毎日楽しく遊んで、美味しいものをたくさん食べて、温かいお風呂に入って、夜はお姉ちゃんの蛇の胴体のとぐろの上で眠る。
シャッターお姉ちゃんもドロップキックお兄ちゃんもとても優しくて、いつも傍にいてくれて、ここに来てから僕は一回もさみしい思いをしたことがなかった。
たまに麓の方から僕を呼ぶおじさん達の声がするけど、そんな時はお姉ちゃんが手を複雑な形に組んで「私は拒む。私の領域に踏み込むことを、私は決して許さない」と言えばおじさん達は何度も何度も同じところをぐるぐる回って、そのうち疲れて帰っていく。
こんなことができるお姉ちゃんは、見た目から分かる通り人間じゃなかったらしい。
僕が今いる南のお山、そこのヌシがお姉ちゃんなんだとか。
お兄ちゃんは、そんなお姉ちゃんの家来らしい。
「今まで坊が怖がると思って言えなかったんだ」と困ったような顔でお姉ちゃんは笑っていた。
全然怖くないよ、とお姉ちゃんの手を握って言えば、お姉ちゃんの顔が嬉しそうにほころぶ。
そんなお姉ちゃんの顔を見て、僕まで嬉しい気持ちになってくすりと笑えばひょいとお姉ちゃんに抱きしめられた。
少し冷たいお姉ちゃんの腕の中は、とってもとってもやわらかだった。
ずっとこのまま抱きしめられていたい、と思ってしまうほどに。
何回も何回もおじさん達が僕の名前を呼びながらお山に入ってくる。
帰っておいで、そこにいちゃいけない、と叫んでる。
でも僕は、行きたくなかった。
帰りたくなかった。
帰ればまた、さみしい思いをしてしまう。
おじさん達は構ってくれる、でもいつもじゃない。
それに。
それに。
お母さんは、きっと。
(……いやだ、さみしいのなんて、いやだ)
僕は浅く息をしながら、おじさん達の声を遮るようにお姉ちゃんに抱きついた。
そうすればお姉ちゃんはまた、僕をしっかりと抱きしめて頬ずりをして、キスをしてくれて。
「……大丈夫。大丈夫だよ、坊。寂しい思いなんてさせない。ずっとずっと、一緒にいよう」
優しく優しく、笑ってくれる。
お兄ちゃんに連れてこられてから二週間がたった。
毎日毎日楽しいことばっかりで、もう帰りたいということすら思わなくなって、おじさん達の声も聞こえない。
きっとこのまま楽しく暮らせるんだと思っていたその時、ふと、不思議な音がした。
ブンブンブン、と何かが風を切る音。
大きな鳥でも飛んでるのかな、と空を見上げたその瞬間。
ドカァ!!という音と共に、森の奥から突然飛んできた大きな斧が、ちょうど見上げていた何もない空中に突き立った。
「……え?」
目の前の光景があんまりにもよく分からなくて、僕はぱちぱちとまばたきをする。
と、続いて森の中から飛び出してきた大柄な人影が、斧の柄を握ってそのまま勢いよく振り下ろした。
「ぬぅ、ぉおおおっ!!!!」
バリバリバリッ!!という何かが破れるような音と一緒に、何もないはずのお庭にゆら、と透明な引き裂かれた膜が揺れる。
その膜をくぐり抜け、大きな斧を肩に担ぎ直した男の人を、僕はよく知っていた。
「……コンボイ、おじさん?」
「……やあ。君を、連れ帰りに来たよ」
コンボイおじさん。
本当の名前はオプティマス……何とかだって言ってたけど、村の皆からはあだ名のコンボイで呼ばれている、とても大きなおじさん。
そんなおじさんが僕を連れ戻しに来たというその言葉に、僕は思わず一歩下がった。
と。
「慮外者が……此処が南の御山の主の住まいと知っての狼藉か」
いつの間にか後ろにいたドロップキックお兄ちゃんが、僕を後ろから抱きしめて大きな鉈を手にコンボイおじさんを睨みつけていた。
それに──。
「いきなり押し入ってくるとは随分と無作法だな。あの神主にでも力を借りたか」
──背筋がぞっと冷える。
そっと後ろを振り返れば、真っ赤な目をこうこうと光らせたお姉ちゃんが、長い長い槍を手に佇んでいた。
ぎら、と光る青いような黒いような刃が、今にもコンボイおじさんを貫こうとしている。
「疾く去ね。今回に限り命は見逃そう。だが拒めばいくら貴様であろうと草生す屍になると知れ」
しゅうしゅうと響く、お姉ちゃんの声。
