するり、と手が腕を撫でた。
おや、という顔をして瞬いた手が、もう一度。
するり、するりと何度か腕と肩を往復する。
そうしてほう、というため息の後にくすりと愉しげな吐息。
「なるほど、すごいですね。これほどまでとは」
「? 何が……?」
「おや、起きてしまいましたね。おはようございます、正義」
「おはよう……早いな、リチャード」
珍しく相手の方が早く目を覚ましたらしい早朝。
夢半分の中素肌の上をなぞっていた指が、もう一度。
今度は筋肉の筋でもなぞるように動くので、わざと力を入れてみたら盛り上がった筋肉の動きにまた吐息が笑みを含んで揺れる。
「温泉美人という言葉があるそうですが。たった一晩の入浴でこれであれば、毎日こちらのお湯に浸かっていたら、さぞ肌に良いのだろうと」
「え? うわ、ほんとだ! つるっつる!」
くすくすとまだ笑ったまま手が撫でるのを聞いて、首を傾げながら腕を撫でてみれば確かに腕はつるつるで、カサついたところなどほとんどない。まさに温泉さまさまだ。浸かってきたのは昨夜だけなのに、一晩経ってもこの効果。
自分の腕に触って驚いた声を上げたこちらにもう一度楽しそうな光を瞳に宿した指が、ふいに先程まで撫でて遊んでいた腕を掴まえる。軽く引かれて瞬くうちに、導かれた手のひらに押し付けられた、これも温泉の効果なのか普段よりも一段白く見える肌。
こてりと傾けられた顔にかかる、少ししっとりとした髪と、その間から覗く青。
寝起きで少し乱れたままの、浴衣の襟。
「 」
いっそ眩しいほどのそれに思わず見惚れているうちに、何かを聞き損ねてしまったのだけれど。
恐らく、自分が思ったことと大差ないのだろう。
朝食は一番遅い時間にしてあるので、時間はある。
つるつるすべすべの温かさに飛び込みながら、「朝風呂はまた今度」と笑った声は、二人綺麗にハモって聞こえた。