証言一・夏組 三好一成
「いやあ……アズ―と今度行きたい海外旅行の話してたらさ。ヒョードルが来たからせっかくだしと思って旅行に誘ったんだ。ヒョードルならヨーロッパでスイーツ巡りとか楽しんでくれるかなーと思って。そしたら、案の定オレたちが並べたスイーツに『いいっすね』って食いついてくれたんだけど……最後、『今度臣さんに作ってもらおう』って目ぇ輝かせちゃって。海外旅行のお誘いしてたはずなんだけどなー……おみみのパティシエ力に負けちゃったよぉ。あれはもう、ヒョードル専属のパティシエだね」
証言二・秋組 七尾太一
「この前、大学の食堂で数量限定デザートのふわとろクリーム杏仁豆腐があったんスよ。十座さん、それすっごい楽しみにしてたのに、直前で語学の教授に捕まって買えなかったらしくて……それはもう、すっごい落ち込んでたんス。だから俺っち、『十座サン、元気出して下さいッス。次は俺っちたちも協力するッスから』って慰めたんスけど……十座さん、ハッと我に返って顔を上げたと思ったら、『そうか……臣さんに協力してもらって、クリーム杏仁豆腐、再現してもらえばいいのか』ってキラキラさせて言うんスよ……十座サン、臣クンのこと、なんでも作れる魔法のパティシエかなんかだと思ってるッス。そして……臣クンも実際作っちゃうんスよねぇ。いやあ……あそこの関係が一番甘いと思うッス、スイーツだけに。あれ? 俺っちもしかして上手いこと言った?!」
証言三・冬組 高遠丞
「兵頭から時々ランニングに同行したいと言われることがあるんだが、役作りか体力作りの一環かと思って聞いてみたら……まさかの季節イベントでのカロリー摂取を気にしてのことだった。まあ、動機はどうあれちゃんと運動するのは良いことだと思ったんだが、雑談がてら何が食べたいか聞いたら、『臣さんが作ってくれるブッシュドノエル』『臣さんが作ってくれるシュトーレン』『臣さんが作ってくれるぜんざい』『臣さんが~』…………兵頭が食べている物は、伏見の手作り以外ないのか?」
証言四・春組 佐久間咲也
「この前、十座くんとストリートACTに行ったんです。行く前に美味しそうなケーキ屋さんを見かけたから、お題をケーキ屋さんの日常にして、オレが店員、十座くんがパティシエの役をやったんですけど……十座くんのパティシエ像が、どう見ても臣さんで……途中からオレ、十座くんと芝居してるのか、臣さんと芝居してるのかわかんなくなっちゃうくらいのクオリティだったんです。だから十座くんに『臣さんにすごく似てたね! 本物かと思っちゃった』て伝えたら、十座くんきょとんとして『確かに臣さんはパティシエ並みに美味え菓子が作れるが……そんなに似てたか?』って。十座くん、全然自覚なかったみたいです。ふふっ、でも、それだけ十座くんの中にお菓子を作る臣さんがいるってことですよね。素敵な関係だなあ」
一成、太一、丞、咲也が談話室でそんな話をしていると、仕事帰りの至がへろへろな様子でなだれ込んできた。
「たっだいまー……あー、咲也いる。俺の天使。今日はもう無理。癒して~」
「……茅ヶ崎。気持ち悪いぞ」
「至さん! お仕事お疲れ様です! 今日はなんだかすごく疲れてますね」
「いたるん、おかえりんご~! マジへなへな丸じゃん、どったの?」
「至さん、お仕事お疲れッス~! なんか要ります?」
「丞、ひどい。咲也と太一は、ありがとう、なんかちょーだい。一成、聞いてよー」
ぐったりとソファに寄り掛かったまま、至は今日会社であったことを話し出す。そこに十座が飲み物を取りに現れた。
「今日さー、職場で後輩女子に粘着されて。その子、中途採用なんだけど、なんかやたら俺に『ここが分かんないですー、一緒にやって下さい―』だの『ここ難しいですー、教えてください―』だの、挙句の果てには『取引先に一人で行くの怖いですー、一緒に行ってください―』だの言い出してさ。俺も自分の仕事で忙しいし定時上がりしてコンビニのくじ引きに行きたかったのにめちゃくちゃ邪魔されて……でもほら、一応会社じゃ『優しい茅ヶ崎さん』で通ってるから、無下にするのも難しくって……いやあ、回避するのにすっごい神経使ったわ。そんな不運に見舞われた上に、コンビニのくじもう終わってて……ああ、俺を癒せるのはこの場の君たちしかいない!」
