ミッドガルの夏は暑い。
 ……。訂正。ニブルヘイム以外の夏は全部暑い。いっそ熱い。
 地面に突っ伏している。正確にはマンションの床にじっとりとべっとりとスライムのように溶けて倒れている。こんなに暑いなんて聞いていないし天気予報も予想外の暑さとなるでしょうなんてのんきに言っているがこんな暑さの中で出かけたら死んじゃうよ。日傘とか溶ける。そういうレベルの話。暑さに弱い俺は部屋中のドアを開け放して冷房をガンガンにつけて冷蔵庫に顔を突っ込んでいた。ついさっきまでの話だ。冷蔵庫には俺たちが朝に食べるオムレツやコーヒーに入れる為の卵や牛乳がたくさんストックされていてそれは時々昼飯になったり夕飯になったりするのだがとにかくこの二種類だけはいつでも冷蔵庫に補充しておきたい。朝から牛乳の為に買い出しに行くとか秋や冬ならともかく夏だけは勘弁してほしい。そうその卵と牛乳が傷むからやめろと冷蔵庫から引き剥がされたのがそのついさっきの話だ。ついでに冷凍庫のアイスも没収された。曰く食べすぎて腹を壊すからだそうだ。俺は子供じゃないし自分の腹くらい面倒見れると大見得を切ってはみたが先週の土曜にアイスを一箱まるまる空けて見事に腹を下したのでもう何も言えなかった。ヴィンセント。あんたはいつでも正しい。正しいけど俺はいまとにかく暑くて死にそうなんだけど。
 ぶつぶつ言っている俺に辟易したのかヴィンセントは風呂場に行って帰ってくるとまるで猫の子でも運ぶみたいに俺を拾い上げた。一応成人男性の並くらいには体重があるんだが規格外のあんたから見たらまあ子猫みたいなものだな。そういうことにしておこう。そう思ってくれてると嬉しいし。うん。そしたらそれこそ猫の子よろしく水を張った風呂に放り投げられた。文字通り投げられたので鼻に水が入った俺は盛大にむせて咳き込んで泣いた。健康的な泣き方は久しぶりで鼻の奥が痛かった。それから頭から水のシャワーをかけられてもういい寒くなってきたからやめろと訴えるまでヴィンセントは黙ったまま俺に水をかけ続けた。俺は植物とかじゃないんだが。植物なら光合成の一つでもするだろうと返されるのがオチなので俺は黙っていた。
 とまあそんな経緯を経て熱が引いていった俺はようやく涼しくなった部屋の中で冷たい床に頬をつけてぺしょりと寝転がっている。これで話が冒頭に戻ったな。ヴィンセントが毎日こまめに掃除をするから埃一つ(それは言いすぎだが落ちているものと言えば黒い長い髪が一本とよく見えないけど俺の金の髪も落ちているに違いない)ない床は頬をつけても全然平気だ。さすがに舐めれはしないけれどどうしてもそうしなければいけないなら俺はこの部屋の床を選ぶと思う。うん。
 ミッドガルの夏は暑くて俺は床でとろけてヴィンセントはあの長くて暑苦しい髪を結い上げてちょっと濃い目の乳酸飲料を作っている。まあまあ悪くない。
カット
Latest / 15:01
カットモードOFF
文字サイズ
向き
チャットコメント通知