タケちゃんside
今は静かになった病室。
慣れない雰囲気に落ち着かないが、むやみに話しかける雰囲気でもなく、時間を持て余してる。
上半身を起こして、ただぼうっと、ベッドに座ってる春樹の横で、この席に座るべき人物の代わりをしてるというのが今の俺の立場だろうけど。
何度もかけた電話
俺だけじゃなくて、繋がるツテを使えるだけ使って送り込んだLINE。
それでも、連絡が着いたのは、ほんの20分前。
全てが終わっていた。
"秋彦らしいね"
いつもなら、そんな風に笑う春樹に、甘やかしすぎだって小言のひとつも言えたのに。
今は、殴ってやりたい気分だ。
多分、こんな場面の、父親の心境は、これなんじゃないかと思う。
「春樹、寝てもいいぞ?」
「ん?ありがとう...なんか、まだ夢のなかにいる感じがする。なんだろ、ふわふわ、してる...みたいな。」
いつもの白い肌が、透けそうなくらい色を失って、頬の傷が余計に痛々しい。
麻酔のせいなのかもしれない。
起きているのに、その実感が無いのは。
それも、そうだろ。
今は、ゆっくり休んだ方がいい。
そのために必要なのは、俺じゃなくて、あいつ。手でも握ってやれば、すぐに眠れるはずだ。
遅いな。
「タケちゃんこそ退屈なんじゃない?」
「俺?...いや...べ...」
「俺だったら大丈夫だよ?姉さんももうすぐ来るだろうし」
春樹のお姉さんは、見ちゃだめなもの、みつけちゃたらごめんねと言い残して、連絡がつかなかった男に変わり、日用品を取りに行ってくれている。
たしかに...なんであれ実の姉に見られたくない物の1つや2つ部屋にあるだろうな。なんであれ...
「今俺が帰ったら、弥生に怒られるだろうが。ここに置いてくれ」
「タケちゃんも、すっかりだね」
「包容力と言ってくれ」
「深いわ」
たわいもない会話。
いつもの春樹。
だけど...やっぱり、震えてる。
...当たり前だ。
早くこい....
✰
聞こえて来た足音。
大き目の歩幅、病室の前で音が止まった。
来たか。
勢いよく開いた扉の音に、こっちがびっくりする。
「...は...はる...はるき?」
ゆっくり近づく足取りは、どこかふらついていて。
俺は
退散するかと、簡易的な椅子から立ち上がる。
「...どちら様ですか?」
警戒心丸出しの声が、病室の中を突き抜けて行った。