急に肩に重みを感じて顔を動かすと、キースが静かに凭れかかってきて目を丸くする。顔を覗くと瞼を閉じていて眠っていることが分かり、不思議と胸が高鳴った。人前で眠ることをどこか避けている様子のキースは今日みたいに映画を見て遅くなった日は俺の部屋に泊まっていけばいいと言ってもわざわざ自分の部屋へと戻ってしまう。それもキースらしい思っていたが一緒に過ごす時間が減っていくのは寂しさもあり「それならば俺も」と言いながら一緒に出ていくブラッドも見送っては溜息をついて一人寂しくベッドに潜り込んだ回数はもう両手では数えきれない程だ。
だからこそ、キースが映画を見て寝落ちしているなんて初めてのことが起きて緊張しているのか、心臓がバクバクと変に音を立てて体が熱くなっていく。昨日は遅くまでバイトがあったみたいだし忙しかったのだろうか。煩くしてしまわないようにとリモコンをとって音量を下げたがその代わり、俺の鼓動が良く聞こえるようになってしまった。
「……んん……」
「わ、ぁ……っ」
どうしようか。正体不明の焦りにどこか落ち着かずにいると、小さく唸りながら頭が肩から滑り落ちていく。起こしてしまったかと思うのも束の間、膝を枕だと思ってるのか少し身動ぎをすると再び寝息を立てる。成長途中とは言い難い男の膝なんて固いだろうに、そんな場所で落ち着かないでくれよ。なんて訴えは声に出すことも出来ずに口をパクパクとさせては脱力してしまう。
キースが人前で寝ようとしなかったのは警戒心の表れだと認識していた。直接聞いた訳ではなかったけれど直感的にそう感じ、どれだけ仲良くなったと思っていても本能によって生まれる壁を取り除くのは難しいのだろうと思っていて。何の前触れもなく、電池の切れた玩具のように眠りについたキースをいざ目の前にすると嬉しさとは別の何かのせいで動くことが出来なくなってしまう。真上から見るキースの横顔は前髪によって隠されてしまい、どんな顔をして眠っているのかなんて分からない。意識してしまえば無性に興味を持ち、恐る恐る顔にかかっている髪の毛に触れてみる。
(ふわふわだな……)
何度か背後から抱き着いた時に触れたことはあったが、触ることを目的にしたのはこれが初めてだ。寝癖がついたまま、きっとシャワーを浴びた後も自然乾燥で済ませているからか痛んでいる個所も幾つか見つかるけれど柔らかく感じる。何度も撫でるように触れながら前髪をかきあげてみる。
普段から隠されている左目も、今は瞼で閉ざされている。なんで隠しているのかという疑問も軽々しく尋ねていいものではないと分かっているから謎のままだ。人には話すことが出来ないものの一つや二つ持っていて当然だろう。俺だって口にできない秘密を抱えているのだから、キースにだってあるはずで瞳のことはその一つかもしれない。踏み込んではいけないラインを見定めながらも、いつか知れたら嬉しいなんて思ってしまう。ちょっとした欲を帯びた指先で綺麗な形をした瞼をゆっくりと撫でた。
「……ディノ……」
「ぅええっ!? どどど、どうしたんだキース!?」
「……」
突然の呼びかけに口から心臓が飛び出しそうになり、何も悪いことはしていないのに両手を上げる。寝ているキースに対して好き勝手触っているのは悪いことになるのかな。さっきから収まることのない心臓の音に釣られるように、ぐるぐると頭の中で色んな思考で埋め尽くされていく。なのに一向に次の言葉を発しないキースにしびれを切らして手を下ろし、顔を覗く。薄く開いた唇の隙間からは規則正しい寝息しか聞こえてこない。
「まだ寝てるのか……?」
ほっと息を吐き出した中身は安堵半分、羨ましさ半分。後者はいったい何に対してなのかとすぐには分からなかったけれど、多分、夢の世界の俺に対してだ。向こうで何をしているのかなんて分からないけれど名前を呼ぶという事は一緒に居るわけで。俺はいま変に緊張して、焦っているというのに、なんだか面白くない。
本能のまま、瞳を閉じたままのキースに顔を近づける。そして普段隠されている瞳を隠す瞼に軽いリップ音を鳴らした。
「……起きてくれよ、キース」
返事のない部屋でぽつりと呟いては、自分の唇に指先で触れるとやけに熱く感じた。自分の事だというのに今、キースに何故キスをしたのかが分からない。警戒心のない姿は嬉しいと思うのに、夢の中よりも現実の俺を見てほしいと思うだなんて。初めて抱いた感情の扱い方も分からないしやけに心臓がうるさく、顔が熱くてのぼせてしまいそうだ。それなのに変わらず夢の世界にいるキースが妬ましく思えてきて頬を指でつねる。そしてキースには絶対に言えないことがまた増えてしまった、と小さくため息をついた。