陽光に照らされたレースのカーテンが、揺れながら白く光っていた。枕から頭を離さないまま、その様を夢心地で眺めて、昨夜の絵里のベビードールを思い浮かべた。日焼けした肌が透けて見える真っ白なベビードールを、絵里は得意気に身に纏って、まるでポールダンサーのようにひらりと回って見せてくれた。田舎の安いラブホテルという俗っぽい場所のせいで、その姿は古い洋画のワンシーンを切り抜いたみたいだった。絵里は綺麗だから絵になる。もっと続けてほしいというリクエストに散々応えてから、絵里は我慢の限界だと体全部を使って主張して、私のいるベッドに飛び込んできた。そこからはなし崩しで、もつれ合って楽しんで、何時まで続いたのかわからないが、やっと眠ったのは朝に近い時間だったはずだ。
 気怠さに流されて枕から離れないままでいる私の背後で、絵里がベッドへ飛び乗った。マットレスが揺れ、剥き出しの肩にいくつもの滴が垂れてきた。
「先にシャワー浴びちゃったよ」
 知ってた、という一言さえ言い終わらぬうちに、額に絵里の唇を受ける。そのまま抱き起こしてもらって絵里の髪を拭きにかかりながら、割れた爪のせいで指先が痛むことや、青痣になってしまった二の腕が動かしにくいこと、そのわりに気持ちは晴れやかでさっぱりしていることを一つずつ感じ取った。昨夜の目も当てられないような二人の行いは、レースのカーテンを揺らす風が攫ってどこかへ消してくれたに違いない。
「ラブホのシャンプーなんて使うもんじゃないよね。髪がぎしぎしになっちゃった」
「後でドラッグストアに行こう」
「大丈夫かな?」
「まだそこまで気にしなくてもいいと思う。今日は日曜日だし、一日ゆっくりできるはず」
 納得したのか、絵里は笑いながら後頭部を押しつけてきた。湿ったバスタオルが素肌に冷たい。愛らしくて、可愛いと思う。それなのに綺麗だから、絵里は特別だ。特別に神様に愛されて生まれてきて、だからこそ愛されながら生きていく。これまでも、これからも。
 ある程度覚醒したことを察した絵里にバスルームへと追いやられ、全身を綺麗にして出てみたら、絵里はショーツ一枚で窓辺に寄り添っていた。田舎の海沿いのラブホテルだ。外から覗かれる心配もない。ドライヤーを面倒臭がる絵里の髪が重たげに風を受けるので、自分のことよりも先に絵里の髪を乾かしてやった。そうしてドライヤーから解放するとまた窓辺へ行った絵里は、上機嫌な様子で鼻歌を風に乗せていく。
 自分の身支度が終わったら、絵里を連れてドラッグストアへ行くのだろう。そこで髪をケアするものを買って、ついでに飲み物も買って、長距離のドライブへ繰り出す。昨夜、五時間かけてこのホテルまで来たのと同じで、また何時間もかけて遠くまで行くのだ。絵里がいいと言うのが先か、世間に叱られるのが先か、私にはわからない。それでも、絵里が望むようにする。
「ねえ、正美ちゃんの旦那さんって本当に休日出勤じゃなかった?」
「違うよ。ちゃんと確認したから」
「じゃあ、絶対に今日は大丈夫なんだね。安心していいんだよね」
「いいんだよ。今日の私たちは自由、これは決定事項」
 昨夜放り出してきた自宅を思い浮かべようとして、やめた。あんなに汚いものを思い出すなんて、綺麗な絵里を目の前にしている今だけは避けていたい。本当にはずみだった。うっかりしていた。泊まりでゴルフに行く予定が変更になったことを知らなかったにせよ、突然のことで動転してしまっただけなのだ。
 自分の髪にドライヤーの風を当てながら、窓辺の絵里を見た。相変わらず綺麗で、昨夜の様子が嘘みたいに思える。むしろ、そうであってほしい。うっかり手を出してしまった私に便乗して、髪を振り乱して大暴れして、死体になってしまった私の夫を床に転がしたまま飛び出して、古びた外観のラブホテルに駆け込んだなどというストーリーは、絵里には似合わない。
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