春樹side
苦手な、いや、苦手なんてものじゃないな。
近づけない場所ができた。身体が動かない。
自分で思ってる以上に後遺症はあるみたいで、これはちょっとシンドかったりもする。それでも、季節は少しづつ変わって、窓か吹き込む風が冷たく感じる。空が高い。
ピーンポーーーン
ピンポーーーン
けたたましくなる玄関のチャイム。
近所迷惑この上ない。
犯人は、絶対あいつ。
見なくてもわかる。
ふぅ。
細く息を吐き出した。
いつも同じ時間。
待ちわびているかのように、ソワソワしている自分がいる。これもモテる男の作戦なんだと思うと腹が立つ。身についた習性は、俺なんかにも発揮されるわけだ。
「はいはい」
浮かれた気分を押し殺して、ゆっくり鍵を開けた。
「おはよう、これ土産」
「...おは...なに、これ」
「綺麗だから摘んできた」
はぁ...
幼い子が、お母さんに道端の花をプレゼントするあれ、だな。
このマメな男は毎朝こうして何かしら我が家に「プレゼント」を運んでくる。
缶コーヒー、近所の猫の写真、もらった野菜のおすそ分け。昨日のシオカラトンボには、さすがに驚いたけど。
ちょうどいいサイズの花瓶なんてあるはずもなく。とりあえず、紙コップでいいか。
てきとうにダイニングテーブルの上に飾ったけど、部屋が明るくなった気がする。
「あがらないの?」
いつもなら
俺を追い越してでも部屋にはいるやつが今日は玄関に立ち尽くしていた。
「散歩行かね?いい天気だし」
俺の意見聞くまでもなく、もうそれ決定時効だろ。
...まずい。
この大男が玄関の前で、自分のリード持ちながらしっぽを振る大型犬に見えてきた。かわいいとか...やばいな、俺。
この前、1人で歩いた時には気が付かなかった気色。あの時は、なんだろう、何も見えていなかったのが、今日は「楽しい」に変わる。
色が着いた感じ。
歩き慣れた道なのに、不思議な胸騒ぎがする。落ち着かない。
そんな俺に気がついたのか、秋彦くんの言葉が止まった。
「春樹、競走しようぜ」
「は?ちょっ ま...」
俺の静止なんか全く無視で、走り出した男の背中。小さくなる前に、追いかけた。
なのに、すぐ腕を伸ばしても掴めな場所に行ってしまって。足が思う通りに動かない。細かな石が押さえつけてくる。おいて行かれた。足が止まる。
「はるーーきぃー」
数メートル先のベンチの前。こっちこっちと手招きしてる秋彦クンの姿を見てほっとした。待っていてくれたということに。
わざとらしいくらい、呆れた顔を貼り付けて、ゆっくりと隣に座る。
ぐらり
目眩、とは違う衝撃。
脳が揺れた。
なに....
「おそい」
「ハハ...若くないんだって」
声に力が入らない。
脈を打つのと同じ速さで脳が、心臓が動く。ちょっと形の違うピース。上手い具合にハマらなくて、歪みだけを残したみたく気持ちが悪い。
「春樹?」
「秋彦クン、足早すぎ...」
そのまま寄りかかりたいのを必死で堪えて、口角をあげる。深く吐き出した息。
川の音。そこから流れてくるひんやりとした風が、何とか呼吸をつなぎとめる。
ふう。
「わるかったな」
消えるくらい小さな声。
驚いて、逆におおきな声が出てしまう。
「え?俺が運動不足なだけでしょ。めっちゃ気持ちいいし...また誘って」
困ったよう顔で小さく笑う秋彦クン。
あ、知ってる。何度目だろこの顔。
お互いに上手に笑えなくて。本当の意味が知りたいのに、怖い。
俺だけが知らない大切な事。秋彦クンの中にいる俺は、ここで何をしたんだろ。
閉じ込められた記憶。
鍵を掛けたのも、失くしたのも俺。
簡単に開けられないように。
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向き
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日常 ギヴン 秋春
初公開日: 2020年09月30日
最終更新日: 2020年10月11日
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コメント
はるきside
場所は
映画にもでてきたあそこの
イメージなんですが
行ったことないから妄想
いつか行きたい
誤字脱字ごめんなさいね
読んでくださってありがとうございます