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風呂上がりの背中に抱きついてあんたの髪に顔を埋めるのが好きだ。同じシャンプーを使っているのにどうしてこんなに良い香りがするんだろうな。あんたの髪の量が量だから香りをたくさん残しているのかそれともシャンプーにさえあんたは好かれてしまうのか。わかんないけどあんたからはいつも良い香りがする。それは俺たちが一緒に住み始めた頃に初めて知ったことでそれ以前はあんたの匂いだって知らなかった。知っていたとしてもあの頃の俺たちは毎日土まみれ泥まみれ血まみれあるいは煙にまみれていたからたとえ顔を埋めても思い切り顔をしかめるしかなかっただろうな。俺はいまこうしてあんたの背中にくっついているのが結構な幸運だってことくらい自覚しているんだ。
さてそのヴィンセントの髪だが一度は切ったことがあるのだがその頃のあんたの背中はなんだか寂しくって俺はいつもよりもずっと肌と肌をくっつけてあんたの首筋にまで顔を埋めていた。さすがにくすぐったいとあんたは俺を追い払う仕草をしたので俺もそれなりにショックを受けた。あんたに拒否されることは基本ないものだからそりゃあ驚いたものだ。そんな俺にショックを受けたあんたがまた髪を伸ばし始めた時は嬉しかった。自分の体をある程度好きにコントロール出来るあんたが一瞬で髪を伸ばしたりせずに一年二年と人よりはずっと早いけれど自然に感じられる速度で髪を伸ばしてくれたのは俺の為だって思っているんだけれどそれは多分合っていると思うんだ。どうしてかなんて聞いてくれるなよ。それくらいあんたならきっとすぐにわかってくれるって俺はあんたに全面的に甘えているから。
そうして伸びた髪を前に俺は餌を前にした獣みたいにあんたの背中に抱きつきにいく。長く豊かに伸びた髪に顔を埋めて思い切り肺いっぱいにあんたの髪の香りを嗅ぐのはとても良い気分だ。うっとりする。だってこれは俺しか知らない俺だけの特権なんだから。あの頃の俺だって知らない。本当に俺一人しか知らない。それを許してくれるあんたの背中はいつだって俺を迎え入れてくれる。俺は俺の為にそしてあんたのこの素晴らしい黒髪の為にあんまり興味がないシャンプーとトリートメントをじっくりと選んであんたが持つ買い物かごの中に放り入れる。それをちらっと見て頷くだけのあんたがちゃんとそれを使ってくれるのが俺は嬉しい。
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初公開日:
2021年08月14日
最終更新日:
2021年08月19日
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