その日、イレヴンは裏店通りをぶらついていた。特に目的があるわけではない。ただの暇つぶしだ。
面白いものがあれば乗り、何もなければ通りを抜けて、露店で買い食いするのもいい。
路上に並ぶ物売りを眺めていると、ふとパーティメンバーのことを思い出した。
リーダー、今日は何してるかな、依頼受けようって話も無かったし、また読書かな。
遊びに行ったら相手してくれるだろうか。まあ、今日はそういう気分でもないけど。
などと考えていたせいだろうか。曲がり角の先に、ジルとリゼルが立っているのを見つけた。ジルはいつも通りの不機嫌顔が三倍増しだが、隣の男は少々機嫌が良さげだ。
(この界隈をうろついてるってことは、多分リーダーが強請ったんだな。それか、たまたま入り込んできたのをニィサンが発見したか)
探し物でもあったんだろうか。それなら自分に声をかけてくれたら良かったのに――と思いながら、二人の様子を伺い、声を掛けるかどうか迷った時だ。
二人が立ってるのが、娼館の前だと気が付いた。
イレヴンの動きがピキッと凍り付いたのは、無理からぬ話。
思わず持っていた飲み物を落っことし、パシャッと水音を立てたせいでリゼルがこちらに気づいた。
気付かれなくとも、ふらふらと二人の方へ歩み寄り始めていたイレヴンの顔は蒼白だ。
ふるふると手を震わせながら
「な、な、なにしてんの、あっ、もしかして依頼?」
一縷の望みをかけて、尋ねてみる。
そう、依頼かも。だって装備着てるし。いや、だとしても、こんなところに居ないで欲しいんだけど。
ぐるぐると嫌な想像が脳何を巡る。リゼルをじっと見れば、困った顔をして微笑みを湛え続けているだけで、答えを返してくれなくて。
え、まじで?
イレヴンはジルとリゼルの顔を交互に三度見くらいしてから、ジルの袖をぎゅっと掴むと
「ちょっと来て」とリゼルから少し離れた場所まで引っ張っていった。
「なにこれどゆこと」
数歩離れただけの場所で、低い声でジルに迫る。面倒くせぇ、とそっぽを向いた彼は、だがその割にはすんなり答える。
「行きてぇっつーから」
「なんで!」
なんでも何も、本人の希望だと言っているだろうに、他に理由などありはしない。
娼館へ連れてくるのは、実はこれが初めてではない。ひと月に一度くらいのペースで強請られてはジルが同行してやっている。
今までは上手く秘密にできていたが、運が悪いなと思う。こいつに知られれば、絶対に厄介ごとになるのが目に見えていた。リゼルもそれが解っていて、立ち回っていたというのに。
それにしたって、内緒にしたい相手に筒抜けの内緒話だ。リゼルにも聞かれているのにそれでいいのか、と疑問に思うが、イレヴンはまるで頭が回っていない。そんなことは許可してない、とマジギレの目で睨まれた。
「許可ってなんだ。ンなもんあいつに必要ねぇだろ」
ジルは心底呆れ果てて、阿呆か、と言い捨てる。
あれはお前より10近く年上の、なんならもう30に手のかかるいい大人だ。女の一人くらい抱きたくなったって当然だろう。そんなものにどうしてお前の許可が要るんだ。
だが何を言ってもイレヴンは聞き入れない。キッと強い目で睨みつけてきて
「要る!」と譲る気が無いのだから仕方がない。
ジルはビシッとイレヴンの額を指で弾く。
「あいつが行くっつってんだ。放っといて変なとこ行かれるよかいいだろうが」
「そりゃそーだけど!」
イレヴンだって解っている。娼館なんて、手癖の悪いところだらけなのだ。ボッタクリなんて当当たり前。貴族然としたリーダーが、ほのほの微笑みながら店を訪れたら、絶好のカモ認定待ったなしだ。
それに対して、ジルが連れてきた店は、この界隈では一番お行儀のよい店だ。良心的に接客してくれるし、女の質もいい。安心安全に遊べる店ではある。流石のチョイスと言えるけれども。
イレヴンは葛藤の末、ぬぐぐと悔し気に声を上げた後、
「リーダーに女とか無理!」
