「カミロ!」
 虐められている僕を庇ってくれたのは、グラシアだった。
 小さい時の僕は小さくて、女の子みたいで、よくいじめられていた。
 グラシアは赤毛のカッコいい女の子。
 その緑色の瞳は大きくて、ぎろりと彼女が睨むと僕を虐めてた奴らはすぐに逃げ出した。
 グラシアには騎士のお兄さんがいて、小さい時から訓練しているみたいで、強かった。
 僕もグラシアのように強くなりたい。 
 グラシアに守られるのではなくて、守れるようになりたい。 
 そう思って、僕もグラシアのお兄さんに剣技を教えてもらった。
 そうして僕らは十四歳になった時に、騎士団の入団試験を受けた。
 その時の僕は、もう弱い僕じゃなかったし、虐められることはなくなっていた。
 身長もグラシアと並ぶくらいにまで伸びていた。
 僕たちは平民だったけど、騎士団は、貴族だけじゃなくて平民からも団員を募集する。
 もちろん、隊長クラスは皆お貴族様だけど、副隊長には平民でもなれた。
 騎士団で訓練して、二年後に僕は、俺は、グラシアの身長を越して、模擬戦で戦っても、勝てるようになっていた。
 十七歳で、正式な騎士になり、魔獣狩りに駆り出されるようになった。
 俺とグラシアは、第三分隊に配属になった。
 気のいい先輩ばかりの隊だった。
 アリシオ先輩は、鍛えるのが大好きな人で、よく筋肉を見せびらかせていた。
 グラシアが、それを触ったり、自分もこうなりたいとか言っていて、慌てて止めた。
 彼女は男っぽいけど、ちゃんと女だ。
 胸もあっていつもは布を巻いて押さえている。
 顔も可愛らしい。
 昔は守ってもらっていたけど、もうその必要はない。
 そう思ったのに、俺は、僕は彼女を守れなかった。
 魔獣退治の途中、彼女を僕を庇って、呪いをうけてしまったのだ。
 もちろん、その魔獣は退治したけど、呪いは解けなかった。
 呪いにかかった彼女の身長は伸びて、その肉体も丸みがなくなり、顔は可愛いから凛々しい感じになってしまった。
 極めつけは声、なんか僕より低音のちょっと色気のある声になってしまったのだ!
「グラシア!絶対に、俺が呪いを解いて見せる!」
「いや、別にいいけど。ほら、もう胸を押さえなくていいんだよ!」
 彼女は突然上着を脱ぎ始めて、上半身裸になる。
「グラシア!」
「おお、すげぇ。大胸筋。さわっていいか?」
 筋肉大好きなアリシオ先輩が目を輝かせて、グラシアの胸を触ろうとした。
「いい、」
「だめ、ダメにきまってるだろ!」
「なんだよ。カミロ」
「あら、いいわねぇ。この感触」
「ギエム先輩、何してるんですか?!」
「え、感触を確かめているの。すっかり女の子じゃなくなったのね。グラシアは」
「いやいやいや」
「はい。男になったみたいです。すっごい快適です」
 ギエム先輩は、平民には珍しく銀色の髪をしている。その上細身の整った顔だ。とても綺麗な人だけど、男性が好き。
 そのことを俺は知っていた。
 だから男になる前は全然グラシアに興味なさそうだったのに。
「ギエム先輩、離れてください」
「ギエム。俺も触りたいぞ。ずるいな」
「アリシオ先輩。あなた、変態ですか?!」
「いや、今は男だからいいだろ?グラシアだって、俺の大胸筋をよく触っていたし」
 確かに、彼女は触っていた。 だけど、彼女は女性だ。今は肉体的に違うけど。
「男性体っていい!私、もっと強くなれるかもしれません!」
「グラシア。そうだな。お前はもっと強くなれる。明日から俺と一緒に鍛えよう」
「アリシア先輩!よろしくお願いします」
「グラシア。呪いを解くほうを、」
「カミロ。どうやら、グラシアの呪い解きたいのはあなただけみたいよ。諦めなさい」
「なんですか、それ。いや、呪いですよ?!」
 僕の、俺の初恋の人は呪いで、男になってしまった。
 だけど、本人を含め、誰も呪いを解きたいとは思っていないようだった。
「カミロ!今度は私が勝つから!目に物見せるよ!」
 彼女は満面の笑顔でそう言い放つ。
 俺は、僕は彼女に告白するつもりだった。
 付き合ってっていうつもりだった。
 だけど、彼女は男になってしまった。
 どうしたらいいんだ、僕は……。
 ☆
「困りましたねぇ。だけど、グラシアさんは困っていないみたいだし、報告しなくてもいいのではないでしょうか?」
 騎士団に戻った俺たちを見て、眼鏡を拭きながら分隊長のダルミロ様が言う。
 ダルミロ様でお貴族様。
 問題を起こしたくないが口癖で、現場にも極力行きたくないため、今日も別行動をしていた。
 分隊長だけど、貴族様だからいいみたい。
 ダルミロ様は本当に報告する気はないみたいで、今日は解散と言っていなくなってしまった。
 分隊長のダルミオ様のことは諦めた。
 だけど実の兄は焦るはずだと、グラシアの兄で、現副団長のエレダー様にも伝えてみた。
「そうか。男になっちゃったか。まあ、しかたないね。本人喜んでるし、いいんじゃない?」
 エレダー様は苦笑しながらも、問題とは思っていないらしく、グラシアの受けた呪いはそのまま放置されることになってしまった。
 まじで?
 僕は、俺は、グラシアを守れるくらいの騎士になりたかった。
 彼女が俺を庇って、呪いを受けるまでは、俺の方が強かったんだ。
 でも今は……。
「参った」
「勝ったぞ!」
「おお、グラシア。本当に強くなったな」
 アリシオ先輩はグラシアの赤色の髪をくしゃくしゃに撫でる。
 
