ひぃ。と男の耳元で音が鳴った。黙々と歩き続ける男には、それが人の悲鳴のようにも聞こえたようで、灰色がかった海の方へと視線を投げる。
風に削り取られた崖沿いから見渡せる海は果てがない。それに水面からの距離も遠く、たとえなにかが溺れて助けを求めていたとしても声が届くはずもなかった。それ以前に、そもそも声を発する者は残っているのかも怪しかった。
気のせいだなと結論づけて男が再び歩き出すとまたしても、ひぃ。と声が鳴る。何度も繰り返し聞こえる同じ悲鳴に気を取られて歩みが止まる。
このままでは進むに進めないと思って、男は崖から身を乗り出して海を確認した。ざくざくとした波間に人影はない。だがひとつ目を引くものがあった。ふたつ寄り添うようにひとかたまりになった岩だ。人が石となって、風や波に削り取られていけばあのような形になるのだろうなと思わせるような、荒い造形をしていた。
風がもう一度強く吹くと、二人の間を鋭く通り抜けた大気がまた、ひぃ。と悲鳴を上げた。
「ああなんだ。そこにいたか」
崖の上に男の姿はなく、ふたつでひとつ塊を作っていた岩は三つになっていた。
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即興小説15分
お題:日本声
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【書く前】
とっかかりなさすぎてびっくり。特徴?自然超常系?
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【書いた後】
全人類岩にされた時代で石にされた人を戻していく話とかいいかなと思ったけど、取り残された人が一緒に石になる話になっちゃった。日本海みたいな……?
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