ヒンッと両手で顔を隠してしまう。
本当に、何故そんなにリゼルに夢を見たがるのか、解らない。
そりゃあ俺だって、あいつが娼婦を抱いてるところなんて想像するのも嫌だ。なのにどうして美人局みたいな真似をしなくちゃならんと理不尽も感じる。
だが、己の知らないところで遊ばれるリスクと事情が解っている場所へ連れて行くこメリットを天秤にかけた結果だ。文句を言うなら、お前がなんとかしろ、と言いたい。
だが、やだやだ期に入ったイレヴンは地団太を踏む勢いで、絶対ダメ、と言い張って、折れそうにない。
面倒くせぇ、とつむじを眺めて溜息を吐いた時だ。
「見つかってしまいましたね」と突然耳元で囁かれて、イレヴンは飛び上がった
いつもなら気が付けるはずの足音にも気づけないくらいに動揺していたらしい。焦ったイレヴンが振り向くと、困り顔のリゼルが少し目を伏せた。
「君は嫌がるだろうと思っていたんです」
だから内緒にしておくつもりだったのに、と言われるが、イレヴンは「なんでこんなことすんの」とリゼルに不満を隠さない。
だって、娼婦だろうと、そうでなかろうと、この男に女が触れるのは我慢ならないとあからさまに顔に出すと、リゼルは
「俺も一応男なんですよ」とさざめくように笑った。
「でもヤダ」
拗ねていますアピールを受け入れて、前髪を梳くように指を通し、イレヴン、と名前を呼ぶ。
「許してはもらえませんか?」
「嫌なもんは嫌」
「うーん……なら、見ていきますか?」
「はぁ?」
「そういうの慣れてますし」
いいですよ、と簡単に許可を出されて、思わず身震いする。
(貴族様怖い)
イレヴンの脳裏に一瞬浮かんだのは乱交風景だ。複数名で楽しむ行為を、イレヴン自身はしたことがない、わけ、では、ないが。
多分、リゼルが慣れている、というのは他人の監視下でのセックスのことだ。夢中になってる最中に襲撃されないように、と侍女や護衛騎士が待機している環境でしか、セックスしたことがないのだろう。以前にリゼルの羞恥心のレベルについて話をした時、「そう言われても……」と赤裸々なお貴族様の寝室事情を聞かされ、悶絶したのを思い出す。
見たいなら、と誘われるが、見てればいい、ってわけじゃないのだ。そもそも、リゼルが性的行為をすることも受け入れられないのに、公開セックスなんて言語同断、と頬を引き攣らせていると、その頬にそっと手が添えられた。甘やかすように撫でる指先が鱗の上を通っていく。
機嫌を取られている。やばい。このままではリゼルは、自分が望む答えを引き出してしまうだろう。それはダメ、と思うけれど、彼の手からは逃れられない。顔を歪めたイレヴンは、じっと瞳を覗き込まれて
「ね、イレヴン。[[rb:誰かひとり > 一般人]]を相手に決めてしまうより、こちらの方が君たちも納得できるんじゃないですか?」
例え一夜限りとしても、君は俺が、他の誰かと情を与えるような真似はされたくないでしょう。
そう、尋ねられて、イレヴンの表情がいっそう険しくなる。
想像、するのも嫌だった。今、自分がされているように、そこらの女を甘い言葉と手管で引っ掻けて――その言葉に喜ぶ女がいるなんて。
「そりゃ……そう、だけど」
絞り出すように肯定する。俺よりその女を大事にすることがあれば、きっとそいつを殺してしまう。
リゼルはにっこりと微笑んだ。
「だと思ったから、ジルに頼んだんです」
そういうお仕事の方なら、情の存在は必要がないでしょう? 互いの間にあるのは、金銭だけ。
「あなたたちに相手を乞うのも違うと思いますし。だから、ね。お願いします」
吐息のように懇願を漏らして強請られると、イレヴンとて否とは言えない。
良いとも悪いとも、返事はできなかったが、リゼルの服を掴む手から力が抜けていく。視線を足元に落として、面白くなさそうな顔をしているイレヴンの頬へ、リゼルはそっと手を当てた。
「ありがとう、イレヴン」