「至さん……それは大変でしたね。オレでできるならなんでもやりますよ!」
「咲也ぁ」
「至サン! 今日俺っちが買ってきた新作コーラあげるから元気出して!」
「太一ぃ」
「ありゃりゃ……いたるん、マジお疲れちゃん。時々いるよねーそういう女の子。意識してるのか無意識なのか、とにかく周りに頼って甘えてきちゃう子? ちょっと時と場合によってはしんどいよねえ」
「一成ぃ」
「お前の仕事だろって突っ返せばいいだけだろ?」
「丞はちょっと黙ってて」
リビングでそんな話を聞くともなしに聞いていた十座は(働くってやっぱ大変なんだな)くらいにしか思ってなかったが、次の瞬間、丞に爆弾を落とされた。
「兵頭も気をつけろよ。伏見がいつもいつもお前の菓子作る余裕がある訳じゃないんだからな」
「!?」
不意にそう言われ、十座は危うく持っていたコップを落としそうになる。一成と太一が丞に向かって何か言ってたが、意識が遠のき、何も聞こえなかった。
(臣さんは、俺の菓子を作る余裕がない時があるのか――!? だったら、俺は、今まで臣さんにすげえしんどい思いをさせてたのかもしれない。今の至さんみたいに)
顔から血の気が引くのが自分でも分かる。臣はどんな時でも十座のお願いを笑顔で引き受けてくれたから、まさか負担になってることがあるなんて想像もしたことなかった。
(臣さんにそんな負担掛けてたら……いつか、菓子を作ってもらえなくなるかもしれねえ。いや、それどころか、俺、臣さんに嫌われて――!!)
太一が駆け寄って「十座サン! 大丈夫ッスか?!」と心配してくれたが正直今はそれどころではない。このまま気ままに作ってほしい菓子を頼んでいたら、いつか臣に嫌われて、臣の手作り菓子も食べられず、臣と話せない日が来るかもしれない。そう想像しただけで、心臓が止まりそうなほどショックだった。
と、そこへ――
「ただいまー。お、みんな揃ってるのか。あれ? 十座、顔色悪くないか? それに至さんも……」
仕事から帰ってきた臣が、談話室にいる面々を見回し、十座と至の異変に気付く。
「どうした? 何かあったのか? 何か食うか? 十座には、昨日作り置きしてたスコーンに今クリームを泡立てて……」
そんなことを言い出した臣に、十座は慌てて臣の手をがっしり掴んで必死の形相で止めた。
「臣さん! 嫌なら嫌って言って欲しいっす!」
「え?」
「俺、臣さんに菓子作ってもらうのがいつも嬉しくて、臣さんも優しいからいつでも作ってくれてて、でも、それが負担になって、いつか臣さんに嫌われちまうなら、そんなの、そんなのっ……!」
十座が顔面蒼白になりながら絞り出した言葉に、臣は目を丸くして、それからにっこりと微笑んで十座の手を握り返した。
「俺が十座の菓子を作るのに負担に思ったことなんて一度もないよ。前にも言っただろ? 俺は、みんなが、十座が、美味い美味いって俺の作ったものを食べてくれるのが何よりも嬉しいんだ。料理は俺にとって息抜きだし、何より、十座がいつも俺の作った甘味を心から美味しそうに食べる姿に、すごく幸せをもらってるんだ。だから、これからも十座が食べたいもの、いっぱい教えてな? なるべく希望に沿えるよう、頑張るから」
「臣さん……!!」
臣と十座は硬く手を握り合い、至近距離で見つめ合っている。2人とも身長が近いせいで、今にも鼻や唇が触れてしまいそうだ。
一方、リビングでその光景を目撃した5人は……――
「……俺たちは、今、何を見せられてるの?」
「そうだねー……強いて言うなら、告白現場かな☆」
「三好、七尾。さっきお前たちが『おみみ/臣クンに限ってそれはない』って力説してた理由がよく分かった。なんか……すまん」
「丞サン……分かってもらえたなら、何よりッス。ここの二人に、甘えすぎとかないッス。お互いがお互いにめちゃめちゃ甘いんで」
「ふふ、やっぱり、十座くんと臣さん、素敵な関係だな」
咲也の平和な結論に、5人は静かに頷くだけにした。【終】