ドロップキックお兄ちゃんに抱えられて連れてきてもらったお屋敷の庭は、あちこちに置いてある灯籠に灯りが点されていてとても綺麗だった。
いつもよく見ていた昼間のお屋敷とはまるで違う雰囲気に暫くぼうっとしていると、ドロップキックお兄ちゃんがそっと僕を玄関の前に下ろす。
「上がれ。奥で、あいつが待ってる」
初めて上がらせてもらったお屋敷の中には、蛍光灯やLEDが全くなかった。
その代わりにあるのは、鉄製の背の高いろうそく立てだ。
一定の間隔で両横に置かれているそれには、花や金魚の絵が描かれた大きなろうそくが立てられていて橙色の穏やかな炎を揺らしている。
それに導かれるように、僕は奥へと進む。
板張りの廊下が、微かにキ、キ、と鳴る音がした。
と。
それまでずっと両横に均等に並べられていたろうそく立てが途切れた。
あれ、と思って真っ黒な暗闇に沈んだ廊下の奥を見ていれば、バッ!という音を立てて横にあった火のついていないろうそく立てに火が灯る。
「っ!?」
驚いて後退る。
火が灯ったろうそく立ては、大きな襖を挟むようにして置かれていた。
まるでここに入れ、と促しているようで、僕はただ息を呑んでその場に立ちすくむ。
すると、襖の向こうから、静かな声がかかった。
“────おいで、坊”
お姉ちゃんの声だった。
その声に引っ張られるように、僕はするりと襖を開ける。
お姉ちゃんがいるなら怖いものはきっといないはず、というよく分からないことを考えながら。
入った部屋は、いつも縁側から入らせてもらっていた座敷が丸ごと二つは軽く入ってしまいそうなほどに広いお座敷だった。
ここならきっと二、三人で鬼ごっこをしても、余裕を持って逃げ回れるだろう。
部屋のあちこちにはここまで置かれてきたものと同じようなろうそく立てが置かれ、ぼうっと部屋を橙色に照らしている。
そんな中で、僕はある一点にすうっと視線が吸い寄せられていた。
それは、部屋の奥。
部屋の奥の一段高くなっているところが、すだれのようなもので仕切られている。
その奥にお姉ちゃんとおぼしき影があるのだが、だが。
「……お姉、ちゃん?」
“何かな、坊”
「そこにいるの、お姉ちゃん?」
“そうさ”
“……そこにいるの、お姉ちゃんだったらさ”
“うん?”
何で、そんなに大きいの?”
確かにお姉ちゃんの声はしていた。
だからきっとあのすだれの向こう側にいるのはお姉ちゃんなのだろう。
でも、それにしては。
それにしては、あまりにも影が大きすぎた。
確かに元からお姉ちゃんは背が高かった。
学校の先生よりも、近所の女の人よりも背が高かった。
でも、だからといってホイルジャックおじさんが持っている軽トラックよりも大きな影がゆらゆらと映るなんて、どう考えてもおかしい。
「お姉ちゃん、ほんとにそこにいるのお姉ちゃんなの……?」
ぽつり、と聞く。
すると、一瞬辺りが静まり返った後にしゅる、とすだれが上がり始めた。
“あぁ、そうさ”
“ここにいるのは、ここに座しているのは”
“紛れもない”
「私だとも」
お姉ちゃんが最後の言葉を言ったのとほとんど同時に、すだれが上まで上がりきる。
でも僕は、何も言えなかった。
本当だったらお姉ちゃんの姿を見てああよかったお姉ちゃんだ、と安心するべきなんだろうけど、ちっとも安心なんて──それどころか、目の前にあるものをきちんと理解することも、できなかった。
そこにいたのは、お姉ちゃんであってお姉ちゃんではなかった。
腰から上の大まかな形は確かにお姉ちゃんだった。
形は、と言ったのは大きさがどう考えても普通ではなかったからだ。
僕がよく知っているお姉ちゃんは、少し背が高い女の人だった。
でも今目の前にいるお姉ちゃんは、腰から胸元だけで既に僕の身長と同じくらいの長さがある。
手なんて僕の頭を丸ごと包んでしまえそうなほどに大きい。
でも、そんな大きさなんて大した問題じゃないと思ってしまうほどに、その他の姿は異様だった。
まず一番目を引いたのは、お姉ちゃんの腰から下だった。
お姉ちゃんの腰から下は、脚なんて影も形もなくなっていて、その代わりに化け物がくっついていた。
蜘蛛と、百足と、何か毛の生えた動物。
それらがぐちゃぐちゃに絡み合った化け物が、お姉ちゃんの下に居座っていた。
そして、お姉ちゃんの真っ白な肌。
あの人間じゃないような肌には、ずらりと鱗が張り付いていた。
首筋から肩、腕の表面、ちらりと見える背中から腰にまで。
ヤマカガシの赤色を思い出させるような──でもそれよりもなお赤い鱗が、びっしりとお姉ちゃんの肌を覆っていた。
「坊……」
お姉ちゃんのような、でも僕の知らないお姉ちゃんが、背中の翼──トンビのような先の羽が僅かに開いた翼を広げてよく聞いたお姉ちゃんの声で僕を呼ぶ。
「ようやく、ようやくだ……ようやくお前を──れる……」
ジジ、とどこからか入った蛾がろうそくの炎に焼かれて落ちる。
お姉ちゃんはそれには目もくれず、ずるり、とこちらに近づきながらじっとこちらを見つめてきた。
「坊」
呼ばれる。
静かなその声に、今まで喉で凍っていた声が、ぽろりと零れ落ちた。
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アイザリス
資料見ながら書いてるので今のところはわりと遅筆です(U'ω')
23:02
アイザリス
_(:3 」∠)_
42:32
アイザリス
ちょっと悩みます_(:3 」∠)_筆ストップ
56:39
アイザリス
いっそのことバッドエンドも書いてみたい欲
59:10
アイザリス
ちょいと続きで悩んでおるので、この配信は一度ここまでにいたします(∪˘ω˘)
59:31
アイザリス
長々とお付き合いいただきありがとうございました!
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