家分からないよね? 分からないって言って、怖いから」
「俺を何だと思ってるの? 分かんないけど、こっちに向かって歩いてただろ」
「なんでこんなにご機嫌なの」
「やっと好きな人に会えて浮かれない男がいる?」
「なんでテニスやめちゃったの」
拗ねたような声だ。実際拗ねているのかもしれない。自分で自分の気持ちが分からないくらいには幸村くんの会見から整理をつけられていない。他人の人生なのに、幸村くんが決めたことなのに、子ども染みているのはどっちだ。
「お前、俺の会見ちゃんと聞いてた? 辞めるんじゃなくてお休みだよ」
「一緒でしょ」
「全然違うだろ。馬鹿だなぁ」
「幸村くんが何も言ってくれないのが悪いんじゃん」
「それで怒ってるんだ?」
「怒ってない」
「あはは、かわいいなぁ」
幸村くんが私の顔を覗き込んでくる。にこやかに笑う顔は屈託なく、たまに出る禍々しさは今は鳴りを潜めているようだった。それでも表情には疲れが滲んでいて、ヨーロッパからの長いフライトの後ですぐに来てくれたのが分かった。
「でも機嫌直してよ。折角お前の顔見たくて帰って来たのに、怒ってる顔ばっかりじゃ悲しいよ」
「いつ帰るの」
「来たばっかりなのに帰りの話? さぁね、俺の気分次第」
飄々と答える幸村くんに対して、なんだか虚しさが湧いてきた。
この人は自分の不調や不安を人に話さない。それが中学の時から悲しくて、むかついて。
そっか、私、幸村くんが言ったように、幸村くんに怒ってるんだ。
昔からずっと、幸村くんに怒ってたのかも。
「一人で勝手に決めないでよ。私のところに戻ってくるのも、私のところから居なくなるのも、テニスも、人生も」
視界が揺れるのは雨が目に入ったから。鼻をすすったのは風邪の引き始め。
涙声は、誤魔化せないかもしれない。
「二人のことでしょ」
「二人のことにしていいの?」
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しらたまあんこ
しらたまあんこ
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しらたまあんこ
今 幸村くんか半兵衛様か譲歩してユウジ
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しらたまあんこ
分かる~ 帰るのもだるいんよね
63:11
しらたまあんこ
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ワンドロ
初公開日: 2026年07月21日
最終更新日: 2026年07月22日
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テニヌ幸村夢ワンドロ