〜あらすじ〜
槍の師匠が来ませんでした。でもバニー衣装は交換しました。このままクローゼット行きなんてかわいそう…!と思ったのでぐだこちゃんに着てもらいました。このプサぐだ♀は付き合ってます。
(支部投稿済み)
…………君は、経験した事があるだろうか。
「……あ、アーサー⁉︎ ごごごめんなさい、私っ前見てなくて……!」
「あ、ああ。いやそれはいいんだけど。……それ……それは?」
「え? ………………あ」
君は、経験した事があるだろうか。
曲がり角でぶつかってきたマスターが、バニー衣装に身を包んでいる、という事を。
……え? バニー……?
「あっい、いやこれはね⁉︎ そ、その……変な意味じゃなくて……えっと」
「……ええと、よく分からないけど一旦落ち着いて。落ち着いて話して、マスター。何があったんだい?」
彼女に向けた言葉ではあったが、八割ほどは自分に向けた言葉だ。落ち着け、ひとまず落ち着くんだアーサー・ペンドラゴン。騎士たるもの、これしきのことで心を乱してどうする……!
心を落ち着けて、一旦目を閉じる。薄目で目の前の彼女の全身を見る。
黒が眩しく光るヒール。普段彼女が履かないような、やや高めのかかとが特徴的。下半身は薄めのタイツで覆われて、彼女の健康的な脚がすらりと伸びる。そしてレオタードだが……これは少々問題だ。紫色のレオタードはややサイズが合っていないのか、胸元の布地が僅かに浮き上がっている。それは彼女自身も自覚しているのだろう。胸元には手を添えているが、それでも片腕だけで胸元全体が隠せるわけではない。……隙間から見える浮いた布地と肌はさすがに直視することがためらわれる。そして最後、彼女の髪の隙間から伸びる長い二つの兎の耳。レオタードと同じ紫色の耳が、彼女の動きに合わせてゆらゆらと揺れ動く。
「う、うぅ……なんで私がこんな目に……」
当の彼女は胸元を押さえながら腕の中で涙目になっている。どうやら本人も相当のショックを受けているらしい。落ち着くまではもう少しかかりそうだ。
「な、泣かないでマスター」
「立香ちゃーん? どこにいったんだーい?」
彼女が走ってきた角の向こう側から声がする。どうやら彼女を探している声、恐らくダ・ヴィンチ女史のものだ。
……なんとなく、原因が見えた気がする。
「…………ええと、マスター?」
「よりによってこんな……こんな、醜態を……」
どうやらまだ立ち直っていないらしい。女史の声が聞こえていないみたいだ。
「マスター」
「だから嫌だったのに……こんなの、似合わないって……」
「マスター」
「そりゃあ着ないままなのはもったいないんだろうけど、でも、でも……」
「立香!」
「え⁉ は、はい⁉」
ややはっきりと呼びかけてみると、驚いた彼女の顔が自分の方へ向く。ばっちりと目が合う。
「立香、ええと……何から聞けばいいか分からないけれど、ひとまず場所を変えようか? これは憶測だけれど、女史から逃げてきたんじゃないのかい?」
「……あ! そ、そう! ダ・ヴィンチちゃんから逃げてきて、それでアーサーにぶつかって……」
「このままだと、女史がこちらに来るのは時間の問題だよ」
そんなところでちょうど、向こう側から「立香ちゃーん?」という女史の間延びした声が届く。それを聞いた立香は危険を察知した兎の様に身体を跳ねさせる。
「ほ、本当だ! や、やばい。逃げなきゃ……! こ、こっち!」
「あ、立香!」
彼女は胸元を押さえていない方の腕を僕に伸ばし、僕が歩いてきた方へ走り出す。
静かな廊下に鳴り響く、二人分の足音。でも片方の足音は何だか不規則で、どうにも走りづらそうな印象を受ける。
まぁ、それもそうだろう。
「立香、失礼」
「え? あ、ちょ、ちょっ!」
僕と走り辛そうな彼女の距離が近づくのは必然で、だから僕はその瞬間に彼女の手を振り払い素早く身をかがめる。
そのせいでバランスを崩した彼女を片腕で受け止め、反対の腕で両脚を掬い上げる。
宙に浮いた彼女の足からヒールが片方零れるように落ちていく。カツン、と背後で鳴る音には振り返らず、そのまま彼女を抱えて走っていく。
「あ、あのっあ、アーサー! これ、これは、ちょっと!」
とっさのことで反応が遅れた立香から抗議の声が聞こえるが、これは仕方ないだろう。
「こっちの方が早いだろう?」
「そ……それはっそうかもしれないけど!」
曲がり角を右へ。スピードを急激に落とさないよう、調節しながら走り抜ける。その次は左へ。今度はまっすぐ一直線に。
そのままとにかく先へ。どこへ行こうというあてもなく、彼女を抱えて走り抜ける。幸いなことに他のサーヴァントには出くわすことはなかった。
しかしそれもいつまでも続けわけがなく、正面の方から誰かが話す声が聞こえる。
