出張だったのだ。一泊二日のごく普通の出張。安くて、それなりに快適に眠れれば良いと思って選んだビジネスホテル(だと思っていた)でこんな目に遭うとは誰も思わないだろう。
「それで、そちらの御仁はどなたへの復讐をお望みですかな?」
 大浴場の隣の部屋に足を踏み入れたのが悪かった。薄暗く、年季の入ったバーのような雰囲気に惹かれて扉の向こう側を覗き込んだ瞬間、この老紳士に招き入れられたのだ。
「どなたにと言われても困っちゃいますね……」
「ほう、誰にするか決められないほどに相手がいると見た。君も見かけによらず修羅場を潜っているようだ」
 勝手に分析してくるのは葉巻を吸った男だ。自分よりも大分歳は上に見えて、五十代半ばというところか。
「私はね、私を追放した組織の奴らを許せないと思ったのだよ。だからこうして、ここにいるのさ」
「あー……それで『ホテルYURUSENAI』って名前……」
「名は体を現わす。そういうことだ。君も色々と……背負ってきたのだろう?」
 あほくさい名前だなと思って言ったのだが、葉巻男の頭にはなにも引っかからなかったようだ。煙を吐きながら「全てお見通しだ」とでも言わんばかりにしたり顔で頷いているが、何一つ合っていないし、その組織とやらを追われたのも追われたのではなく、普通にクビになっただけなんじゃなかろうかと邪推が先行する。
「お客様はどうやらまだ混乱されているご様子。どうかお気持ちが落ち着くまでごゆるりとお過ごしください」
 老紳士はカウンターの向こうで酒を作り始めた。氷の砕ける音が心地よいが、ここには頭のおかしい奴しかいないことを考えるとリラックスもできない。
 愛想笑いで誤魔化してその場を後にしようとした時、ロックのウイスキーが目の前に出された。
「ここは何者かに殺された霊魂の集うホテルですからな。あなたひとりではございませんよ」
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即興小説15分
お題:許せないホテル
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【書く前】
有頂天ホテルみたいなのが頭に浮かんだけど有頂天ホテルまだ見てないな。
許せないホテル→ホテル側のサービスがクソ過ぎて許せない
        ホテルが客を許せない
        許せないものがある人間が集うホテル
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【書いた後】
普通のサラリーマンを書いているつもりがいつの間にか死んでた。
誰が自分を殺したのか。というか、本当に自分は死んでいるのか。そんな謎を解決する長編ミステリーがいま──はじまらない!!
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