ミス・クレーンを助けたら恩返しとばかりに洋服を作らせてほしいとお願いされたので、せっかくなので作ってもらうことにした感じの話です。このプサぐだ♀は付き合ってる。
「あ、ま……待ってぇ!」
背後から聞こえた女性の叫び声に振り向くと、僕の頭の上を何かの影がかする。それに気づいて即座に視線をあげれば、棒状の何かがこちらに向かってちょうど飛び込んでくるところだった。
「……ッ!」
「それ」が何かを判断する前に手を伸ばす。棒自体に重みはあるものの、触れた感触は思いの外柔らかい。一つ二つと、何とか身体を動かして地面に着地する前に抱え取る。自分の手前で距離が届かず落ちてしまったものもあるけれど、特に壊れたとかそういった様子は見られない。
だがそうは言っても、恐らく大事なものなはずだ。
視線の奥に捉えた、床で倒れ伏せる赤髪の女性を見る。
「えっ……は、はぅ、ナニコレ……凄いの見ちゃった……えぇ嘘……なにこれなにこれぇっ……!」
何を言っているかまではよく聞き取れない。だがもしかしたら、落ちたショックのあまりつい言葉が出てしまっているのかもしれない。
抱えていた棒状の「何か」を持ち直し、彼女に歩み寄る途中で落ちてしまった棒も拾い上げる。未だ倒れたまま、顔だけ挙げている彼女の目の前にしゃがみ込み手を差し出す。
「レディ、お怪我は? もしかして足を痛めてしまったのかい?」
脇に抱えた棒たちが地面につかないようにだけ気を付けて、それ以外の意識を目の前の彼女へ向ける。
「は、はひっ……あ、やば、刺激、刺激が強すぎる……アイドルとはまた違う、でも確かな輝き……高貴そのものっ!」
遠くからではよく分からなかったが、その表情はやけに赤い。零れ出る言葉はよく聞き取れなかったが、心なしか息も荒いような……
「ああ……ああ……どうしようどうしよう、私ったらまた推しが出来ちゃうんじゃないの、どうするの……! ああでも……っやばぁ~~~~~」
「れ、レディ?」
「……………………はっ!」
そこで何かを思い出したように目の前の女性はすくっと起き上がり、その場に正座する。
「も、ももももも申し訳ありません! せっかく助けて頂いたのに私ったらお礼も言わずとんだ無礼を……!」
先ほどのような頬の紅潮と荒い息は消え、代わりにその表情は青ざめていく。
「ああいや、気にしないでほしい。あなたも転んだショックで上手く考えがまとまらなかったんだろう……そうだ、これを。すまない、地面に落ちる前に全て取れれば良かったんだが……」
そう言いながら、脇に抱えていた棒たちを目の前の彼女に差し出す。
「ああいえ、そんな! お礼を言うのはこちらの方です! 元はと言えば私が転んだのが原因なのに……とっさに受け止めてくれたこと、本当に感謝します。何とお礼を言えばいいか」
彼女は恭しく、まるで剣を授かる騎士のように大事そうに棒たちを抱える。その胸に抱きかかえると、愛おし気に「それ」に指を這わせる。
「あなたが受け止めてくれたこの布……私のアトリエに出資して下さっているマリーさんのために、今度お洋服を作ろうと選んだものだったのです。フランスを魅了する彼女にふさわしい、気品あふれるこの布は少々傷みやすく……床に落ちれば傷ついてしまった可能性もありました。けれど、あなたが受け止めてくれたおかげでその心配はどうやら不要な様子。傷つかなくて本当に、本当に良かった……」
目蓋を伏せてほっと胸を撫で下ろすその姿に、本当に大事なものだったのだと痛いほどに伝わってくる。全てを受け止めることは出来なかったけれど、どうやら自分がたまたま掴んだものは中でも彼女が大切にしたい「布」だったようだ。それだけでも幸運だったと言えるだろう。
彼女の胸元に宝物同然に抱え込まれている布たちに目をやる。シルクなのだろうか、艶やかに、柔らかく照明の光を反射する淡い赤がきらめく。他にも細かい意匠が目を惹くレースや、一目見てそれが安価なものでは決してないことが分かるものばかり。
