正直、悩んでいた。
人生初の告白をされた。ついでのように本命チョコを渡された。全然ついでじゃないが。
まぁその相手というのがまさかの日向さんだったけれど。
確かにいつ頃からかバスケ部連中と遊ぶ時に一緒にいることは多かったけれど、俺としては体育祭で叶センセイと一緒にメタクソに言われてたから、そういうのはないと思ってたし、なんなら義理チョコももらえるかどうか、という枠に入っていた。ちなみに案の定叶センセイからは義理チョコすらもらえてない。槙はもらえたらしい。
それはさておき、日向さんのことは別に嫌いじゃなく、むしろ好ましかったのだから、俺は一も二もなくオッケーと快諾した。いや嘘だ。まさかの告白に一分は余裕で固まってた。
ただ……顔を赤くしながら一生懸命に言葉を吐き出す日向さんを見て、こんな子が俺を好いてくれてるというのだからそいつぁ幸せだな、なんて思ったのは確かだった。
ぶっちゃけた話、日向さんが好みのタイプかどうかというと、どうだったんだろ。分からん。俺はどっちかというと美人系が好きだから、小糸さんより七海先輩や佐伯先輩の方がストライクだ。その点、日向さんは評価が難しい。美人……とはちょっと違う気がする。顔立ちはどっちかってーとかっこいい、って感じがするけど、でも内面は意外とピュアみたいだ。そこはかわいいとは思う。付き合ってから初めて知ったことだけど。
で、だ。まぁそんなこんなで日向さんと付き合うことになり、ここ一ヶ月弱を楽しく過ごしていたわけだが。
来る。ホワイトデーが。
これまで義理こそもらったことはあれど、本命は初めてだ。しかもそれが恋人。
うん。なに買やいいんだ。分かんねぇ。女心も分からなければ日向さんの好みも分からん。
その内思い付くだろ、と思ってだらだら考えてたわけだが、もう間近だ。先延ばしも限界だった。
なので。
「なーなー小糸さん」
「なに?」
「日向さんってなにが好きなん?」
放課後、生徒会室。会長夫婦が席を外している隙を見計らって、そう話を切り出したのだった。
「あー」
小糸さんは俺と日向さんの関係を知っている。日向さんと友達だというのだから当然だ。
ちなみに目の前でぱちくりしてる槙の奴も知っている。俺が自慢したんだから当然だった。
「そっか。ホワイトデーね」
「そそ。正直本命もらったの初めてだから、なにやりゃいいのか分かんねーっつーか」
「あー、そうだよねぇ」
小糸さんも同意する。一方の槙は手で口元を隠している。
知ってるぞ。こいつがそういう仕草をする時は面白がってるんだって、最近――俺が槙に惚気てたら――気付いた。「そういうのないよ」と言ってたくせに恋バナは好きらしい。おかげで思う存分惚気られるわけだが。
「それで好きな物?」
「それが無難じゃん?」
「いやそうだけどさ」
逆にそれ以外になんかあるのか? 槙はアドバイスがしたいのか、からかいたいのか、いまいち分からん。
「まぁ大体はお菓子が無難だよね」
そこで小糸さんが横から助け船を出してくれる。槙に比べて小糸さんは真剣に答えてくれる。天使か。
「あー、チョコもらったから?」
「最近じゃバレンタインとかホワイトデーで渡す物にも意味が付けられてるみたいだけどね」
「え、そうなんだ?」
およ、小糸さんも食い付くな。まぁ友達多そうだもんな。渡すのももらうのも多そう。
「とりあえずホワイトデーだとクッキーとかグミは止めといた方がいいみたいだよ。物だとハンカチとか靴とかも」
へー、と相槌を打つものの、分からん。
「そうなんだ。朱里クッキー好きなんだけどな」
「なんつーか、めんどくさいよなー。そうやってなんでも意味を付けるなんてさ」
椅子に寄りかかって溜め息を吐く。
実際問題、そうやると逆に選びにくくならないか? あれもだめこれもだめ、って。
好きなもんに意味を付け過ぎたら、肝心のことが見えなくなるんじゃないか。相手が好きなら好きでいいだろうに。
「まぁね。もらった側が嬉しい物にそうやって付加価値を――逆に欲しくない物にもそうやって付けていったのかもね」
「結局、もらう側が嬉しければいいんじゃないかな、多分」
槙と小糸さんがそれぞれいい話風にして締め括ろうとする。が、ちょっと待って欲しい。
「だからそれ聞いてるんだよー」
話が振り出しに戻っただけじゃないか。
俺がそう言うと、槙が呆れたような溜め息を吐いた。
「ていうか付き合ってるならそれくらい分かってもいいんじゃないか?」
「一ヶ月でどこまで分かるっつーんだよ」
「でもそれまでも一緒に遊び行ったりしたんじゃない?」
む、と口を噤む槙に代わって、小糸さんが前のめりに口を開く。
いや、それはそうなんだけど。
「いやー、そん時ゃあんま意識してなかったから……」
「……大変だなぁ、朱里」
槙どころか小糸さんまでがっくりと項垂れる。
「なんだよーいじめかー?」
「いじめっていうか、心配? 朱里の」
なんでそこで日向さんの心配が出てくるのか。分からん。
「ていうかデートでなにやってんだよ、お前」
「えー。日向さんかわいい?」
「だめだこいつ、早くなんとかしないと……」
なんだなんだ。どうして俺が責められるようなことになってんだ。ホワイトデーの相談だったよな、これ?
そうやって、一年生ズによるホワイトデー作戦会議は、会長夫婦が帰ってくるまでだらだらと続くのであった。