扉が開く音が聞こえてきて、手に取ったピザを口に運びながら入口の方へ顔を向けると、フラフラと歩くキースがいた。明日の午前中はオフだからとリリーさんに連れられる形で飲みに行ったのは知っていたし、時計を見ると日付を越えるのはまだ先だ。まっすぐに歩くことも出来ない状態だけどちゃんと服を着て帰ってきている。それだけでも一日オフの前日と比べたら量を抑えていることが一目で分かった。
「たっだいま~」
「おかえりキース。凄い上機嫌だな?」
「そうそう聞いてくれよディノ~」
 一欠けらを飲み込んで壁にぶつかっているキースに声をかけると顔を上げた。ようやく俺の存在に気が付いたように笑うと、いつもよりワントーン高い声を発しながら俺の傍に近付いてきて、隣へと腰掛ける。そして今日の飲みの席でのリリーさんとの話題や、その場で会った知り合いの人たちとの出来事を楽しそうに話し出した。その中には俺の知らない名前も出てきたりして、俺にとっては空白の月日もキースにとっては沢山の人との出会いを繰り返してるのだと感じてどこか嬉しく思う。寂しさが無いと言えば嘘になるけど、アカデミーの頃は自分から人と関わろうとしていなかった姿を見ている分嬉しさの方が勝っている。
「ディノ、聞いてるか?」
「うんうん、聞いてるぞキース。すごく楽しかったんだな」
「おう、そうだぞ~なんせあの悪ガキがまともな職についたってのが嬉しくてな」
 キースの言葉に耳を傾けていると、突然言葉のボールが投げられた。聞いてないわけではなかったけど、つい、違うことを考えていたことは伝えずに笑うとすぐにまた上機嫌に話を再開させる。頷きながらピザと一緒に用意していた飲み物に手を伸ばそうとしていると、同じようにキースの手が俺へと伸びてきた。
「そんで、ディノに会いたくなった」
「え。なんで突然そこで俺?」
 顔に触れた指でそのまま頬を包むように優しく、壊れ物を扱うようだ。普段は冷たいキースの手が温かい。それまでの話をしていた声とは違って真剣なトーンで、真面目な眼差しを向けてくる。アルコールの入っていて蕩けた瞳がとても綺麗で吸い込まれそうだと思う。
「……なんでだろうなぁ」
「おわっ」
 ぽつりと言葉を呟くと手に力が入って引き寄せられる。額がぶつかって、更に距離が近くなってキスできそうだなぁ、なんてぼんやりと考えているとキースの方から唇が触れてきた。軽いその口付けはすぐに離れてしまって、顔を肩へと押し付けられる。
「アイツらと出会ったのは酒を飲む場所だったんだけど、その度にディノのことを思い出してたんだよなぁ……お前ならこうするのかなって」
 背中へとキースの腕が回される。耳に熱い息が当たって胸がドキドキと煩くなっていくのに、頭の中は冷静になっていく。
「その度に隣にいないお前を探してよ。……こうやってディノがここにいるっていうのが嬉しくて飲みすぎちまったよ」
 ぎゅっと手に力を籠められる。楽しい日々を過ごしている裏側で俺のことを思い出してことに対してどうしようもない気持ちになる。生きているという事は隠して、殉職した事になっていた俺はもういない人間だったはずなのに、キースは何度も俺の姿を思い浮かべてくれていた。そのことが申し訳ないと思いつつも少し、いや、かなり嬉しいと思ってしまった。まるで空白の時間の間でも、キースの隣に俺が立って入れたような。そんな気持ちになる。
「……なぁキース、まだ起きてられるか?」
「お? お~全然大丈夫だぞ。っつーかヤりてぇんだけど」
「わ、ちょ、そっちはちょっと待って!?」
 キースの腕の力をそっと解いて、再び額をくっつけた。蕩けた瞳は相変わらずだけど、そこに籠った熱の色を知って顔が一気に熱くなって肩を押しやる。距離を作ろうとしたのに腰に回っていたからそんなに空間を作ることが出来なかった。
「い、一緒にピザ食べようよ。俺とキースが一緒に居られるお祝いってことでさ」
「なんだそれ」
「あっ、記念日って形でもいいな? そうしたら毎日がお祝いできる良い日になるぞ」
「バカだなぁ」
「あ、なにそれひどい」
 期待で熱くなっていく全身から意識を逸らしながら、思い浮かんだ言葉をそのまま口にする。じぃと見つめていたキースの瞳が不貞腐れた子供みたいになっていくけど、ちょっとずつ、いつもと同じようなやりとりへと変化していく。
「俺だってキースと一緒に居たいんだ。だからこれから毎日、ずっと、俺達の記念日にしようよ」
「欲張りだな」
「いいじゃん。キースは違うの?」
「……ちがわねぇな」
 小さく笑ったキースの口元に今度は俺からキスをした。深いのをやるとキースが止まらなくなりそうだから我慢してすぐに離れると顔を逸らしてピザへと手を伸ばす。冷めて固まったチーズでもピザが美味しいのには変わらないけど、この後のことを想像してみると味が不思議とあまり感じない。
「さっさと飲んで食ってヤろうぜ」
「……キースは水だけな。少しは酔いを醒ましてよ」
 どこかお預けをくらったような声を一蹴する。これ以上酔わせたら期待してたものもダメになるかもしれないと、不満げな声を漏らしているのを余所に残っているピザを早くたべきることにした。
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みつき
画像化してきま~す。覗いてくれた方、ありがとうございました!
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20210717キスディノワンライ
初公開日: 2021年07月17日
最終更新日: 2021年07月17日
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