「少しは、あなたのお役に立てたようで良かったよ」
「まぁそんな! あなたはこれ以上ないほどのことをしてくれたのです、少しどころではありません!」
先ほどまで目蓋の奥に仕舞いこまれていた、落ち着いた菫色の瞳をこれでもかと剥き出す。
「何かお礼をしないと……!」
「いやそんな。これくらい大したことでは……どうか気にしないでほしい」
「いいえいいえ! ここで引き下がっては私のプライドが許しませんわ! 私、受けた恩は必ず返しますの。ですからどうか、私に恩を返させて頂きますよ!」
ぐいぐいと正座したまま詰め寄ってくる彼女に押される形になる。
「例えばそう……お洋服! 私に出来ることはそれくらいですが、その分気合いを入れて作らせて頂きます! あなた様にぴったりのエレガントな一着……ぜひ私に作らせて頂ければ! そうなればこうしてはいられません! さぁ行きましょう!」
布たちは大事に抱えたまま、勢いよく立ち上がる彼女に対し、僕は状況に置いて行かれるように床にしゃがみ込んだままだ。
「えっ行くって……」
「もちろん、私のアトリエです! 早くアトリエにある布を確認して、どんなデザインにするか考えなくては!」
燃えてきた~~~~! と叫んだかと思うと、彼女は真紅の髪を揺らしながら颯爽とこの場から立ち去っていく。
「あ……行ってしまった」
僕はというと、当然置いて行かれた。廊下にぽつんと一人佇む。
「…………どうするべきか」
彼女は自分に助けられた、と言ったが僕がしたこと自体はそう大したものではない。彼女にそこまで熱心にお礼をされる筋合いはないと考える。
けれど……
「あそこまで張り切ってくれているのに、ついて行かないというのも失礼にあたるな」
最後に彼女が見せた瞳はこれでもかと輝いていた。少女、というよりも女性という年齢の彼女ではあったけれど、「恩を返す」と意気込んでいた瞳の輝きは少女のような純粋さとまっすぐさを秘めたものだった。
ここは行かない方がよっぽど失礼というものか。僕はやや諦めた気持ちで、彼女の後を追って歩き出した。
「ど…………どうして……よりにもよって……」
ここは彼女のアトリエ。先の廊下での会話から、彼女が服を作る人であることは分かっていた。分かっていたが、それを示すように壁一面を埋め尽くす布や糸、その他装飾の数々に改めて圧倒される。
そしてそんな部屋の主は今、僕の目の前で布たちに目を走らせつつわなわなと身体を震わせていた。
「レ、レディ……落ち着いて」
「落ち着いてなんていられますかっ! せっかく、恩返しを……あなた様に合う衣装を作れると思ったのに……なのに、こんな大前提でつまずくなんて……!」
「……ええと」
僕も彼女に倣うように一面の布たちを見やる。
色とりどりで、素材もばらばら。でも一つひとつが美しい服に姿を変えるのだと思うと、なんとも不思議だ。僕自身も当然服は着ているけれど、これらも服の形を成す前はこの部屋に並べられた布たちと同じものだったのだと思うと技術の凄さに感嘆せざるを得ない。
まるで魔術師のごとき技。なるほど、彼女がキャスタークラスなのはそういうことも含まれるのかもしれない。……半分冗談ではあるが。
まぁそんな僕の思考は置いておいて。目の前の彼女の話をしよう。
彼女は先にも述べた通り、嘆いていた。
理由は至極、至極簡単で明快だ。
「まさかそんな……布が、無いなんてっ!」
嘘……あり得ない……よりによって私が……、と菫色の瞳に涙を滲ませながら僕に背を向ける形でうずくまっている。
そういうことらしい。
そう、布が無いらしい。
じゃあ目の前に広がっている布の花畑は一体なんだ? と思う者もいるだろう。それは最もな意見だ。
確かに大量の布はある。あるのだけれど……
「ここにある布じゃ、私の目指す衣装が作れません……!」
