股引きを履き終えた陸奥守が、内番着を羽織る。しゅるしゅると帯の擦れる音がして、ぎゅうと乾いた音を立てて帯が締まる。暗闇であっても、幾度となく繰り返した動作には一切の淀みも無い。裾を帯に挟み込んで、手ぬぐいで髪を纏めて、これでよしと振り返った陸奥守と目が合った。
「……いつから見ちょった」
「てめえが着替え始めたところから」
「全部やいか……」
 気が抜けたように脱力する陸奥守の表情には、しかし安堵が浮かんでいる。肥前を起こさないようにとよくよく気を遣っていたことは分かっているから、多少申し訳なくも思う。
 内番の当番は、基本的には得手不得手が考慮される。四角い部屋を丸く掃く刀よりは四角く掃く刀に掃除をしてもらった方が気持ちよく過ごせるし、食事の美味さは士気に関わる。陸奥守は畑当番や馬当番のことが多い。汚れることを厭わず人の真似事を厭わない刀がそうなるのは当然の成り行きでもあった。けれども必ずしも決まった当番しか回って来ないわけではない。その、どちらかと言えば少ない厨当番が、陸奥守の今日の当番だった。九十人前の朝餉を用意しなければならないから、厨当番の朝は頗る早い。
 実を言えば、見ていたのは着替え始めたところからだが起きたのはその随分前だ。目覚まし時計が鳴り始める三分ほど前に薄らと目を覚ましていた。だから、目覚まし時計がけたたましく鳴り始めて三秒で陸奥守がその音を止めたことも、止めたはいいが温かい布団から出るのに十分もまごついていたことも知っている。腹を決めて布団から抜け出たことも、顔を洗いに一度部屋を出たことも、肥前を起こしていないか様子を窺っていたことも。その後肥前の額に口付けたことも知っているのだが、それは今はどうでもいいことだ。
「もう起きるかえ」
「まだもうひと眠りする」
 布団から腕を引っ張り出して差し出すと、陸奥守が手を重ね合わせた。ぬるい。普段は陸奥守の方が体温が高いから違和感がある。肥前はずっと布団の中にいるから温かいままだし、反対に陸奥守は先程顔を洗ってきたから冷たくなっている。湯を使えばいいのに、冷たい方が目が覚めるからといって陸奥守は頑なに水で顔を洗う。
「ほいたら行ってくるぜよ」
「うまいもん作れよ」
「歌仙がおるき、心配いらん」
「そうだな」
 最後に肥前の頭をひと撫でして、陸奥守は部屋を出ていった。とたとたといつもより控えめな足音が遠のいて、部屋に静寂が落ちる。陸奥守が支度をしている間ずっと起きていたが、もう一度目を瞑れば簡単に寝てしまえそうだ。
 一振り抜けた分、布団の面積は広くなった。ごろりと半回転して中央に陣取る。そういえば、この布団はひとり用なのだった。長いこと正しい使い方をしていないが、陸奥守からも文句は聞かれないので当分このままだろう。ずれた掛け布団を被り直して、静かに目を閉じた。
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61:15
橋間
終わります
61:22
橋間
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向き
朝早いひぜむつ
初公開日: 2021年02月02日
最終更新日: 2021年02月02日
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