拝啓 七海先輩へ
こうして手紙を書いてることを、意外に思うかもしれません。
わたしも先輩に手紙を書くなんてこれまで考えたことなかったです。
でも、どうしても考えるだけじゃ言葉がまとまらなくて、こうして文字にして伝えようと思いました。
わたしは脚本の変更をこよみと相談することにしました。
先輩は望んでないと分かってます。これはわたしのわがままです。
もしかしたら先輩は、これまでしてきたことが間違ってるのかって思うかもしれません。
でも違います。先輩がやってきたことは間違いなんかじゃありません。
先輩がお姉さんになりたいって気持ちは、わたしは否定しません。自分が目指すべき目標として、ということならいいことだと思います。
でも、先輩自身になんの意味もないなんて思って欲しくない。それがお姉さんの模倣であっても、積み重ね続きてきたのは先輩自身なんです。
わたしも佐伯先輩も、きっとみんな、先輩のことしか知らないです。先輩が積み重ねてきたことしか。
それは否定して欲しくない。
先輩が自分のことを嫌いだと思ったとしても、わたしたちは先輩のことを思ってます。
全部を背負わなくていいから、それは知って欲しい。
もらったものは全部、先輩のものなんですから。
敬具
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拝啓 七海先輩へ
また手紙を書くことになるなんて思いませんでした。結局、前の手紙も先輩に渡せなかったけど。この手紙もきっと渡さないまま、引き出しの肥やしになるだけかもだけど、それでも書きます。
先輩が新しい脚本の結末を嫌がることは分かってました。だってあれはわたしのわがままだから。
でも、話を聞いてくれたっていいじゃないですか。避けなくたっていいじゃないですか。
そんなにいやでしたか。否定してるように聞こえましたか。
違うんですよ。先輩。
もしかして、わたしのこと、嫌いになりましたか。
それでもわたしは、先輩と話がしたいです。
聞いてくれますか?
敬具
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拝啓 七海先輩へ
生徒会劇の成功、おめでとうございます、先輩。
劇を通して先輩が変わっていってるのを実感しました。
先輩はもう大丈夫です。
改めて、おめでとうございます。
敬具
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拝啓 七海先輩へ
早いもので、初めて会った時から半年が経ちそうですね。
すっかり涼しくなってきて、冷え性のわたしにはちょっと辛くなってくる季節です。
文化祭が終わってから先輩は活き活きして見えます。前みたいに壁を作ってる感じはしないし、柔らかくなった感じがします。
先輩がどう思ってるかは分かりませんが、わたしはいいことだと思います。
劇団に入ったことを言ってくれなかったことは、ちょっと拗ねますけど。
先輩。七海先輩。
一緒に帰る時間が減ってきましたね。先輩は寂しくないんですか?
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敬具
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拝啓 七海先輩へ
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好きです
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七海先輩
好きでした
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シャーシンが切れてしまった。こういう時、わたしは一回の店舗に降りていく。
本屋をやってるウチは文房具の類も最低限取り揃えてあるからこういう時便利だった。まぁ商品なのだから当然お金は払わなくちゃならないのが虚しいんだけど。
幸い怜ちゃんはまだ帰ってきておらず、おばあちゃんがレジに座っていた。パパっと買ってから部屋に戻ると、ノートと睨めっこしていたはずの先輩はなにか別の物を見ているようだった。
どうやら手紙らしい。いくらか量があるそれを熱心に読んでるらしく、先輩は戻ってきたわたしにも気付いていない。
またラブレターでももらったんだろうか。そう思うとむっとしてきた。
「なに見てるんですか、先輩」
若干棘の入った声に、先輩は慌てた様子で顔を上げた。
「ふぇっ、ゆ、侑?」
「またラブレターですか?」
「えっと、そう、なのかな」
呆れた振りをして訊ねると、先輩は照れ臭そうに頬を掻きながら、誤魔化すような笑みを浮かべる。
いつもはなんてことない顔してさらっと読むのに。苛立ちが募っていく。
「そんなに嬉しいことでも書かれてたの?」
「うん、そう、だね」
手紙に視線を落として頬を染める先輩が、どうも面白くなかった。
「ふーん。誰から?」
「えっ?」
なんでそんなに驚くの? なにか後ろめたいことでも?
だめだ。なんだかブレーキが弱くなってる。
そんなことしてたら嫌われるのに。
「……じゃあ、読む?」
苛立ちと自己嫌悪とで綯い交ぜになっていたら、先輩は意外な提案をしてきた。
「いや、だめですよ。プライバシーとか」
一瞬乗りかかってしまったけど、いくら面白くないからって他人の書き綴った想いに土足で踏み入るわけにはいかない。
「うーん、大丈夫だと思うけどなぁ」
暢気なことを言いながら先輩は手紙を差し出してくる。
いやいや、だめでしょ。
……でも、わたしも気になってるのはどうしようもない事実で。
悩みに悩んだ末に結局、その手紙を受け取ってしまった。
なおも葛藤がありつつも、半ばやけくそになって広げた私の目に飛び込んできたのは――
「……え、あっ、あー!」
――わたしの黒歴史だった。
「どっから!」
「いやその、ゴミ箱の中にあったから、つい」
くそぅ、昨日掃除したあとでゴミ出しするのを忘れてた!
なんのために捨てようとしてたのか! 意味ないじゃないか、これじゃあ。
こんな恥ずかしいの、見られたくなんてなかったのに。
「ねぇ、侑」
ほとんど読み飛ばしてるだけでもダメージを受けて悶えていると、ふと先輩がわたしを呼んだ。
「なんですかーもー」
「新しいの書いてくれないの?」
先輩の言葉に、身悶えが止まる。
新しい手紙。
確かにあれ以降、わたしは一度も筆を取ってなかった。
だって、わたしの気持ちを伝えたら、先輩がきちんと返してくれたから。
だから、届けるつもりのない言葉を書き殴って、そのまま墓標にする必要はなかった。それはわたしにとって想いを呑み込み続けるための吐き出し口だったから。
でもその言葉は、今や賞味期限が切れていて。
相手がこんなにも、期待の目で見つめてくるものだから。
あぁ、うん。それなら、そうだね。いい加減、届けて弔うのもいいかもしれない。
「じゃあ……」
でも、それだけじゃ足りない。
「先輩も書いてくれますか?」
もう、宛先不明で返ってくるのはいやだから。
「もちろんだよ」
わたしの不安を取り除くように、先輩はにっこりと笑った。
小指を絡める。そのまま立ち上がったわたしたちは、必要な物を手に入れるために、一緒に階段を下りていった。