はねみやくんとばじさんと千冬
日に透ける金髪を、綺麗だと思ってしまった。
少年院に入っていた二年間はただの地獄だった。毎日毎日、同じ場所で同じことをして、日がな一日それの繰り返し。700回以上、俺は同じ時間に起こされ、怒鳴り声に流されながら同じように一日を過ごした。
看守は偉そうに説教を垂れる。健全な精神は健全な生活から生まれるだとかなんとか言われたけど、正直なところそんな健全な精神なんてものが生じるような生活ではない。こんなところ、誰だって三日で根をあげるどころか精神的におかしくなっても不思議じゃない。これが健全だと思う方が不健康だ。
そんなご高説を聞き流しながら、いつか出たらああしてやろう、こうしてやろうと辛うじて夢を見ながら長い二年間をやり過ごした。
そうして、やっと出ることになった日。出所前に私物が返されることになった。
机の上には確認するように、逮捕時に身につけていたものが並べられる。流石に刃物の類やバールなんかは押収になったようだ。そしてそれに加えて封筒の束が机に置かれていた。訝しがる俺に看守が「手紙だ」と言ったけど、んなことは見なくても分かっていると心の中で思いながら、ここまできて今更出られなくなったら嫌なので適当に相槌を打った。
そうして、わずかな私物と紙の束を持って数年ぶりに娑婆へと出てきた。空気が違うとはよく言ったもので、今までいた所は随分と淀んでいる気がした。例えるなら、スーパーの鮮魚コーナーにある狭い生簀だか水槽だかわからないあの水槽のような、暗く思い空気。それが一歩外に出れば風は流れ色々な音や色に溢れている。こんなに色々なものに溢れていたのだと思うと目眩がする。
外が美しければ美しいほど、俺の中の憎悪は酷く燃え上がった。
出所日は通知されていると聞いたのに、親が迎えにくることもなかった。その辺りは想定していたし、むしろ来る方が嫌だったから良かった。けれど、この後どんな顔をして家に帰ったらいいかもわからない。家に帰っていいのかすらも。
何をすればいいか分からず、途方に暮れて近くの公園へと立ち寄った。ベンチに座り込んで、そういえばあの手紙はなんだったのかと鞄から封筒の束を出した。宛名はヘッタクソな上に間違った字で羽宮一虎様と書かれている。この字なら差出人の名前を見なくてもわかる。場地だ。何枚もの封筒を見るけど、全て同じ筆跡だった。けれど、途中からきちんと一虎と書けるようになっている。
あいつは俺のことを忘れていなかったのだと思い、高揚した気持ちになった。
やっぱり、俺にはお前だけだよと思いながら手紙を開ける。お久しぶりです、と汚い文字で、しかも何故か原稿用紙に書かれた手紙に思わず笑ってしまった。こんな風に笑うのはいつぶりだと思いながら、他愛もない内容の手紙を読み続ける。
重ねられている順に読んでいると、丁度古い順だったようで、はじめての手紙から二通目、三通目と順になっていた。そして俺が入ってから半年ごろ、また一年生をやり直した入学式の日から、間違っていた一虎の文字が書けるようになっていた。
ようやく覚えたのかと思いながらその手紙を読み進めると思わず指が震えた。他愛もない話の後に、いい奴に漢字を教えてもらったと書いてあった。
手紙の中で簡単な近況報告以外に他の奴の名前を一人も出してなかった。東卍のメンバーや、場地の家族すらも。それが急に他人のことをとりあげて、しかもそいつに漢字を教えてもらったと急に言い出した。
なんだよ、お前。苛々しながら次の、またその次の手紙と読み進めていると、しばしばそいつらしい存在のことを書いている。名前こそないけれど、明らかに場地がそいつのことを大切にしているのが浮き彫りになっている。
思わずムカついてぐしゃりと手紙を握りつぶした。俺が毎日毎日毎日毎日同じ一日を繰り返して壊れそうになってたのに、何でお前はそんな幸せそうに俺の知らない奴とつるんでんだ?
腹が立って、その男を一目見ようと場地の家へと向かった。団地の非常階段にでも座ってどんな奴か見てみよう、丁度夕方だから、家に帰るだろう。そんな雑な考え方だったけど、何の因果かすぐに見つけることができた。二人でゴキにニケツて学校から帰ったようだ。記憶の中の姿よりも背と髪が伸びているけど、間違いない。あれは場地だ。つまりその横にいるのが俺から場地を奪った奴だってことだよな?そう思いながら、ヘルメットを外すのを待つ。
場地から少し遅れてヘルメットを外したそこにあったのは、色鮮やかな金髪だった。
思わずその姿に目を奪われて、声を掛けるのも忘れてしまっていた。そうこうしているうちに、二人は階段を上りどこの部屋に入っていったようだった。
日が暮れていく。夕陽が地面に飲み込まれてどんどん暗くなっていく。
何だか敗北してしまった気持ちになりながら、階段を降りる。そのまま腹が立って走っていると、美容室があった。そういえば、髪もそこそこ伸びている。パンチに戻すことも考えたけど、いっそそれなら。
店仕舞い前のそこに入って、美容師に言った。
「金髪にして」
金髪、後は適当に好きにしていいとオーダーすると、全部金髪だと似合わないから、と言って所々のメッシュになっていた。鏡に映る自分の姿は、あの男とは似ても似つかなかったけれど、俺の方が場地の隣にいるべきだと、お似合いだと思った。
「場地は、俺の方を選ぶよね」
鏡の中の俺は、にっこりと笑っていた。
お付き合い頂きまして、ありがとうございました!!!!