【夜】が生んだ光は温かく地上を照らした。恵みを受けて、穀物の穂は金色に輝き頭を垂れる。今年もたくさん実ったなと、人びとは笑みを浮かべながらひとつひとつ丁寧に刈り取っていく。
 実った穂が半分ほど籠に入れられたときにそれは起きた。
「なんだあれ」
 腰の痛みを訴えながら、ひとりが空を見上げた。空の一番高い所で輝いている光が少しばかり欠けていた。光の欠けは見る見る間に大きくなり、すっかり光を隠してしまった。夜にもなっていないのに、辺りはすっかり暗くなっていた。初めて見る光景に、若者は息を荒くする。
「なにも恐れることはない。邪魔をすればそれこそ命を持って行かれてしまう。見つめ続けるんじゃないよ」
 しわがれた声は、物知りで長生きの老婆のものだ。特別な力があるわけでもないその老婆の声に、皆素直に従って、光から目を逸らし、穂に目をやる。
「だが暗くてはなにもできない。我々は、光を怒らせたのだろうか」
「怒ったのは……いや、我慢ができなくなったのは夜のほうだよ」
 老婆は言った。夜が光を隠してしまうのは、なにも初めてのことではないと。老婆がまだ若い娘であった時分にも似たようなことがあったのだと。
「光は【夜】の娘だが、我々のような明かりの下で生きる者たちのために、毎日【夜】の館から灯火を持ち出しているのだよ。だがそのお陰で【夜】はひとり娘にろくに会えもしない。だからこうして時折悪戯をする」
「だって私だけ会えないのは不公平なのだわ!」
 娘の手にした灯火を覆い隠した【夜】は叫んだ。叫んだが、日頃あまりにも声を出さないものだから、それは勢いのある囁き声に他ならなかった。
「母様、そう言ってなんだかんだ一年に一度はやっているじゃないですか」
「だってちょっとだけ灯火を貸すだけのつもりだったのにこんなに会えなくなるだなんて思わなかったのだもの!」
 【夜】をなだめて、光が再び顔を出すには、そう時間はかからなかったという。
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即興小説30分
お題:夜の嫉妬
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【書く前】
夜の擬人化としての嫉妬。夜の時間に嫉妬している人間とかだと不得意分野な気がする。夜が抱えている嫉妬。
昼に嫉妬している夜ってのは思いついたけど、使い古されている気がするのと、そんなに昼が羨ましいような要素もないしなあ
夜が欲しいものを持っている? 夜と昼が入れ替わる神殿が出てくる神話なかったっけな。ニュクスとかそのへんだったかな
 →ニュクス(夜/母)とヘーメラー(昼/娘)だ。西の果ての館を共有していて、昼夜入れ替わる一瞬だけ共有してるってやつ
  ヘーメラーは人間たちのために光を携えて館を出て行くとされる(wikipedia)
 ……で? 
夜が昼に嫉妬するんじゃなくて、昼の時間をとるものに嫉妬するとか???
1 光が存在していない時代。いままで禄に自我もなかった生物たちが目覚める。よく眠れるが、何も見えなくて不便
2 夜は娘を生んだ。ただの娘だったが、光を持つ役割を与えた。大事に育てた愛娘だった
3 生き物たちは初めて見る光を眩しがったが、そのうち有り難がって、夜と半々にすることにした
4 半々になってしまったから娘といられる時間が短くなった。腹立たしいので、夜は時折昼の時間を独り占めすることにした
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【書いた後】
神話そのままじゃないけど、神話というか御伽噺風味。
流れている年月の感覚が違うから天上では年いちくらいの。
登場人物の名前に関しては、この固有名称なしの方式がよさそう。世界観も固定されないし、あとから加筆しようとしたときに想像広げやすいし。
30分になったけど、時間配分はまだつかめてない。なんとなく、構成→10分 執筆→20分 を目安にするのがよさげ?
「あれなんだったけえな」ってなったときに調べられる時間の余裕が出たのは◎
題材的に神話民話は使いやすいから引っ張られすぎないように気を付ける。気を付けるけど、家にある童話だか民話の全集はもう一度全部読んでもいいかもしれない。
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