「なぁ、二人の誕生日っていつなんだ?」
 会話は大抵ディノから始まる。突拍子もない事だったり、直前に目にしていた光景についての事だったりするが前者がほとんどで、今回もそうだ。一緒につるむように……というよりも鬱陶しいほど絡まれて、シカトし続けるのも面倒になってから一か月ぐらい経つのだろうか。ディノとはアカデミーに入学してからの日数とは誤差に等しく、気が付けばブラッドも当たり前のようにディノやオレの隣に居るようになっていた。今回もディノが発言をする前は無言の空気を吸っていただけのはずなのに、突然のことにブラッドと揃って目を丸くさせる。
「ちなみに俺は三月二十二日!」
「俺は九月十五日だな」
「えぇっ!? ブラッドの誕生日、もう過ぎてるじゃないか!」
 ディノの言う「友だち」という関係はよく分からない。今までつるんでいた所謂仲間だった奴らと比べると裏表が無くハッキリとしている分居心地は良い。それでもいつかは簡単に切って切り捨てられる立場の方がお互い面倒ではないと踏み込むことをしないでいるが、ディノは後先考えずに距離を詰めようとしてくる。その危うさにはどこか恐怖にも似た感情を覚えるのに、至極当然のように目の前で進んでいく会話に対して焦りに似た何かが込み上げていた。
 なにか、喋らなくては。
 入学する前は浮かびもしなかった思考に動揺する。己のマイナスにならないような、関係のない事には首を突っ込むことはしなかったというのに、ディノとブラッドと三人で居るこの場所に居たいと叫んでいるような衝動に襲われていた。
「キースは?」
「は?」
「キースの誕生日はいつなんだ?」
 ふと、言葉がオレだけに向けられる。その瞳は飼い主の命令を待っているような犬のようにオレからの答えを待っていた。たったそれだけで心の内側で大きく波が荒れるのに、その原因は見当もつかないから余計に追い込まれた気分になっては上手く言葉が見つからない。
「貴様が言うつもりが無いなら、俺がディノに教えてやるだけだが」
「はあっ!?」
「えっ、ブラッドはキースの誕生日知ってるのか?」
「ああ。生徒の……交友関係を持つ人物のプロフィールなら頭に入っている」
「わあっ流石ブラッド!」
「いやいやいや、普通に怖いっつーの」
 案外ブラッドも突拍子が無い。というか凡人には重い浮かばない次元にいて理解できずに一歩後ろへと下がる。対照的にキラキラと瞳をさらに輝かせているディノが視界に入っては溜息をついた。自分の知らない所で好き勝手話をされるのも気色悪い。
「……十一月十日」
「……、てことはもうすぐ誕生日?」
「そーなるんじゃねーかなー」
 小さく答えた声はしっかりとディノの耳に届いていたらしい。一呼吸の間のあと頭にカレンダーを思い浮かべているであろう姿に適当に答える。幼い頃ははやく年を取って稼げるようになりたいと思っていたが、生まれた日に何か思い入れがあるわけでもないから、別に誕生日を知られることはどうでもいい。むしろこの世に生まれてしまったことへの後悔の方が、生まれてきたことへの幸せの数よりも多いだろう。でもディノはきっと何かを言いだすのだろうと直感的なものが働いて本能的にその場から逃げることにした。
「よーしっ! それじゃあキースの誕生日は思いっきりパーティーしないとダメだな!」
「別にいいよ、そんなのどうでも」
「どうでもなんかじゃないよ」
「ッ」
 背後から一つトーンの上がった言葉は予想通りのもので肩を落とす。こうした瞬間に育ちの違いを突きつけられては息がし辛くなる。面倒なことを言われるようにさっさとこの場から立ち去ってしまおうとした体は、ディノの手によって阻まれた。掴まれた手首に込められた力に思わず顔を見ると、まっすぐな空色の視線に足がその場に縫い付けられる。
「キースが生まれてきて、俺と出会って友だちになってくれた。それだけでお祝いする理由はちゃんとあるんだからな」
 普段のおちゃらけたものではなく真剣な声に、更に強く握られた手が本気で言っているのだと分かる。裏が見えないというよりも無いと言ってもおかしくないディノの言葉は温かくて、警戒心を解いても良いのじゃないかと思わされる。ブラッドの呆れるような視線は痛く突き刺さってきているけど。どちらも気分が悪くなるものではないのが不思議で仕方がない。
 瞼の裏に思い浮かぶ誕生日の光景。それは母さんがまだ家にいた頃、いつもよりほんの僅か夕食が豪華になっていて思い出すことも出来なくなった声で九文字の言葉を贈られたもの。しかしそれは記憶にある限り片手程のもの。いつも通り路地裏で星も見えない夜空を眺めていた回数の方がやっぱり多くて、ディノの言うお祝いとは一体何をするのかと想像もつかなくて心をざわつかせた。
「この先十回、二十回、何十回でも俺はキースの誕生日も、ブラッドの誕生日も全力で祝うから予定は絶対に開けておいてくれよっ!」
 何も答えることが出来ていないというのにディノはパッと手を離すと歯を見せていつも通りの笑みを浮かべた。さっきの言葉は幻聴だったのではないかと思わせるほどのものだというのに、手首にじんじんと痛みが走っていてちゃんと現実なのだと思い知らされる。
「ああ。勿論ディノも楽しみにしていてくれ」
「へへっ楽しみだな~」
 誕生日を祝われることも長らく無く、誰かを祝ったことも無い。それでもこれから先の十一月十日という日はディノの言葉で全て予定を入れられてしまった。ディノの中では当たり前のように数年後、何十年後という先の未来でもオレと友だちであり続けるらしい。そのことがどうしようもなく嬉しいと思ってしまうことが悔しくて仕方がない。
「…………しょーがねぇ、な」
 痛みがゆっくりと引いていく手首を抑え、形容しがたい感情が湧き上がってくるのを必死に蓋をしながら二人の弾む会話に小さな声で混ざってみる。どこか気持ちが軽い、そんな気がした。
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20211106キスディノドロライ
初公開日: 2021年11月06日
最終更新日: 2021年11月06日
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コメント
誕生日記念①
【お題:誕生日/お酒/ずっと一緒/未来の話をしよう】
20220603キスディノドロライ
「好きなモノ」「音楽」「俺(オレ)は、お前が……」
みつき
20220522キスディノドロライ
以心伝心 / キスまであと… / 休憩
みつき
20220402キスディノドロライ
第50回【お題:過去のお題全て】
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