もう一度言うが、そういうことらしい。
要は、「布はあるけれど作りたいものに合う布がない」という状態なのだ。
「レディ、私は別に無理に服を作ってもらう必要はないんだ。あなたがそこまで気に病むことなど」
「……ミス・クレーン」
「え?」
「ミス・クレーンと……そうお呼びください」
「あ、ああ。では……ミス・クレーン」
「ええ、それで結構です。そして先ほどのあなた様の言葉に異議を唱えさせて頂きます」
「え? ど、どうぞ」
すくっと立ち上がった彼女はこちらに振り向くと、その瞳に影を落として僕に詰め寄ってきた。それはもう勢いよく。
「えっ、み、ミスッ」
僕らは離れて立っていた訳ではないけれど、それでも突進をかけるような凄まじい気迫が彼女にあった。ずい! と効果音が鳴りそうな勢いで、彼女は僕を見上げた。
「先ほども言いましたが私、受けた恩は必ず返しますの」
「あ、ああ」
「今の今までそこには一つの例外もありませんし、それはこれからも変わりません」
「……つまり?」
こちらをジロリと睨む菫色に居たたまれなさを感じる。かと言って、僕はどうやら彼女の琴線に触れてしまったようで、逃げることなど許されない。
「つまり、私はどうにかしてでもあなた様に素敵な衣装を用意してみせます。例えあなたがその服を必要としていなくても……いえ、本音を言えば作った以上ぜひ着ていただきたいですが」
「…………」
「ですので、大変遺憾で申し訳ないのですが……どうか私に少しばかりお時間を頂けませんか」
そこでようやく彼女は僕から一歩離れ、落ち込んだような表情をして僕に要求してきた。
「いや、僕は君の善意で作ってもらう側なのだから、時間など気にしなくても」
「……そう言って頂けるのはありがたい限りです。その言葉に報いるよう、あなたにぴったりの自信作をぜひ用意してみせましょう。お待たせすることに変わりはなく、ただただ心苦しい限りですが……どうか、楽しみにして頂けると」
「……ああ、そうだね。これ以上君の恩返しを拒むのは、どうやらかえって君への侮辱になるらしい。それならばぜひ、楽しみにさせてもらおうかな」
僕の言葉に、彼女はようやく笑みを浮かべる。「ええ、ええ! あなたのための一品、素晴らしいものに仕立てましょう」とどうやら気合い十分な様子。
「それにしても……」
「? 何かございました?」
不意に視界の端を埋める布たちへ視線を向ける。
「これだけ材料があっても足りない、ということもあるとは驚きだな」
これは特に嫌味でもなんでもなく、ただ感心している男の戯言に等しい。
「ああ……そうですね。確かにここには多くの材料がありますし、これらで作れる衣装や装飾品は多いでしょう。しかし……」
「今回はそうではなかった?」
「ええ。最近はどうしても女性のサーヴァントの皆さまへお洋服を仕立てることが多く……必然と置ている材料たちもそれに合わせたものに偏ってしまって」
「……男性と女性とでは使うものが違うのかい?」
僕が来ている洋服も、彼女が来ている洋服も同じ布だ。正確に言えば材料などは違うだろうが、布という分類においては同じはずだ。そう不思議に思いながらミス・クレーンを見ると、どうやら僕の疑問を察したらしい。
「ああ、そうですね。女性と男性のお洋服では布を使うことに間違いはありません。ただ、選ぶ基準がやや異なるといいますか」
「基準?」
ミス・クレーンは先ほど廊下で僕が拾った棒状に丸められた布の一つを持ち、僕に見せる。
「こちらはとても細い糸で織られたレースです。華やかで、繊細……伸縮性はあまりなく、動き回るような方にはおすすめはできません」
「ふむ」
「男性はどうしても、よく動く方が多いでしょう? 例えドレスを着た女性でも動く方は動きますが……しかし男性のスーツに比べたら動きやすさは圧倒的に異なります」