そう囁くと、すす、と鱗を撫で、指先を滑らせる。その上から手を当てて、鱗を押し付けて
「ここだけにして」と乞う。
リゼルはそれに微笑み返すと、「いいこですね」と優しく囁いた。
「もう良いか」
なんとか納得したらしい、と判断したのか、ジルがリゼルを促した。
こんな話は店の門前ですることじゃあない。さっさと腹を括ってくれ、と凶悪に顔を歪めていた。
リゼルは
「すみません、お待たせしました」
「別に良いけど」
待つ原因になったの男を見やり、溜息を吐く。
「お前もたいがいにしろよ」とぼやき、頭をはたくと「痛い」と文句を言って、ジルを睨んだ。
「なに」
「……ニィサン見てくの」
「まさか」
だが、ことが終わるまでは他の部屋で待つつもりではいる。ひとりで勝手に帰らせるなんて言語同断だ。言わないが。
「じゃあ、案内お願いしますね。ジル?」
「ああ」
低く答えると、イレヴンをその場に残し、重たい扉の向こう側へと二人は消えた。
→ リゼイレR18編に続く。多分。(えいいせいさくちゅう)
その後、リゼたんの通された部屋の扉がノックされて、開いたらそこに女の子はいたんだけど、そのままふらっと倒れこんできた。
戸惑うこともなく抱きとめると、その向こう側にはイレたんがいるんだよね。
「俺でもいいって言った」
「……いい、んだよね?」
「勿論。でも君は良いんですか?」
「リーダーなら良いよ」
そう言うと、リゼたん押し倒して馬乗りになって奉仕するし、そのあと抱かせてもらえるので、じるたんはちょっと仲間外れになってしまうのだった。さんぴにならんな…
「抱かれる側の経験が?」
「まあ……どっちもある……」
「
「君はイけなかったんですね。力不足ですみません」
「そーいうんじゃないから」
「じゃあ、俺が口で」
「止めて」
「君はしてくれたでしょう」
「そうだけど、ダメ」
「なら、俺を使いますか?」
「……だから、そういう」
「俺も、抱かれてみたいです」
「なんでッ」
「俺を受け入れている君が、とても――気持ちよさそうだったので」
「好奇心……ッ」
「俺に口でさせるか、俺を抱くか、選ばせてあげます」
「そんなん」
二択じゃない。
「なら、抱かせて」
「はい」
嬉しそうな顔にこちらはキリキリと胃が痛む。
「ちょっと待ってて」
ナイフを取り出すと爪を削り始める。
「なにしてるんです?」
「だって……リーダーのここ、慣らしてあげないと入らないから」
「それで爪を? そんなことまでしなくても」
「こんなもんで、あんたに傷つけたくないし」
「でも、爪——伸ばしてるんでしょう」
綺麗なのに、と残念そうに言うリゼルを見て、ヘラッと笑ったイレヴンは
「こんなん、じきに揃うからヘーキ」
でも、惜しんでもらえるのは嬉しい。そう微笑むと、リゼルがイレヴンの手を取り、短くなった爪にキスを落として「ありがとう」と告げた。
右手の指、三本分の爪を短く整えると「できた」と声をはずませた。
そう待たせたつもりはないが、「もうその気じゃなくなった?」と聞くと「待たされた分、期待値が上がってます」と答えが返ってくる。
「ふ、ははッ。リーダーって最高」
さて、とベッドの上に寝ころばせたリゼルの前にぺたりと座ると、イレヴンは口を少し覆って俯いた。
「毒?」
「うん……麻痺毒……経皮吸収させる弱い奴」
「あったほうが良い?」
「傷つけないように慣らすけど、最初はなんもしないと痛いと思うから」
分泌した体液を爪を短くした指に絡めとり、最後にぺろりと指先を舐める。その仕草に色が乗り、リゼルはぞくりと腰が震えるのを感じた。
艶のある子だとは思っていた。きっとセックスするときの彼は、この上なく綺麗だろうとも。
実際、リゼルが抱いた時も、高騰した表情で見下ろされて、その淫靡な様に目を奪われた。
ぬるるるる、と腹の中を行き来する熱い
「あ、あ、イレヴン、ダメです、止まって……ッ」
「無理……、とまれねぇよっつったっしょ」