「それでは次の部屋へ行きましょう。備蓄は切らすことなく、いつでも適切に使える状態にしておかなければ」
「ふむ……こういうことも必要なのですね、なるほど」
僕らに背を向けるように廊下の先を歩くのはナイチンゲールとその手伝いをしているらしいアルジュナ・オルタ。
彼女が逃げているのは彼らではないけれど、でも見つかったらそれはそれでなかなかに厄介な相手かもしれない。
厄介、というよりも、今の彼女の姿をあまり大勢に見られたくないというのもある。先ほどよりもスピードを落として、視界の端に映ったドアの一つに滑り込む。素早くドアを開け、隙間に突っ込むようになだれ込んだらすぐに肘でドアを閉める。
「…………ひとまず、ここまで来たらいいかな」
「……………………」
「立香?」
僕の腕の中で口を真一文字に閉じた彼女はやや不機嫌そうに、その頬を膨らませていく。
「……怒ってる?」
「怒っているというか、悔しいというか、自分が情けないというか、いろんな感情に苛まれています……」
「そ、そうかい?」
とりあえず、そのままというのもどうかと思ったので適当に空いているスペースにあぐらをかく。どうやらここは備蓄庫のようで、棚の中には段ボールがこれでもかと詰まっている。
立香を脚の中に納まるように下ろし、背中に手を回して彼女の態勢が崩れないように支えて。立香は表情こそ不機嫌そうだが、されるがまま僕の脚の上に納まった。唯一はみ出ている彼女の脚を目で追っていくと、残っていた方のヒールがつま先だけに引っかかっていた。ぶらりと揺れるそれが妙になまめかしく視界に映る。
ああ、いやいや。今はそんなことを考えている場合ではない。
「……落ち着いた?」
腕の中で納まる彼女の顔をのぞき込む。心なしか、兎の耳が大きく垂れているように見えてそのまま彼女の心の内を表しているよう。
「なんとか……なんか、変なことに巻き込んじゃってごめんね?」
「いやそれは別に構わないんだけれど……」
そう言う僕の視線に何かを感じ取ったのか、立香は途端にその頬を赤く染め上げる。
「あっ……と、これは……その、り、リサイクルというか」
「リサイクル?」
「ほ、ほらこの前まで聖杯戦線! あったでしょ? スカサハさん……がいろいろと指導してくれたけど、結局私は彼女のことを召喚できなかったんだよね」
「ああ、そういえば」
召喚部屋からマシュに励まされつつ出てきた彼女の姿を思い出す。フィン・マックールや女神パールヴァティ―の宝具の強化には成功したようではあったので、完全に失敗というわけではなさそうだったが。
「結局召喚すること自体はできなかったけど、交換所にはスカサハさんのバニー衣装が出てたから……いつ来てもいいようにと思って交換だけはしたの」
「アサシンクラスのミス・スカサハはどうしたんだい? 彼女なら頼めば着てくれるんじゃ」
「頼んだけどだめだった……『我はこの霊基では水着しか着ん!』ってあっさり断られちゃった」
このバニー衣装も露出の高さを見れば水着とそう変わらないのでは、なんて思ってしまうが恐らくそういうことではないのだろう。
「それで、どうして君がそれを?」
「ええと……さっき、衣装を保管してもらおうとダ・ヴィンチちゃんのところに行ったんだけど」
「うん」
「ぽろっと言っちゃったんだよね。着ないのに衣装だけがたまっていくの、もったいないよねって」
「…………それは」
「……まぁ、あとはお察しの通りなんじゃないかと」
何となく、脳裏で女史が「それなら立香ちゃんが着ればいいのさ! 普段と違った気分も味わえるし、きっと似合うよ!」と楽しそうに笑う姿が横切った。
「危なかったんだよ……あそこで逃げなかったら私、他の着ないままになってる衣装も着ることになりそうだったから……!」
「他の衣装、というと……」
「えっと……コノートの女王様、メイヴの看守服とかブライドじゃないネロの体操服、とか……」
「…………」
「ダ・ヴィンチちゃん、恥ずかしがる私を見てそれはもう楽しそうな顔して……挙句の果てにカメラまで取り出そうとしてきて……! いや言われるがままに着替えちゃった私も私なんだけど、これは、一生ものの恥を撮られる! と思って、思わず逃げ出してきたんだよね」
「なるほど……」
その先で偶然僕に出くわした、というわけか。最初に出会ったのが僕でよかった。他のサーヴァントが彼女の今の姿を見たら、と思うと気が気でない。
「ま、まぁでも無事逃げきれてよかった! アーサーには変なものを見せちゃって申し訳ないけど、本当に助かったよ~」
そう言って彼女は明るく笑う。
「? 変なものとは?」
「え? い、いやだからその、バニー衣装の私とか。見て楽しいものじゃないでしょ」
「そうかい?」
「え?」
「よく似合っていると思うよ」
「え⁉」
