昨日の夜のことだ。いつもの夢を見ていた。昔からずっとずっと見続けている夢だ。俺は一人で道を歩いていてその先に二又に別れた道がある。俺は右に曲がってすぐにこっちは行き止まりだなって気づくけれど振り返るともう来た道は消えている。そうして本当は左に行くはずだった俺を置き去りにして俺は行き止まりの道を知りながら歩き続けるしかなくなるのだ。
 俺はずっとそうだったしこれからもそうだろうと思っている。思っていた。世界の誰からも忘れ去られたかつての俺はきっと左の道を選べた俺なんだろうと思う。だけど今の俺は。こうして天井を眺めてただ泣いていることしか出来ない俺は右の道を選んでしまっている。選ぶほかになかったとは言い訳のようだけれど。
 俺はこの道が日々が生活があんたとの毎日が行き止まりだなんて信じたくなかった。ずっとずっと続いていくと無条件に信じて生きていくしかあんたの隣に立つ方法がない。俺にはなんにもない。過去も現在も未来も大事な人やものや俺自身を俺がコントロールする術もなにもかも。なにもかもを失っていま俺はここにいる。道を違えた俺がそれら全部を持っていってしまったから。
 それでもヴィンセント。あんたは俺の隣にいてくれる。理由を聞いたことはないけれどあんたのことだから犬でも拾ったつもりなんだろうか。俺が犬になってもあんたは変わらず愛してくれるだろう。飯を作り風呂に入れて髪を(毛を)乾かして俺が寝付くまで腕の中でゆっくりと背中をなでさすってくれるに違いない。都合の良い夢はそのまま現実に繋がっている。あんたは文句を言いながら俺の世話をする理由を俺に押し付けようとはしなかった。
 何もかもを間違っている俺をあんたは許してくれる。怖い夢を見て泣いて飛び起きる俺を抱きしめてくれる。たまに寝小便をした俺を眉ひとつひそめることもなく風呂に投げ入れて丸洗いして小便だらけの服を洗い流して洗濯機に放り込んでくれる。俺が見る夢をあんたは全身で否定する。俺の選択が正しくはなくともそれでも間違っているわけではないと教えてくれる。それはあんたの中ではきっと当たり前のことなんだろう。俺にとって奇跡であっても。
 夢を見て飛び起きる俺を明日も明後日も一年後も十年後も見限らないでいてほしいとは言えないけれど例えば俺が不安になって足を止めてしまったら後ろから俺の目を隠して耳元でそっとこう言ってほしいんだ。「振り返れば私がいる」って。そうしたら俺はもういつかのもう二度と会えない俺を羨むこともなくなるから。
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