「言われてみれば、確かに」
ドレスとスーツ。どちらが動きやすいかと言われれば、それは圧倒的に後者の方だ。ドレスはコルセットを着用する分、苦しく締め付けられるとも聞いた。であれば、動き回るのは男の方がきっと多い。
「今この部屋に置いてあるのはどちらかと言えば……そう、男性のお洋服にはあまり向かないものといったところでしょうか。作る分にはもちろん可能ですが、仕立て上げた時の品質がいささか落ちてしまうので」
「……なるほど」
「今日にでも丈夫な布をいくつかピックアップして探さないと……」
僕への説明を一通り終えると、ミス・クレーンは真剣な様子で考え出した。あの布がいいだろうか、色味はこういうので、という感じに。
「……あ」
僕に一つの考えが降りてきたのは、まさしくその時だった。
なるほど、これなら彼女が今から布を探す必要もないだろう。それに、僕としても別の意味でとても嬉しくなるというか。
「ミス・クレーン、一つ聞いても?」
「はい、なんでしょう?」
顎に当てていた人差し指を離し、こちらを向く彼女に一つの提案を持ちかけよう。
「……と、いうことなんだけれど、どうだろうか?」
提案を済ませて彼女の様子をうかがう。ミス・クレーンは、僕に詰め寄った時のような真剣な目つきで考えこんでいる。
しかし、それも数秒で終わる。
「なるほど。……名案だと思います!」
一度下ろした目蓋から、直後にきらきらと輝く瞳が現れた。
「なるほど……なるほど! とても素敵なアイディアかと! それにその案ならば、今すぐにでも作業に取り掛かれます!」
「ならば、それでお願いしてもいいだろうか」
「ええ、ええ! もちろんです! これは一層、私も励まなければいけませんね!」
「では、それで頼むよ」
「はい。それではどうか……どうか完成するその日まで、どうぞ楽しみにしていてくださいませ」
彼女はまるで臣下が王に向けるように、恭しく僕に向かって頭を下げる。胸に手を当て、裾の長いドレスをつまみ上げる姿は彼女の在り方と想いをそのまま示すようで。
「ただし、その日までこの工房を覗いてはなりませんよ?」
悪戯っぽく微笑むその姿に、僕もつい「気が変わらなければ」と冗談めかして返してしまった。
「おはよう、マスター。早速だが、ここにハンコかサインをお願いします」
「…………」
「どうしたお客様。特に問題が無ければさっさとハンコかサインをお願いしたいんだが」
「いや、問題……問題あるよ」
眼下に置いてある「それ」に私は視線を落とす。目の前に立つ眼鏡をかけたアマゾネスCEOは疑問符を頭に浮かべてるけど。
「? 我が社の仕事は親切、丁寧、安心・安全がモットーだ。この荷物も傷一つなく、最高の状態だと思うが」
「いやえっとね……そもそも荷物が届くのがおかしいというか」
「? どこが」
「私、こんなの頼んだ覚えないよ?」
マイルーム前の廊下に置かれた大きめの段ボール。あて先は私。送り主はミス・クレーン。
内容物は「ドレス」。
…………ドレス?
「ドレスどころか、服を作ってなんてまず言ってないし……」
「しかし、マスター宛てに送られた荷物なのは確かだ。そして私は仕事は滞りなくパーフェクトにこなしてみせる。という訳で、いいからハンコかサインを寄越し下さいお客様。本当はサインレスで、といきたいところだが、そちらは今調整中でな。実用はもう少し待ってくれ」
「…………はあ」
まぁ、送り主は目の前のペンテシレイアじゃないことは明白だし、ミス・クレーンが変なものを送ってくるとも思えない。あまりここで無意味に引きとめるのもな、と思い、ひとまず私は伝票にサインをした。
「サインありがとうございます。ぜひ今後も我が社をよろしく頼む」
「う、うん。えと、ご苦労さまでした」
伝票に書き込まれた私のサインを確認すると、ペンテシレイアは今一度姿勢を正し「では」と手短に挨拶を済ませてその場を去っていった。残されたのは、私と大きな段ボール箱一つ。