「こんなに可愛らしい兎を、僕が一番に見つけられたのは幸運だったなって思うよ」
彼女の左手をとり、その甲に口づける。そのまま彼女へゆっくり視線をやれば、口を開いたまま言葉を失うかわいいかわいい兎の姿。
「な、ちょっ……え⁉」
「可愛らしいね、立香」
「えっだ、だからそうじゃなくて……!」
「こんなに可愛らしい状態の君を、今自分だけが独占していることがすごく嬉しいんだよ」
「や、ちょ、ちょっとまっ……」
「待たない」
顔を寄せて、彼女の柔らかい唇に自分のそれを重ねる。軽く触れて、ゆっくりと離れると混乱したように瞳を震わせる立香の顔。
「かわいいよ、立香」
「…………!」
「普段の服もよく似合っていて、君の魅力を引き出しているけれど……今日のような衣装も、君の新たな魅力をよく引き出していると思うよ」
「あ、新たな魅力……?」
「そうだね、何といえばいいか。普段の君は明るくて太陽のような眩しい印象を受けるけれど、今の君は……静かに照らす月のような」
「え、え……?」
「まぁ要は、僕の欲を誘って仕方ない、というのかな」
「…………は⁉」
ずっと言葉にならない言葉を発していた立香だが、勢いよく両腕で胸元を覆う。本人はよく隠していると思っているんだろうけど、その両腕からはみ出るやや潰れた胸は彼女をより艶っぽく見せる。
そういうところを無自覚でやってしまうのが、君の恐ろしいところであり、恋人としては不安なところではあるんだが。
「や……えっアーサー? 嘘だよね、まさか、こんなところで、とか」
そう言いながら彼女は僕の脚の上から逃げ出そうと試みるが、最初からその背中を僕が掴んでいる以上無理な抵抗だ。
「美味しいものを逃せば次いつまた食べられるか分からないからね。食べられる時に食べておかないと、きっと後悔してしまうから」
するりと彼女のつま先からヒールを取り払う。足元を守るものを失った彼女の足の指を撫でれば、驚いたようにピン、と足先を伸ばす。そんな様ですら可愛く思えて仕方がない。そのまま足首、ふくらはぎをなぞるように指を滑らせていけば、彼女の上半身も僅かに跳ね上がる。
「こっ後悔って……! そんな大それたものじゃないでしょ! ちょっ、ほんと、だ、だめ」
「大丈夫、乱暴にはしないから」
「そっ……この状態でしようとしてるのが既に乱暴でしょ! 横暴! 騎士の名が泣く‼」
「まぁほら……僕も騎士の前に一人の男だから、ね?」
「そんな言い訳が通用すると思わないで!」
「まぁまぁ」
「あっちょ、本当にだめ、や」
彼女の両手首をまとめて掴み、胸元から離す。もちろん彼女の抵抗もあったけれど、少女の力では男の手を振り払うのは非常に困難というもので。
あっさりと離れた両手の向こうで、布地が彼女の肌から浮き上がる。吸い寄せられるように鎖骨の辺りに顔を寄せて。
シュンッ。
「………………」
「………………」
それまで暗かった備蓄庫の中に一筋の光が刺さるように入り込む。その光の先を目で追ってみれば、よく見知った顔が一つ。
「…………や、やぁドレイク」
「………………」
部屋の入口には眉間に皺をこれでもかと寄せた、フランシス・ドレイクの姿があった。バニー姿の立香を腕の中に納める僕と、しかと視線が合う。
……これは、まずいな。
「…………牛若丸」
「ドレイク殿。主殿は見つかりました? 靴を片方だけ残してどこに行ってしまったのやら……」
「……いいから、とりあえず山の翁呼んできて」
「? おじい様ですか? どうして……」
「いいから」
「はあ。では今すぐ呼んできましょう」
タッタッタッとドアの向こうで誰かが走り去る音。今の会話からして、ドアの向こうにいた牛若丸と会話をしてそして……山の翁を呼ぼうとしている。
「え、ええとドレイク。これは、その誤解、誤解なんだ」
「………………」
ジャキッと彼女の方から金属音が鳴る。その両手には拳銃が握られ、ゆっくり、ゆっくりと僕の方へ銃口が向けられる。
ある一点でぴたりと動きが止まる。
「…………誤解もくそもあるかこのクソ騎士王‼ いっぺん死にな‼」
ズガン! と狭い備蓄庫で二発の銃声が鳴り響いた。
終わり。
お月見()失敗。兎さんを美味しく食べられませんでした。
ちょっと無理やりな終わらせ方かなとは思いますが、個人的には楽しかったので満足です。
うちのカルデアで山の翁を呼ぶということは「もしもしポリスメン?」と同義。あと牛若が「おじい様」と呼ぶのは私の趣味です。
お月見成功ルートはあるのかないのか……まぁここ年齢制限掛けてない状態で配信してたので、お察しの結末かなと。まぁでもちゃっかりキスマぐらいは残してるんじゃなかろうかと考えたりはしました。
バニーのぐだ子ちゃんは正義。かわいい。着てほしい。
視聴、💗などありがとうございました!