「よし、OK」
子供っぽい笑顔と共に、携帯の画面が暗くなり、もう用済みとばかりにテーブルの上に放置される。次に興味を示したのは、運ばれてきたばかりの厚みのあるパンケーキ。
「これ食べたかったんだよね。」
今流行りの、果物 生クリームたっぷりのパンケーキじゃなくて、シンプルなパンケーキ。甘い香に誘われたかのように、思い切りよくナイフで切込みをいれる。
「いただきます」
何もかけずに1口。
目の輝きがました。
想像通りの美味しさだった?
こども...みたいだな。
想像してたのとまったく違う行動に、肩の力が抜ける。
俺、なんでここにいるんだっけ?
目の前で、屈託のない笑顔を見せる村田雨月を見ながら、やっと落ち着きを取り戻した脳が冷静に働こうと記憶をさかのぼりはじめた。
えっと...
講義と講義の間
癒しを求めて上る屋上。
このご時世喫煙者は肩身の狭い思いをしなくちゃいけない。だからコソの、ここ。集まって来るのもいつもの顔ぶれ。誰が言い出すわけでもなく足がむく。
なのに、今日、そこにあったのは、見慣れない人影で。新入か?だったら、探っても仕方ないかな。全員を把握するなんて、到底ムリなんだから。と、早々に諦めて、少し木陰になってる場所に向かって歩き出す。
なぜだか、同じ歩幅で向こうも俺に近ずいて来て。
なんだろう。薄い壁を身に纏うように、警戒心がます。
そこから、知ってる顔だと認識するのに時間はかからなかったけど。
「なかやま はるきクン?」
自信なさげに向こうが俺の名を呼んで。
「は...い...」
こっちも警戒心丸出しで返事を返す。
ああああああああぁぁぁ
知ってる。
知ってるってか
知ってる
なに???俺になんの用?いや、思い当たる節は2~3個ありますけど、心、心の準備がねぇ。
今日、だったのか。
「会いたかったんだ。今から時間ある?」
漆黒の艷めく瞳が俺を捉える。
「あ...はい」
ここに来た意味、これからしなくちゃ行けないこともすっかり抜け落ちたかのように気の抜けた返事を返してしまう。これが、カリスマ性ってやつ?違うか。
「よかった。なら」
さっき来たばかりの場所を指さされ、あやつり人形のように着いてきてしまった。
のが、ここ。
「俺に話ってなに?」
だいぶ心の準備もできた。
まだ口のつけてないアイスコーヒーを少し右にどけて、俺の方から仕掛けてやる。
怖いことは早めに終わらせたい。
のに
メイプルシロップをかけ終えた雨月がにっこり微笑んだ。
「ま、そんなに構えないで。もうすぐ来ると思うからね?はるきクン..でいい?」
うっつ...
整ってる顔立ち。愛らしいという言葉が似合う。多分それは本人も気がついていて、最高の武器になってる。ギャップとでもいうか、少し右にはねた髪と、取れかかった手首のボタンが、どこか抜けてる感じがして。これが、メディアが取り上げる理由だと、納得してしまう。
話してる事は、至って普通で。俺に探りを入れるとか、嫌味をぶつける訳じゃなくて。新しいクラスメートに自己紹介してるみたいな。頷いて、笑ってくれることが、心地いい。
ただ、お互いに、秋彦の名前を避けてるのだけは、否めないけど。意識的に、だと思う。少なくとも、俺はそうだ。
もっとこう、別世界の人かと思ってたのに。
もっと、特別なやつならよかったのに。
入店した時の電子音。
駆け寄る店員を制して、こちらに向かってくるのが背後からわかった。
「秋...」
「これは!どういうことだよ!!」
明らかに雨月の空気が変わった。
あと少しで食べ終わるパンケーキを前にして、邪魔された事の不快感を露骨にみせる。だけど...違う。
嬉しいそうだ。
今、ここに秋彦が来たことが。
どんな理由であれ、秋彦と同じ空間を共有している事が。
俺、なんでここにいるんだっけ。
さっきまでは全てが見えてた気がするのに、視界がどんどん曇ってきて。半分になったアイスコーヒーのグラスについた水滴が、ゆっくりと伝うのだけが浮かび上がる。
どんな顔すればいいんだろう。
正解が分からない。
「座れば?」
雨月の有無を言わせない言葉。
当たり前の様に俺の隣に座った秋彦。
「なんか飲む?」
「アイスコーヒー」
「おけ」
一連の流れ。
すぐ隣で起こってる事が、テレビの中の出来事みたく感じられる。
「...き...はるき?」
「は?え?」
「お前、大丈夫?何もされてない?」
深く腰掛けた秋彦が、俺を覗き込んで来たらしい。
近い顔に驚いて目が開く。
同時に視界が戻ってきた。
「ちょっと、人聞き悪いから」
「うっせーよ、こんなもん送ってきやがって」
テーブルの上に置かれた携帯。
写ってる文字を覗き込む
"なかやまはるきは預かった。返して欲しければ〇〇までこい"
中途半端な脅迫文(なのか?)と臨場感のないスタンプ。
「なにこれ?」
「何って...」
タイミングよく運ばれてきたアイスコーヒーに話が中断した。
「信じたの?」
「あのな、今までも何回かあったんだ
。俺のビールやらタバコやら人質に取られて、こいつに食われるの...あれ?」
言葉に出してやっと気がついたらしい。
ずっと真顔だった雨月が声を抑えて下をむく。多分、わらってる。
秋彦の耳のふちまで赤くなってるのがわかる。
「俺は、大丈夫だから」
心配しないでと、口角をあげた。
これが、今の、精一杯。
「お、おう」
決まり悪そうにアイスコーヒーを流し込む。
下を向いてた雨月が、何とか顔をあげた。
「さすが、秋彦」
「おまっ...笑いすぎ」
ごめんごめんと、謝るポーズをして見せたものの反省の色は全然見えないけど。
「で?こんなとこに呼び出しといて何?」
どこから走って来たんだろう。
こめかみにヒカル汗に気がついた。
「こんなことでもしないと、秋彦は、こないなかとおもってね」
時間をかけて食べ終え、空いた皿を端に寄せた。
秋彦の眉間にシワがよる。
図星だったのかも。
「秋彦、はるきクン、おめでとう」
少しだけ姿勢を正し、俺と秋彦の顔を交互に見たあとに、サラリと、でも重きのある声で告げられた。
予想してなかった言葉。動揺して、適切な単語を探すことが難しくて。
「あ...ありがとう」
この言葉が精一杯。
秋彦は言葉さえも失ってるけど。
「ちょ...ま....」
「はぁ?なに?そんなキャラじゃないじゃん」
ケタケタと笑い声をあげる。
目の端に光ってるものが、眩しくて。
すごいやつなんだと...思った
秋彦がずっと好きだった人
わかった...気がした。
「新居には遊びに行くから」
「...来んなよ」
「秋彦の許可はいらない。ね、春樹くん」
「珈琲くらいなら淹れるよ」
「優しい」
「春樹、甘やかすなよ」
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向き
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ギヴン 大人組
初公開日: 2020年08月24日
最終更新日: 2020年08月24日
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コメント
ギヴン映画公開おめでとうございます!!
映画見て コメント読んで
書きたくなったやつ...
いつか こんな日が
ギヴン
大人組が喋ってるだけ
いろいろ捏造
誤字脱字ごめんなさい