自室へ続く角を曲がると、見慣れた後ろ姿が目に入った。
「兄弟!」
呼ばわった声に大典太がのっそりと振り返った。数日ぶりに見る顔はいつも通り――否、火照ったのか赤らんでいる。
「戻ったのか」
「おう、ついさっきな。兄弟は畑当番か?」
ああ、と返した大典太の前髪は髪留めでしっかりととめられている。よく見れば後ろ髪も一つに括られているし、服も指定の作業服だ。長袖長ズボン、帽子と長靴を装備しないことには畑へ入ることは禁じられている。
夏至も過ぎいよいよ暑さを増す今日この頃、括られた大典太の髪はしっとりと濡れていた。午前中とはいえ厳しい日差しに焼かれて、大典太も僅かに疲れた表情をしている。水分を含んでしおれた髪が大典太本刃にと同期しているように見えてなんだかおかしい。
つい手を伸ばしていた。
「なんだ」
「なにってわけじゃねえけど。濡れてるなと思って」
「暑いからな」
触れた髪は見たとおり湿っていて、少し冷たかった。身を乗り出したぶん大典太に近づいて、日差しに炙られて体温の上がった体から熱が伝わってくる。こんな涼し気な顔をしておいて、太陽に煽られて熱を上げ、あまつさえ汗をかくのだなと思った。八月の日なたで昼寝をして熱中症になりかけたことも、どうにも風通しの悪い道場で汗だくになって手合わせをする姿も知っているのに。
「お前の髪も濡れてるな」
大典太の指がそろりと項を這う。出陣先も同じ夏だったせいで、ソハヤも随分と汗をかいた。湿った髪が肌にぺったりと張り付いて不快だ。爪を立てるようにしてなぞられると、引っ張られた髪がずるずるとうごめく。髪を濡らしているのは汗なのだから、そんなに触らないでほしい。口を開きかけたところで、大典太の手は離れていった。去り際、覚えのある匂いが鼻をかすめていく。
「なんだこれ……トマトか?」
「トマト? ……ああ、さっき収穫した」
自分の手を鼻に近づけて匂いを確かめる様子が幼く見える。
「もしかして兄弟、ちゃんと手洗ってないのか」
「水で流しただけだな。すぐ風呂へ入るからいいかと思って」
「俺もこれから風呂。一緒に行こうぜ」
でも手はちゃんと洗えよ兄弟。衛生班に怒られるぞ。背を軽く叩いて促す。大典太は小さく笑って、部屋へと足を向けた。
早く着替えを用意して湯を浴びて、その熱も冷まして食堂へ向かおう。昼餉の食卓には、大典太の収穫したトマトが並ぶはずだ。
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三池兄弟とトマト
初公開日: 2022年07月03日
最終更新日: 2022年07月03日
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暑い日の三池兄弟と友情出演のトマト