やわらかい感触を覚えて目を覚ますと、陸奥守と視線がかち合った。肥前が感じたのは、陸奥守が肥前の頭を撫でる手つきだったらしい。いつから起きていたのか、しっかりとした声でおはようと言ってはにかむ。撫でる手は後頭部を通って布団の中へ仕舞われてしまった。
 暗い室内に雨戸の隙間から細く光りが差し込む。部屋を満たす空気はキンと冷え切っているが、差し込む光は春へと向かう季節のそれだ。二月の頭、立春ともなれば陽光もあたたかなものに変わりつつある。
 年数が経って建て付けの悪くなった雨戸は、錠を掛けても隙間が空いてしまう。初めは戸を削って調節していたが、どうにも経年劣化で隙間が空いてしまうので途中からそのままになっている。レールの方も痛んできているから、建物自体を建て替えなければもう直らないだろう。
 何とは無しに起きてしまったが、今日は非番だからもうあと暫くは寝ていられる。布団を被り直そうとして、どこからか聞こえてきた音に動きを止めた。
 ピチピチ、というか、チュンチュン、というか。甲高い、細かな水滴が跳ねるような音。耳をそばだてた肥前に陸奥守が小さく笑う。
「目白か」
「おん」
 本丸には各所に樹木や草花が植わっている。この部屋の前にあるのは梅だ。春になると海老色をしたかたい蕾をほころばせ淡紅色の花びらをのぞかせる。そうして咲いた梅の花には、蜜を求めて毎年どこからか目白が集まってくる。
 もう梅の花が咲く季節かと、先ほど光のあたたかさを思った頭で考える。ここ暫く出陣続きだったから花の様子を気にしている余裕も無かった。今いくつ蕾が開いているのか、陸奥守なら数えているかもしれない。毎年開花を心待ちにしては、今日はまだ開いていなかった、明日か明後日くらいには開きそうだと騒いでいる。今年それを聞いていないような気がするのは、そんな余裕すら肥前に無かったのか、それとも陸奥守が肥前に気を遣ったのか。梅の時季であることが頭から抜け落ちていたのも、きっとそれを聞いていないからだ。
 梅の木が建物のすぐ近くに植わっているから、雨戸を開けると目白は一斉に逃げてしまう。先に起きていた陸奥守は、目白を散らしてしまうのを避けて雨戸を閉めたままにしておいたらしかった。単に布団から出たくないという理由もあったようだが。日差しがあたたかくなってきているとはいえ、朝の空気はまだ冷たい。
 目は覚めてきたが、起きるにはまだ早い。陸奥守も、悠長にしているから当番は入っていないのだろう。鳥の囀りを聞きながらだらだらとむつみ合うのも悪くない。二振りで使うには些か小さい布団を被り直すように陸奥守を引き寄せる。きょとりと目を丸くした陸奥守は、声をひそめて笑った。
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橋間
終わります
58:22
橋間
ハートありがとうございました!
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