軽くて薄い、なのにあたたかい布団は文明の利器だ。冬場でも寒さに凍えることなく眠りにつける。朝目覚めて起き上がる気が失せるのが難点だがそこはそれ、利点には欠点が付き物だから仕方ない。
 そのありがたい布団を被って目を瞑ったところで、廊下へ続く襖がすぱんと開いた。
「肥前の! 布団入れとおせ!」
 夜なんだから静かにしろ、の言葉はすんでのところで溜め息に変わった。何せ、夜なので静かにしなければならないのだ。溜め息を吐ききって、努めて抑えた声で問うた。
「てめえにはてめえの布団があんだろうが」
 それも、干したてでふかふかの布団が。今日はよく晴れているから布団を干す、と聞いてもいないうちから報告してきたのは朝餉でのことだ。肥前は生憎と午前から一日出陣だったので、冷たい敷布団に横になっている。
「わしの布団湿気っちょるき」
 意味が分からない。眉間に皺が寄ったのが自分でも分かった。布団を干すのは止めたということなのか、それにしたって湿気っているとは一体どういうことだ。
 つい、と陸奥守が目線を逃がした。その仕草でようやく気付く。
「また畑に夢中になってたのかよ」
 ふらりと戻った目線が、もう一度逃げた。
 陸奥守は時間が空くとしょっちゅう当番に混じって畑仕事に精を出している。今日は畑当番ではなかったはずだが、畑に出ていたのだろう。夢中になって畑仕事に勤しんでいるうちに布団のことが頭からすっぽ抜け、日が暮れる頃になってようやく思い出した、と。日が傾くのも早くなってきた今日この頃、干しておいたはずの布団は一時と半分も過ぎれば湿気を吸って冷たくなってしまう。
「冷い布団で寝るんは嫌じゃき、入れとおせ、肥前の」
「自業自得だろ……というか何でおれんとこ来んだよ、先生は?」
 陸奥守の部屋は南海の部屋を挟んで隣だ。何かあったら陸奥守と肥前の部屋が真っ先に犠牲になるんだからね、と脅しをかけられた配置だが、今のところ壁が破られるようなことにはなっていない。南海なら布団へも快く入れてくれるだろうに、肥前のところへ来る前に南海のところへまず行ってほしい。
「先生はもう寝ちょった」
 起こすんも忍びないき、と続いたのに再び大きな溜め息が出た。いつも宵っ張りの癖に今日に限って早寝なことだ。徹夜明けだからか。そもそもおれだって寝るところだったんだがそれはいいのか。浮かび上がった言葉を声にする前に溜め息と共に押し出す。
 仕方がない。だいいち陸奥守は枕持参で大人しく戻る気などさらさら無いのだろう。抵抗しても寝る時間が遅くなるだけだ。
「おら」
 脇へ詰めて隙間を空けると勢いよく滑り込んできた。枕を並べて置いて、ぱふぱふと叩く。埃たつからやめろ。
 肥前の布団は図体のでかい刀を受け入れるようにはできていないので、二振り入ると端に隙間ができてしまう。もっとこっちへ寄れと言ったら、いやあとかなんとかもにょもにょ言い始めた。謎の抵抗を無視して引き寄せると今度はぴたりと大人しくなる。夜中でも賑やかなことだ。
 己より体温の高い陸奥守を抱え込むと、ふれあっているところから熱が移ってくるようだった。陸奥守からしてみれば熱を奪われていることになるのだろうが、飛び込んできたのは陸奥守なのだから我慢してもらうことにする。
 高性能な布団の中はもうほかほかとあたたかい。いつもよりあたたかいから、いつもよりよく眠れるに違いない。
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向き
布団にもぐりこむひぜむつ
初公開日: 2020年11月29日
最終更新日: 2020年11月29日
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