何をしよう、反射、抜けるような青
いやに暑い夏、抜けるような青、快晴無風。入道雲が象徴的な夏の日。
何をしよう、何をしようにも暑すぎる。窓からさす容赦ない日差しは、カーテンで遮っても主張が強いまま。
春先に喜んでいた窓辺の席も、夏ではこのざまで。
ホームルーム終わりのこの教室に残っているのも、先生に呼ばれたあいつのせいで。
一目散に教室から人がいなくなる夏休み前、最後の登校日。冷房の効く教室にいても、帰り道を想像すると汗が止まらなくなる。
「もう帰ろうかなぁ……」
「へぇ、俺を置いてこうって?」
「げ」
反射的に声のしたほうを見る。後ろの扉にもたれながら、こちらを見る待ち人。
「げってなんだよお前、アイス食いに行くって言ってたのはお前だろ」
「そうだけど、先生に呼び出しくらってこんなに待つなんて思わなかったんだもん」
ひとり孤独に教室で30分。思ったよりも待った。
「へーへー悪かったって。好きなの選べよ。ただし、レギュラーダブルまでな」
「割とご機嫌?お言葉に甘えちゃお!ほら、はやく行こ!ローエン!」
「本当に調子いいやつ」
二人並んで歩く、飛行機雲、手を伸ばして
逸る気持ち、大きな伸びをして、海も空も青
裸足のままで、潮風が頬を撫でる、真っ白な
靴を脱いで、素足のままで。水に触れた。
冷たいのかぬるいのか暑いのか、照りつける陽のせいか何もわからなくなる。
さらさらと砂は足元を崩していく。夏、だなぁ……
一線、光る水面、水平線。きらきらとした反射が眩しい。
ぬるい潮風が頬を撫でる。潮のベタつきが気持ち悪い。
「水着に着替えてからって言ったでしょ!」
浜辺から蛍の声が聞こえる。
「海も暑いよ!」
「これだけ陽が強ければね」
膝まで海に踏み入れた私を呆れながらも、一緒に海まで入ってきてくれる蛍。
「ほら、はやく着替えよ?」
真っ白な腕がまっすぐ伸びて、私の手を掴む。
「うん、そうする。あとで、かき氷食べよ!」
「また、食べ物ばっかり。パイモンとお兄ちゃんもいっしょだからね」
「みんなで食べたほうがいろんな味楽しめるもんね!」
「もう!」
水に濡れた足に、浜辺の砂がついてじゃりじゃりとする。
それは、海の足跡。夏の思い出。
砂浜に足跡、きれいな貝殻、寄せては返す
足首を濡らす、空の色、振り返らずに
優しい波の音、穏やかに過ぎていく、月明かりを映す
静かに波が寄せては返す音。少し急に岩肌に当たる波の音。夜の砂浜の静かで優しい波の音。
夜のような、暗い霧に包まれているここは、いつも時間がわかりにくい。
でも今は確かに夜。手元の懐中時計は規則正しく音を鳴らして、私に正しい時間を教えてくれている。
……それにいくらいつも薄暗いとはいえ、昼の薄暗さと夜の月しかない時間は流石にわかりやすい。
前にフリンズさんが、旅人さんが灯台を直してくれたと言っていた。そのおかげで、以前よりかは、安全にここへ来れるようになった。
光に導かれているみたいといった私を、フリンズさんはなんて言ってたっけな。
灯台を目指して、そこから道なりに歩いて、坂を下って、海を見る。炎にも照らされて、温かくて、明るい。
そこで、ぼーっとして、穏やかに過ぎていく。砂を蹴って、寄せては返る波を追う。そのまま、波に追われて、靴が濡れた。
「おや、また波と遊んでいたのですか?」
「うん、今日は負けちゃった」
「……今日もですね」
私の濡れた靴を見て、そうつぶやく。海と砂浜の境界線は、夜になると一等あいまいになる。濡れた波の後に惑わされて。
「それでフリンズさんは、今帰ってきたの?」
自業自得の濡れた靴で砂を踏む。砂はきっと、靴底についている。
「ええ、戻ってきて丁度、海を見たら貴女がいたので」
「うん、お邪魔しちゃった。気分も晴れたし、帰るね」
離れる前に、月明かりを映す水面を見る。穏やかな海面にやわらかな月明かりが道を作る。
手を引かれた。踏鞴を踏んで、転びそうになって、背中が何かにぶつかる。硬い装飾が当たって痛い。
「フリンズさん?」
上を見あげる。じっと私をみる月が少し怖い。
「いえ、また海に向かっていかれるのかと」
「もう帰るよ……フリンズさんにそう言うこと言われると本当に怖いし、なんだか月に魅入られそうだし」
「ええ、せっかくですからお送りいたしますよ」
「それは頼もしいね、紳士なライトキーパーさんおねがいしますね」
軽口ひとつ、安全な帰路。近くの月は安全をくれる。遠くの月はきっと海へ。