秋彦side
何が、「なんとかなる」だ。
焦らず ゆっくりと俺の、俺たちのペースでやってく、できるはず。
人に問われる度に、言ってきたその言葉。
春樹の家の前に立つ度にそう呟いてからドアを開けた。
自分を奮い立たされるための言葉は、いつしか呪いになり、縛りつけられて。無理やり引き上げようとした頬は、筋肉が強ばってくる。ちゃんと笑えてないのが、鏡を見なくてもわかる。呑み込むため息で、息が苦しい。
悪あがきとしかいえない、努力...無意味な...行動。しっくりくる言葉。
なにか思い出してくれるんじゃないかと誘い出したあの場所。
桜は舞ってないし、頬をなでる風も冷たい。
風景の一部みたいなベンチは、あの時よりも傷が増えたみたいだ。
繋ぎたい手を押さえつけるために、寒い振りをしてポケットに手をいれていた。
結果は、一発逆転も、番狂わせもなく。
穏やかな時間だけがすぎて。
春樹の好きな物は、俺の知ってるのと全然変わってなくて。好きな食べ物も、好きな音楽も、映画も演出も、女の子の好みも。
なのに、俺が好きなものの話をする度に驚いて、笑ってくれる。
嬉しいのに苦しい。
抱きしめたい。
伝えたい
しって欲しい
戻りたい。
「あき...秋彦?...ね!ちょっと?」
「あ?ああ...」
「何してるの?」
「何って、授業...」
「とっくに終わってるみたいだけど」
あ?
呆れた顔で、俺を見る雨月から視線を外し、数秒、時の流れを確認する。
ぐしゃり。
歪んだノートのページ。
隙間なく書かれていたホワイトボードは、初期化されたみたく綺麗で。窓の外には、オレンジ色の雲が空に浮かんでいる。
俺の記憶が正しければ、数分前までは、目の前に教授がいたはずだ。今は残像すらなくなっているけど。
「疲れてるね」
まるで体力しか取り柄がないような言い方。
体はそれほど駆使してないから、疲れてるとすれば、頭、だよな。
考えても見つからない答えを探して?
なんて言えば、かっこいいのかもしれないけど、勝手に迷い込んでるだけの話。光の位置さえもわからない。
「仕方ないな、そんな秋彦には、これあげる」
手の平にのせられたカラフルな包み。チョコレートか。珍しい。
「...ありがとう?」
「ちょっと!もっと喜べよ、新作だぞ?新しくなりました、だぞ」
あ、わりぃ。
それは貴重だ。
それさえ、気が付かなかった。
いや、雨月から菓子を貰う事自体が、貴重だろ。
行為を無駄にしないためにも、目の前で口に放り込む。
「甘い」
おもってたのと違う味に、溶け終わる前から、眉間に皺が寄っていく。
「だよな、だから、あげる」
お前な。
嫌がらせかよ。
だけど、今の俺には、このくらいの甘さが丁度いいのかも、しれない。
「ま、いいんじゃない?」
「?」
ん?
目の前の席に腰を下ろして、全て理解して完結したみたいなセリフが投げ捨てられる。
俺が、理解出来なくて、首が傾く。
「何が...適当だろ?」
「そうでもないよ。」
俺以上に俺のことを見透かす男は、俺が気がついてない、避けてる部分も、見抜いてる様子で。適切で尖った助言を振り下ろす。
何を言われても、動じない、ために、心に膜を張った。
「例えば、これ」
指さした方向にあったのは、さっきの手渡されたチョコレート。
「甘くないと思ってたら、甘くて最初は驚くじゃん」
話の腰を折るわけにもいかず、眉間にシワを寄せたまま聞き役に徹する。
「でも、食べ終わった時には、幸せな気分になってたり。」
「は?」
聞き役に徹するはずだったのに、早々に声が出る。それでも、雨月の持論は、終わる事はない。
「元に戻らなくても、いいんじゃないの?新しい味でも...さ」
あ、ああ。
甘いチョコレートも、予想外の味も、結果が良ければ。昔のことを、思い出す可能性よりもりも、今の俺を。
そんな事が起こりうるかどうか、どうかすら、わかんねぇけど。今のところ、確実に恋愛対象外だし。
「...偉そうだな」
「人の親切は、素直に受け取れよ」
あとは自分で考えろと、額が弾かれる。地味に痛い。
「...ありがとうな」
「今度なんか奢ってよ」
「そんな金ねぇよ」
わかってる、そう言い残して、教室を出ていった。
チョコレートだけが、机に置かれて。
わざわざ、悪かったな。
新しくね...
それには、俺の方が「切り替え」が必要だと思う。
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向き
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日常 ギヴン 秋春
初公開日: 2020年10月02日
最終更新日: 2020年10月11日
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コメント
秋彦 目線
雨月と秋彦が喋るとこあり
いろいろ妄想
なので 許してくれる方のみ