平日といえど太陽が顔を出している時間の駅前は人通りはそれなりに多い。そんな場所でただ立っていると積極的な活動をしていないがメジャーヒーローとして認知度は一応あるようだということを、ヒーロースーツを着ていない時に向けられる視線の数で嫌でも分かってしまう。それのほとんどがポジティブに捉えられるものだからアカデミーの時とは違って呼吸はしやすい。こんなにも変化するのは過去のオレは想像なんて全くしていなかった。
 小さく震えたスマホを取り出すと『あと少しで着く!』とディノからの短いメッセージが表示された。午前中に各セクターのチームリーダーだけのミーティングがあり、面倒だからとディノに任せようとしたがパトロールが入っているからと断られた。こういった会議にはオレじゃなくてディノが適任だという主張もブラッドによって跳ね返され、ジェイには背中を押されるように応援が向けられて肩を落とす。頭の痛い話の後はオフになっていたからディノと飯でも食べて気分転換をしようと誘い、今に至る。休みだというのに制服なのは気が休まらない。インカムはもしものために持ち歩いているが、堅苦しくない服を着て外へ出ればどこにでもいる男の姿だ。それなのに分かるもんなんだなぁ、とファン達への感心と感謝の思いを抱いていると視線の数がいくつか減っていることに気がつく。そして耳に届く足音に顔を上げると、笑顔になったディノと目があった。
「キース! ごめん、遅くなった」
「おーディノ。お疲れさん」
「キースもミーティングお疲れさま」
 走っていたというのにニコニコとしているディノは息を乱していない。流石だと思う反面、格好は何故か制服ではなくて私服だった。
「お前なんでその格好なんだよ」
「キースとデートするんだったら、制服じゃ味気ないかと思ってさ。一度タワーに戻って着替えたんだ」
 確かに恋人が二人で外に出掛けるというのは一般的にデートということになるのだろう。そこまで考えていなかったというのが本音で、じわじわと顔が熱くなっていくのがわかる。平然と、というよりも恥ずかしいことをいったいる自覚が一切無いディノは笑みを浮かべたままなのが少しだけ悔しい。
「……だったらわざわざこんなところで待ち合わせしなくても良かったんじゃねーか?」
「駅前で待ち合わせなんて恋人っぽくてなんだか良くないか?」
 せめてもの反論を口にしたところで簡単に追いやられる。告白をして、付き合って、体を重ねて。一歩ずつ友だちから変化していく関係にディノはどこか友情の延長線だと思っているのではないかと考えてしまうが、こういった時にそうではないのだと、恋愛を含んだ関係を築いているのだとと実感させられる。嬉しさと恥ずかしさと愛おしさと寂しさ。感情が混ざって言葉に表せなくなることが多いけれど結局、心にストンと落ちてくるのはずっと隣にいたいという気持ちだった。
「じゃ、さっさと飯でも食いにいくか。そこの店でいいだろ?」
「うん! あそこのピザすごく美味しいんだよな」
 向けられる視線が増えたことでざわざわと立ち止まる人も増えており、意図せず輪の中心になってしまいそうなのを歩みを進めて抜け出した。隣を歩くディノとお互いミーティングやパトロール中の出来事を話しては会話が弾んでいく。昔からディノと話すのは、コロコロと変わる表情やその声を聞くのは好きだ。これが当たり前ではないことを知っているからこそ、二人の時間をより大切にしたいとも思う。話ながら大きく動いているディノの手を掴んで、ピタリと止んだ声に気がつかない振りをして指を絡めるように手を繋ぐ。
「……まだ、人も沢山いるぞ?」
 頬に朱色が刺したディノは、先程までとは変わって潜めた声を発する。ディノの言う通り周囲に人の気配も視線も複数あった。けれど無性に手を繋ぎたくなってしまったのだから仕方がない。
「恋人同士だってこと隠してねーし、別に問題はねーだろ」
「そ、そうだけど」
 急にしおらしくなったディノの姿に頬が緩む。オレの行動も羞恥はあったがこの反応を目にして悪い気持ちにもならない。折角のデートなのだから思う存分楽しんでやろうと握る手に力を込めると、同じように返ってきた力に固く結ばれていく。お互いに微笑みを送りあって、ゆっくりと歩みを進めていった。
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20220402キスディノドロライ
初公開日: 2022年04月02日
最終更新日: 2022年04月02日
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コメント
第50回【お題:過去のお題全て】
20220603キスディノドロライ
「好きなモノ」「音楽」「俺(オレ)は、お前が……」
みつき
20220522キスディノドロライ
以心伝心 / キスまであと… / 休憩
みつき
2022/06/06
2022/06/06 ワンライ企画やってみた。
nemu