そう、私は一人じゃない。
その認識が、どんな[[rb:霊薬 > エリクシル]]よりも強力な覚醒効果をもたらし、リーチェの意識瞬時に正常化させた。
両腕がほとんど自動的に動き、機体を加速。自機後方にベアトが占位していることは確認するまでもない。
群がってくる[[rb:使い魔 > ファミリア]]たちの上げる叫喚も、今のリーチェには遠い。
殺到する肉塊の隙間を縫うようにバレルロール、残ったバフォメット級に照準する。
リーチェが[[rb:十字砲架 > クルセイダー]]の砲身を展開すると同時に、後方からベアトが誘導弾を一斉発射。弾頭が炸裂し、[[rb:聖灰 > ビブーティ]]をバフォメット級の眼前に散布。
目を晦まされたバフォメット級が感覚を回復するわずかな間にリーチェは位置を調整、バフォメット級3体を射線に収める。
転瞬、展開された[[rb:十字砲架 > クルセイダー]]の砲身から放たれる雷霆の如き一撃。中級以上の[[rb: 悪魔> トイフェル]]の防護膜を確実に貫通できる聖別武装「[[rb:雷霆 > アーチボルト]]」の一閃が、バフォメット級3体をまとめて貫通する。
宙域に響き渡るおぞましい叫喚も、リーチェの耳には届いていない。代わりに、ノイズの向こうから聞こえてくる最愛のパートナーの声に耳を傾ける。
『まったく……リーチェってば、私がいないとダメなんだから』
「……ごめん、ベアト」
『あなたも立派な「リンボの騎士」なんだから、しっかりしなさいよ。でないと……』
でないと。そう。ベアトはもう――。
『あなたもいつか、こうなっちゃうわよ』
その声は耳元からはっきりと聞こえた。いや違う。その声が聞こえてくるのは――。
ベアトの声に気を取られていて気が付かなかった。さっきから、コクピット内に[[rb:警告音 > アラート]]が鳴り響いている。
[[rb:至近距離 > レンジ・ワン]]。
ベヘモト級が、眼前にいる。その長大に伸びた鼻の奥、暴食を司るその口内から最愛のパートナーの声が聞こえる。
優しく抱きしめてくれていた腕が、慈愛の光をたたえた瞳が、やわらかく暖かなその肢体が、噛み砕かれていく。咀嚼され、悪夢の中に消えていく。
リーチェは吐血するように叫ぶ。しかし、その声はどこにも、誰にも届かない。届けるべき相手は、もう――。
――そこで、いつものように目が覚めた。
慣れたのか、麻痺したのか、それとももう、悪夢にさえも飽きたのか。
同じ悪夢を夜毎に見続けても、もうリーチェは絶叫とともに目を覚ますことはなくなっていた。