「カミロ。そう落ち込まないの。ね?」
 俺を慰めてくれるのは、ギエム先輩。
 だけど、その手の動きが怪しい。
 
「グラシア。俺が勝ったら、呪いを解くことをかんがえてもらってもいいか?」
 三本勝負の模擬戦で、俺は三本とも負けた。
 本当は、三本目はしなくてよかったんだけど、一勝でもしたかったから、三回目も挑んだ。
 だけど、結局負けてしまった。
 グラシアに勝っていたのは、体力と腕力だけだったみたいで、男になった彼女に俺は敵わなかった。
 だけど、悔しくて聞いてしまった。
「いいよ。だけど、私は絶対に負けないけど」
 グラシアは俺の挑戦に不敵に笑い返す。
 凛々しくなったグラシア、でもやっぱり元の可愛さも残っていて、可愛いと思ってしまった俺は病んでるかもしれない。
 元のグラシアに会いたい。
「約束な。俺は絶対に強くなる。そして君に勝つ!」
「ふふ。受けて立とう!」
 グラシアが手を差し出し、俺がそれを取る。
 俺たちは握手を交わした。
「いいなあ。燃えてきた!カミロも、俺の下で鍛錬するか?」
 ということは、グラシアと一緒に鍛錬?そうなるときっと俺は強くなれない。彼女より。
「アリシオ。カミロは私が受け持つわ」
「ギエム先輩?!」
「カミロ。あなたもわかっているでしょ?アリシオの下で鍛錬しても、グラシアを超えることはできないわ。それなら、私があなたを鍛えましょう」
 ギエム先輩は、女性的な話し方して、その、男好きなんだけど、強い。
 いわゆる細マッチョ。
 アリシオ先輩より体は小さいんだけど、互角に戦うことができる。
 だけど、問題は……。
「カミロ。大丈夫?ギエム先輩と一緒で?」
 グラシアは心配そうだ。
 彼女に心配されるなんて、男らしくない。
 俺は彼女より強くなるんだ!
「大丈夫だ。ギエム先輩。よろしく指導お願いします」
「おっけー。ふふふ。たっぷり指導してあげるわ」
 ぞわっと鳥肌が立ったんだけど、気のせいだよな?
 こうして、俺はグラシアに勝つために、ギエム先輩の下で鍛錬することになった。
 闘志をメラメラと燃やしていると、ぱんぱんと乾いた拍手の音がした。
 現れたのは分隊長のダルミロ様だ。
「はいはい。皆さん。午後からは魔獣退治に出かけますよ。準備してくださいね」
「魔獣退治。今日はどこに行くんだ?」
「カルテナの森です。近くですよ」
 カルテナの森は、馬で二時間のところにある。 
 街を出てすぐのところにある森だ。
 俺たち四番隊は通常、そんな近場の仕事はないんだけど。
「前回のあの呪いを使う魔獣が出たようです。私は話してないのですが、呪いのことは広まっていましてね。誰も行きたがらないのです。だから、私たちに声がかかったということです」
「同じ魔獣?!」
 もしかして呪いを解く鍵があるかもしれない。
 っていうか、もう一回呪い受けたら、女に戻るとか?
 うん、うん。そんなこと考えたらいけないぞ。カミロ。
「それでは後二時間後に出発です。各自用意してくださいね」
 ダルミロ様は俺たちにそれだけを言うとまたいなくなってしまった。
 
「魔獣相手に、今の私の実力が試せる!楽しみです」
「また呪いを食らわないようにしろよ」
「あ、私は食らいたいかも。女の子になりたいわ」
 ギエム先輩は俺をちらりと見ながらそんなことを言う。
 俺の卑怯な考えを見透かしているみたいだ。
 一度呪いを食らっているグラシアがまた食らったらどうなるかわからない。
 正当な方法で、グラシアを戻そう。
 まずはその魔獣から何か情報を得よう。
 そして、グラシアより強くなって、呪いを解いてもいいって言わせるんだ。
 がんばれ、俺。
 
 
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