「…………」
これは……一体どうしたらいいんだろう。
さっきも言ったけどミス・クレーンが変なものを送ってくるとも思えないし、恐らく中身は伝票に記載されている通りドレスなんだろう。
「いやドレスって」
送られてくるような心当たりはない。最近ミス・クレーンとそういった話をした覚えもない。本当の本当に、急に来たのだ。
「とりあえず、開けてみようかな?」
こうして立ってても仕方ない。カッター、カッターと一度部屋に戻って箱を開けるためのものを探す。程なくしてカッターを見つけ、また部屋の入り口まで戻る。とりあえず自室内、ドアから一歩入ったくらいの場所まで段ボール箱を移動させてから、カチカチとカッターの刃を出してテープを切っていく。
中身を傷つけないよう、最低限の切り込みを済ませて後は箱の蓋を引っ張る勢いでテープを破る。開いた箱の一番上には緩衝材が詰められていて、随分丁重に梱包されたのだろうことが想像できる。そしてその緩衝材取り出せば、中から鮮やかな色のドレスが現れた。
「わ……!」
思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
袋に詰められているのでドレスの全貌は見えないけれど、素人目で見ても上質な生地と分かるドレスのデコルテが覗いていた。たったそれだけだけど、それが素敵なドレスであることがよく分かった。
「な、なんか想像してたのよりすごい……」
ミス・クレーンのことだから、洋服に関して彼女が手抜くことは無いと思っていたけれど……想像していた以上に本格的だ。
なので余計に、分からない。
「…………私、ミス・クレーンに何かしたっけ?」
これはきっと、何かの恩返しだ。彼女の性質からしても、きっとそうに違いない。
だけど、私は彼女に特に何もしていない。だから不思議なのだ。
「う〜〜〜〜ん?」
どれだけ記憶を遡ろうとも、思い当たることはない。
そんな私が、果たしてこんな見るからに上等なドレスを頂いていいのだろうか?
「い、いやいや。良くない。それは良くない」
彼女には悪いけれど、やっぱりここは返すべきか……と思った時。
ふと、廊下の遠くの方から足音が聞こえた気がした。ドタドタと忙しない音が微かに聞こえてきて、どうやら誰かが廊下を走っているらしい。
何かあったのかな?
そう思って目の前の段ボール箱をひとまずおいて、廊下へ出る。音のする方へ顔を向けると、
「あっ! マスPさぁーーーーーん!!」
「え!?」
ミス・クレーンが、普段彼女が見せないような全力ダッシュでこちらへ向かってきていた。私の姿を視認すると、むしろその足を一層速めている気も。
ダダダダダダッ!! と全速力でこちらへ走り込んできたミス・クレーンは、息を整える暇もなく「見ました!? ドレス!!」と私に詰め寄った。
「あ、み、見た! 今見たよ!」
彼女の勢いに押される形で慌てて答えると、ミス・クレーンはその顔を少女のように輝かせた。
「まぁちょうど良かった! いかがでしたかあのドレス達は! マスPさんの好みに合っているかどうか不安だったのですが……ああ、品質は問題ありません! マスPさんに着て頂くんですもの、私が今用意できる最高の素材たちを使用させて頂きました!!」
「あ、そ、そうなの? ありが、とう?」
「いいえ、いいえ!! お礼を言われるほどのことなど!!」
う、うう〜〜〜〜ん?
ミス・クレーンの口ぶりからして、彼女はどうやら私に対して何か恩返しがあるみたい? じゃなければあんなに仕立ての良さそうなドレスをいきなり送られる意味が分からない……
「あ、あのミス・クレーン? このドレスって」
「ああ! ドレス全体のデザインはもう見られました? 見てない? ならば着付けの際に確認して頂ければと!」
「え? 着付け?」
なにそれ?
