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紅白饅頭が配られきるのを待つ間、小林と私はぼーっと横を向いていた。特別な日なんだから、別に教室で喋っていたっていい雰囲気があったけど、もうあまり話すことも無かった。
きれいに片付けられた座席から、これまた大体片付けられたカバン入れが見える。一個だけ、体育着のナップサックが入ったままの個室。みんなと同じ白テープの上に、書きにくかった記憶のあるマジックペンで「30 藤田」。私たちの友達の名前。
藤田の名前を塗り消すように、上に緑の養生テープが二、三重に貼ってある。そこには大人の字で「藤田薬局に遊びに行ったり、電話するのは禁止です」。
何か色々言っている担任も、「三十八人全員で」とか、「みんな揃ってこの日を」みたいなことは、さすがに言わない。
「スギワラ、」
帰り道の昇降口で、小林が話しかけてきた。苗字の本当の読み方は「スギハラ」だけど、三年の時に「原」の漢字を「ワラ」と呼ぶブームが起きて、小林と藤田は私をそう呼ぶようになった。五年のクラス替えで一緒になった奴らは、この由来を知らないし、説明するのは難しい。
「藤田んちの人に、めっちゃ怒鳴られたわ、俺」
小林が、藤田が学校に来なくなってからのプリントをまとめて持っていこうとしたのは、もう随分前のことだ。あれ以来、藤田とのやり取りは教師がやることになった。
「マジ」
「マジマジ。……」
だから行くなよ、みたいなことを言いたそうだった。私以外と話す時の小林なら、付け足して、女子なんだから、みたいなことも言いそうだ。
小林と藤田のあいだに私が入り込む形で友達付き合いをするようになったのは、三年の頃だ。だからもう、私たちは相当変わっている。
私はツインテールをやめたし、小林は床屋だか美容院だかに行くようになったのか、髪の毛がすごく短くなった。高学年になってから、自分たちの見た目はテレビで見る「中高生」にすごいスピードで近づいている。背の順は相変わらず遠く離れているが、私は後ろに二人付けて並んだり歩いたりするのがやりづらくなった。小林ももう一番前じゃないけど、夜まで起きてるから大して伸びないだろう。
藤田がまだメガネを掛けたり掛けなかったりする暮らしをしているのかどうかは、知らない。藤田薬局の「藤田」があの藤田の藤田だなんてことも、奴が学校に来なくなってから知ったのだ。
見た目通り、私たちは別々の学校に行く。小林との友達付き合いが終わることは、なんとなく覚悟が出来ていた。ゲームセンターで制服の小林を見ても、分かるかどうか知れない。
義務教育だから藤田も中学校に入るはずだ。受験のいらない学区の中学校かもしれない。それともあの薬局の二階か三階かで、ずっと勉強してるのかも。私はそれも知らない。あの感じだと、小林も知らないのかも。
藤田との仲に諦めを付ける準備は、ぜんぜん出来なかった。
頭が熱くなる感覚があって、私は気付いたら泣いていた。声の代わりに涙がぼろぼろ出てきた。この場所ではそれが全然不自然なことじゃなくて、周りにも何人か泣いてる奴がいて、もらい泣きみたいになってるのが悔しかった。
藤田を見殺しにして、私は来月、一度死ぬ。