ピザはいつ、どれだけ食べてもかわらず美味しいものだということは間違いない。けれど体調や悩み、環境といった様々な理由で手がすすまないこともよくあった。今回は悩み……というよりも緊張に近いもので、こういう時は味も気持ちも切り替えるのが最適だと顔を上げてキッチンへと視線を向ける。
「キース。あれとってくれないか?」
 頭の中が整理されてない時というのは名称すらもうまくでてこない。それでもキッチン内で夕食を作っているキースは俺の方を見ていないというのにオリーブオイルやタバスコが緑の光を纏って飛んできた。ボトルを手に取るとキースの力は消えていく。
「ありがとうな」
「何かあったのか?」
 なんとなくタバスコの気分にはなれなくてテーブルの上に置いてしまう。そしてオリーブオイルの蓋を開けてピザへ雫を落とすと、具材の隙間を探し当てて広がり色が薄くなっていく。それを頬張るのが美味しいというのにお見通しだとばかりに問いかけてくるものだから口を開いたまま手が止まっていた。錆ついたロボットのように首を再びキースの方へ向けると相変わらずこちらを見ていない。
「別に大したことじゃないから大丈夫」
「そういう時のお前は信用できねぇ」
「う……」
 間髪入れずに言い放つ声は鋭く突き刺さってくる。隠し事が苦手だというのにもほどがあるだろうと手に持ったままでいたピザを口の中に詰め込んだ。モグモグと口を動かしていると小さく息を吐く音が耳にとどいて心臓がドキリと音をたてた。
「ま、オレに話したくないなら、それでもいいけどよ。あまりブラッドやガキどもに心配させんじゃねぇよ」
「……んっ。そんなに俺の様子おかしかったか?」
「ジュニアがオレに相談するくらいには」
「そっかぁ……」
 確かに朝、というよりも昼頃からずっとな考えていることではある。ジュニアもフェイスも聡い子だから俺の様子にすぐ気が付いて心配してくれていたという申し訳無さでぎゅっと胸が苦しくなるのも事実。きっとお腹いっぱいにピザを食べて、よく眠れば明日にはすっきりしているのだろうけど。ここでずっと胸の内に秘めておくというのはハードルが高いように思えた。
「……どちらかというとキースにしか話せない悩みではあるんだけど、引いたりしないか?」
「…………内容による」
 相変わらずキースは背中を向けたまま。表情が見れないことが少し寂しくも思うが、抱えていた心の内を曝け出すには丁度良い。息を吸って、吐いて心を落ち着かせて昼間から喉に張り付いていた言葉を声に乗せた。
「えっとさ。その、キースとえっちがしたい」
 カランと何か金属の物が床に落下した音がする。
「いやっ! というかだって! パトロールに行く前にぶつかってキスしそうになったじゃないか。あの時のキースの瞳が夜の……というかえっちしてる時みたいで! なんかこうムラムラきたというか……!?」
「分かった! 分かったから落ち着けディノ!」
 心と頭を支配していた悩みの種は、一度飛び出してしまうと抑えが効かなくなる。洪水のように溢れ、大きくなっていく声に慌ててキースが制止に入った。
 昼間、パトロールに出発しようと部屋を出る際に先に照明を落としてしまうと積み重なった段ボールがぶつかって、雪崩が起きた時にキースが咄嗟にオレを庇った。中身はからだから重さなんて無いものの、勢い余って床に倒れこんだ俺にキースは馬乗りのような体制になってしまった。「大丈夫か?」とかけられる声や暗い室内で光るキースの瞳は情事中のことを思い出して体が熱くなっていく。あと少しで唇が触れられそう。そんな風に鼓動が暴走しているとリビングからジュニアとフェイスの声が聞こえてきて未遂に終わってしまった。事故のようなものではあるが名残惜しく、沢山触れ合った時のことを思い出しては体が疼いて仕方がなかったのだ。
 なかなか恥ずかしいことを言っている自覚はあるが、本当の事なのだから仕方がないじゃないか。変に反抗するような言葉が募っていってると、キースが大きくため息をついたのが分かって視線を向ける。大袈裟なまでに肩を跳ね上げ、恐る恐るキースへと目を向けるとそこには相変わらず背を向けたまま。けれど耳まで真っ赤にさせた姿がそこにあった。
「ディノ」
「はい」
「オレも同じだから安心しろ」
 思わぬキースの言葉に瞬きをしていると、テーブルに置いてあったタバスコが緑の光に包まれて空に浮かぶ。
「タバスコは没収ってことでいいか?」
「……もちろん」
 結局のところ、キースも同じことを想っていたという事なのだろうか。刺激を与える瓶はキッチンへと戻っていき、代わりに夕食を作り終えたキースがプレートを持ってやってきた。ようやく絡んだ視線は照れ臭そうにしているものの嬉しさを隠しきれていない。何時間も前にお預けをくらったキスは何十倍にもなって返ってくるのだろうと想像してはゆるみきった微笑みが出ていた。
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20220522キスディノドロライ
初公開日: 2022年05月22日
最終更新日: 2022年05月22日
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20220603キスディノドロライ
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20220402キスディノドロライ
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