こんな怖い声は今まで聞いたことがなかった。
すると──。
「……確かに、ここは貴女の領域だ。幾ら神主殿から力を借り受けていようと、流石に貴女達の相手は厳しい」
ごとん、という重い音。
見れば、コンボイおじさんが今まで担いでいた斧を地面へと降ろしている。
そしておじさんは、縋るようにシャッターお姉ちゃんをじっと、真正面から見つめた。
「だが南の姫宮よ、聞いてくれ。貴女も人であったのだから分かるだろう、どれほど人間というものが自分と異なるものを忌み嫌うか。これだけの時間を共に過ごしたのだ、もうすぐ彼は少しずつ人ならざるものになる。そうすれば、彼の戻るところはもうなくなってしまうんだ」
「……それが、どうした。ここがそうであればいい。ここが、坊の帰る場所であればいい!!」
ふわっと体が浮く。
気づけば僕は、お姉ちゃんの腕の中に収まっていた。
痛いぐらいにぎゅうぎゅうと抱きしめられる僕は、そこで正面のコンボイおじさんがとても寂しそうな顔をしたのが見えた。
「姫宮。姫宮、聞いてくれ──」
──バンブルビーはもう死んだんだ。あの子は還ってこないし、その子はあの子の代わりにはならない。
その瞬間、時が止まってしまったような気がした。
お姉ちゃんがひゅっと息を止め、お兄ちゃんは体を固く強張らせる。
まるで柔らかな彫刻になってしまったような二人に、コンボイおじさんはなおも言葉を掛けた。
「お願いだ、その子を帰してくれ。その子が道を外れる前に、分かっているはずだ、この暮らしの先に未来などないことを……」
「ッッ黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れェェェッ!!!!」
血を吐くような声がした。
僕の体に回されている腕に更に力が籠められ、全身が悲鳴を上げる。
思わずいたい、と言いそうになった僕は、そこでお姉ちゃんの顔を伺い見てはっと息を呑んだ。
「分かっている、分かっているさ、百も承知だそんなことは!!!!例え坊をどれほど慈しんでも、心臓をくり抜いて捧げてやるほど愛しても、あの子は、ビーは、私の可愛い蜜蜂は、もう、帰っては、」
お姉ちゃんは泣いていた。
ぽとぽとと目から涙を落としながら、怒って、悲しんでいた。
そのうちお姉ちゃんは怒りを吐き出すようにして地面に蛇の尻尾を一度叩きつけると、手にした槍を地面へと突き刺す。
するとバチッ、という静電気のような音を立てて、コンボイおじさんはどこかに消えてしまった。
でも、コンボイおじさんがいなくなっても、その場の空気は石のように重くなったままだった。
カット
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00:55
アイザリス
改めていらっしゃいませー!
01:30
やなはる
改めてこんばんは!
01:43
アイザリス
さっきはすみませぬ……
02:11
やなはる
いえいえ私もよくやりそうになるので……
10:11
やなはる
コンおじつよい……
10:26
アイザリス
コンおじですからね……
10:34
アイザリス
というかよくコンおじとお気づきに
11:07
やなはる
斧と言えばコンおじですからね……
11:29
アイザリス
確かに……
30:41
やなはる
姫宮呼びとても好きです
30:58
アイザリス
ありがとございます(U'ω')結構悩んだ末姫宮になりました
33:39
やなはる
シャネキにとても合います……!
33:51
やなはる
ビーちゃん……
34:01
アイザリス
やったぜ!
34:25
アイザリス
まあビーちゃんいたらシャドロにいの一番に関わってるはずなので……出なかったということはまあそういうことでした……
35:18
やなはる
なるほど……
42:38
アイザリス
一度この辺りで区切らせてもらいます!!見てくださってありがとうございました!!
42:51
やなはる
お疲れ様でした!!
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