「私もこのドレスを着たマスPさんを一刻も早く見てみたくって……いいえ、こうしてはいられません。善は急げ。さぁ行きましょう、マスPさん!」
ミス・クレーンはそう言うや否や私の肩をガシッと掴み、もと来た道へくるりと踵を返す。ぐいぐいと私の背中を押して、私はもう何が何やら。
「えっどこへ!?」
「前撮りです!」
「なんの!?」
私の叫びに的確な返事はなく、ミス・クレーンは更に私の背中をぐいぐい押していく。結局私は何が何やら分からないまま、どこかへ連行されていくのであった。途中「あ! いけません、肝心なものを忘れていました……」と例のドレスの入った袋を持たされ、私の背中は更に更に廊下の奥へ押し込まれていった。
「え、ええと……」
「あぁ~~~~! やっぱり……素敵っ! このデザインにして良かった‼」
あれよあれよという間に試着室と札のかかった部屋に通され、あれよあれよという間に私はいつものカルデアの制服からそれはそれは素敵なドレスに着替えさせられた。更にメイク台の前に座らされ、ミス・クレーンによっててきぱきと普段することのない華やかなメイクがほどこされた。
白いドレスの裾からオレンジのフリルが覗く。首元に巻かれたリボンと花のコサージュがアクセントになっている。胸元が大きく開いたデコルテは着慣れなくて恥ずかしいけど、ミス・クレーンの「最高、本当に最高! ああ、マスPさん……なんてお似合いなんでしょうか!」という声に悪い気はしない。
「そ、そんなに似合うかな……?」
「ええ、ええ! それはもう! とってもお似合いですよ!」
「そ、そう……? えへへ」
今なら何を言っても手放しで褒められてしまうから、調子に乗りそうになる。というか、半分乗ってるかも。
「凛々しいマスPさんもそれは確かに素敵ですが、やはり私としてはマスPさんの女の子としての魅力も最大限に表したいと思っていたので……こんな素晴らしい機会を頂けて、本当に恐悦至極に存じます」
「そういえば、このドレスってミス・クレーンが考えてくれたの?」
「はい、僭越ながらデザイン等は私が。ああでも、あなたにドレスを作ってほしいと言って下さったのはアーサー様ですよ」
「えっアーサーが?」
予想していなかった名前に目を開く。
「な……なんで? 二人ってそんなに仲良しだったっけ?」
「ああご心配なさらず! マスPさんがご不安になるようなことは決してありません! 以前アーサー様が私が荷物を落としそうになったところを助けてくださいまして……」
「えっあ、そんな不安だなんてしてないよ!」
「あらそうですか? それは失礼いたしました」
そう言ってニコニコと笑いながらも、彼女は話を続けた。
「それで、助けて頂いたお礼として何かお洋服を仕立てさせてほしいとお伝えしたところ、あなた様にドレスを作ってほしいと。あの方からご依頼を頂いたのです」
「アーサーからそんな話なにも……」
「ああ、そこはアーサー様と私でサプライズということにしようと話しまして!」
ふふ、と微笑むミス・クレーン。私の顔をそれはもうキラキラとした笑顔で覗き込んで、「びっくりして頂けました?」と無邪気な少女のように問いかける。
「そりゃびっくりしたよ! でも、そんな棚ぼたでこんな素敵なドレスもらっちゃっていいのかな」
「まぁ遠慮なさらず! 私としてもいつかマスPさんにドレスを仕立てさせて頂きたいと思っていたので! その機会がこんなに早く来てくれるなんて、本当に嬉しくて……」
そう言ってミス・クレーンはうっとりと両頬に手を当てている。
「それならいいの、かな?」
「はい! 私としてはこうして着て下さるだけでもう満足なの、で……」
そこでミス・クレーンの言葉は途絶えた。どうしたのかと顔を覗き込むと、いつになく真剣な表情をして考え込んでいる。どうしたんだろう、と声をかけようとしたところで「違いますね」と冷静な声が聞こえた。
「ミス・クレーン?」
「ただ着てもらっただけでは満足できません。そのお姿をしかと形に残さねば」
「かたち……」
「マスPさんの素敵な姿にもう一つの目的を忘れてしまっていました。ではマスPさん、行きましょうか」
ミス・クレーンは私の手を引いて、椅子から立ち上がらせる。彼女のさりげなくも優雅なエスコートに合わせてドレスの裾を持ち上げ、カツンとヒールが鳴った。
「えっと、どこに?」
「それはもちろん……前撮りです!」
「だから前撮りって何⁉」
「はい、ではこちらに立って頂いて……そうですね、視線はこちらへ」
「ゲオルギウスさん、この照明はこの向きの方が良いでしょうか?」
「ああ、そうですね。そうしたらライティング