「そういえば」
 どんな話題の転がり方をしていたのか、今や覚えていない。ただふと、なんかの拍子で思い浮かんだことをそのまま口にしただけでしかなかった。
「七年前は劇の脚本ってどうしてたんですかね」
 そう言うと、みんなの視線は一度わたしに集まって、今度は七海先輩へと向けられた。
 当の先輩は記憶を探るように空中を見上げる。
「あれ、どうだったかな」
「確か文芸部に頼んでたはずだけど」
 と、佐伯先輩が横から口を出してきた。
「そうだった?」
「台本一度見せてくれたでしょ。頭に書いてあったわ」
「覚えてないなぁ。えーっと、どこ突っ込んだっけな」
 立ち上がった七海先輩は資料室に入っていくと、やがて一冊の薄い冊子を手に戻ってきた。
 その表紙には、『ミステリー部殺人事件』という見覚えのある文字が踊っていた。
「あったあった。えーっと……うん、文芸部だね」
 ぺらりとページを捲ってみんなへと見せる。
 出演者の項目に一瞬冷や冷やしたけれど、先輩は巧みな指の配置で「七海」の文字だけを隠していた。
 それを見て安心してから脚本の項目を見る。確かにそこには文芸部と書かれていた。
「へー。この頃はそれらしい活動してたんですね」
「わ。市ヶ谷さんじゃん」
 堂島くんがはしゃいだ声を上げる。わたしは知ってたものだから、「そうだねー」と薄いリアクションだけした。
「しかしこう……安直なタイトルですね」
「そうだね。侑のタイトルの方がセンスあるよ」
 槙くんの苦笑に、何故か七海先輩が胸を張った。
「止めてくださいよほんとに」
 なに言っちゃってんの、もう。恥ずかしいじゃんか。
「てかミステリー部ってなにするんすかね?」
「そりゃあ……ミステリーを読む部……?」
「それ文芸部じゃだめなの?」
「わたしに訊かれても」
 言われてみればその時点で結構謎だ。
「あ、でもタイトルの割には案外きちんとミステリーしてますね。面白いです」
 一人ぱらぱらと読み進めていた槙くんが声を上げる。
 なにそれ。ミステリー部含めてちょっと気になる。
「ほんと? あとでこっちにも回して」
「小糸さんはミステリー好きなんだったかしら?」
「そうですね」
 ふと思い出したかのように佐伯先輩がわたしに訊いてきたので頷く。
 そういや、店番やってる時に一回そんな話があったなぁ。
 すると何故だか七海先輩が食い付いてきた。
「え、そうなの?」
「僕も好きですね。まぁ僕は基本雑食ですけど」
「俺は漫画しか読まねーなー」
 暢気に自身の読書傾向を語る二人。まぁそれぞれそんなイメージはあるよね。
 そのまま雑談は続き、結局仕事に手が付かないまま、この日は解散となった。
 /
 翌週のある日の放課後。生徒会室では相変わらず団欒とした空気が流れていた。
 そんな空気を引き裂くように入り口の扉が開く。
 生徒会長の重役出勤だった。まぁどうせ、また先生から色々と押し付けられたんだろうけど。
「遅れてごめんねー。ってあれ、叶さん?」
 入ってくるなり、先輩はこよみを見てきょとんとする。そりゃそうだ。
「お疲れ様です。お邪魔してます」
「ちょっと教室に忘れ物してて、持ってきてもらったんです」
「あんな堂々と机の上に置いてあるのに忘れる? フツー」
「ごめんってば」
 こよみの軽口に謝り倒す。
 実際、先輩とそういう関係になってからというもの、我ながら浮かれてるなぁって自覚はある。もう少し気を付けないと。
「あ、そういやさ、こないだの話、市ヶ谷さんに聞いてきたよ」
 こよみが帰ろうとしていると、七海先輩は鞄を机に置きながらそんなことを言い出した。
 あまりに急な話題に、佐伯先輩が首を傾げる。
「なんの話?」
「前の劇の脚本の人。今は小説家なんだって」
「え、そうなんですか?」
 興味を惹かれたらしく、こよみの足が止まって七海先輩に食い下がる。これはかなりテンション上がってる奴だ。内心わたしも興味津々だし。
 それはすごいな。なんで話題になってないんだろう。
 ず、と紅茶に口を吐けたところで、七海先輩が頷いた。
「うん。私も知ってるからびっくりしちゃった。林錬磨っていう」
 ――その直後、先輩と堂島くんを除いた四人全員が思いっ切り噴き出すことになるのだが、これはまた別のお話。
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やが君ワンライ㉑
初公開日: 2021年10月09日
最終更新日: 2021年10月09日
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お題 ミステリーor散歩