誰かに会いたいと思うなんていつぶりだろうか。
小さい頃から住む場所が変わることが多くて、友人と言える存在もあまりいなかった。連れられて東京に行った時からはまたカヅキさんと会いたいと何度も思っていたのに、その気持ちはいつの間にか小さくなっていた。勿論会えるタイミングがあるなら会いたいが、昔とはその気持ちのもちようが変化してるのが今なら分かる。幼いが故に持っていた気持ちに似たものを、今は一緒になってからずっとそばにいた存在へと向けていた。
寮を出てから生活している小さな、それでも都内で考えたら十分に広い家からは何の音もしない。時々窓の外から車の音や通っていく人たちの話声が聞こえてくる程度。聞きたいわけでは無い仲睦まじい会話を耳にすると溜息をついて、静かな家の中心にあるクッションへと身を投げた。
食器の片方が使われなくなったり、聞きなれた声が響かなくなったのは数日前だというのにとても長い期間、この場所に一人で暮らしているように思えてくる。平気だと出発前に強がっていた自分が、一人でいることに寂しさを覚えてる様を見たらきっと眉間に皺を寄せる。
何時間も前に既読をつけたメッセージを何度も開いて、画面の端に表示されている時計へと目を向ける。まだだろうか。駅まで迎えに行こうか。いや、車で帰ってくるかもしれないから会社まで行くか。なんて考えてはそわそわと動き出したくなる身体を必死に抑えるように落ち着かせていると、ピンポンなんて音が軽い音が家の中に響いてビクリと体が跳ね上がった。待ち望んでいた音だというのに、いざその時が来ると体は石のように固まってしまい玄関の方をじっと見つめていると再び短く音が鳴り、現実なのだと実感させられてようやく体が動いた。
一歩踏み出すたびに心臓がうるさくなる。出会った頃や付き合いだした頃だったら口にすることも恥ずかしくて言えなかった言葉のために息を吸う。緊張や気恥ずかしさよりも嬉しさが心の中が満ちていくのが分かった。呼吸を整えて、ドアノブに手をかけて捻ると、夜空の光を集めたような表情に眩しさや愛おしさが溢れだして目を細めた。
「おかえり」
やっと言えた。
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20200912カケタイ2
初公開日: 2020年09月12日
最終更新日: 2020年09月12日
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「誰かに会いたいと思うなんていつぶりだろう」~「やっと言えた」
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