街へ降りた商人たちは知り得た情報を仲間に伝えた。
緘口令など引いておらず、「不死身の兵士を眠らせる少年」のことはあっという間に宿舎に広がった。
リアムは赤毛のニキビ面のジョッシュとして、食事をしながら、「不死身の兵士を眠らせる少年」の話を聞く。
帽子をかぶっていたため、風貌などは伝わっていない。
声が高く、背が低く、凹凸がない体つき、男装をしていたため、少年として、レイアのことは広まっていた。
もたらされた情報で騒ぎが起きている状態をどう治めるか、リアムはチャーリーの出方をみていた。
「静粛に。陛下がいらっしゃる」
隊長が現れ、騒ぎ立てる兵たちを一喝する。
すると皆シャンと座り直し、口を閉じた。
チャーリーは自ら戦場に出ることが多く、兵士たちは彼の強さを知っている。単なる王としてではなく、強い兵士としても尊敬されている。
王の姿が見えると一斉に頭をさげた。
もちろん、リアムもみなと同じ動きを取る。
「顔を上げてよい。今日は皆に知らせることがある。私には娘がおり、その娘が何者かによって攫われた。王妃が殺され、私は娘を同じ目に合わせないために、彼女を隠してきた。しかし彼女は奪われ、何者かに利用されている」
そこでチャーリーが一旦言葉を切る。
兵士たちの脳裏には「不死身の兵士を眠らせる少年」のことが浮かぶ。
「巷で、不死身の兵士を眠らせると言われている者は、私の娘、王女レイアだ。今回の作戦は内密に王女を奪いかえす作戦だった。しかし、敵は王女を利用しており、私は王女の事を公にすることを決めた。敵は恐らくカルシア王国の滅亡を願っている。アステライゼでは亡国の王太子を担ぐ動きが出ている。王女は恐らくこやつらに利用されていると考えられる。反カルシア軍を壊滅し、王女を奪い返すために、我々はアステライゼへ向かう。皆の者、私に力を貸せ。我が国は世界最強だ」
チャーリーが語り終わると、兵士たちが立ち上がり、声を上げ始める。
それはチャーリーを讃えるものに代わり、リアムは疑われないように同様に声を上げた。
★
「セオ、レイアと共にここに残りなさい。偵察は私一人で十分です」
テイラーにそう言われ、セオは一瞬不服そうな顔をしたが了承した。
レイア一人をこの貧民街の一角に置いていけるわけがないし、彼女を連れて偵察など無理だった。
「帰りに揚げパンを買ってきてあげましょう。あればですが」
「ありがとうございます」
セオよりもレイアは顔を輝かせ、礼を言う。
テイラーはその笑顔を眩しく感じてすぐに顔を背けた。
「それでは私は出かけます。セオ、頼みましたよ」
「わかってるよ」
胸をどんと叩き、セオは返事をした。
テイラーは後ろ髪引かれる思いで、家を出て、街の中心部に向かう。時間は太陽が沈み始めた頃で、夜の店が開き始める時間だった。
「いい男だね。安くするよ」
街角で立ってる女性に話しかけ、それを交わしながら道を進む。
客の多くは、兵士のようだった。
「うるせーな。これだけ払うって言ってんだろ!」
そんな声が聞こえてきて、制服を着崩れさせた兵士が女性の腕を引っ張っていた。
「アタシは、売ってないんだよ!」
どうやら、性を売る商売をしていない女に金を払い、どこかに連れて行こうとしているようだった。
兵士に喧嘩を売るのは偵察している身で愚かなこと。
しかもその女は外の人間、自分とは何も関係がない。
なので、テイラーは見て見ない振りをした。
背後で悲鳴が上がるが、彼は聞こえない振りをして前を進む。
そのうち、男の声が上がった。
「いてて、放せ!俺を誰だと思っている」
「カルシアのクソ兵士だろ。自分では戦わず不死身の兵士に戦わせる弱虫野郎だ」
「なんだと!」
女側に味方が現れ、その両者間で争いが起きた。
それは周りの兵士を巻き込み大きくなる。
女側も、その男だけでなく、何人もの屈強な男が現れた。
「貴様ら、反カルシア軍だな?いいだろう。俺たちが相手にしてやる」
兵士の一人がにやりと笑い、小剣を鞘から取り出す。それは赤黒く、何かが滴り落ちている。
「毒薬か!卑怯者が!」
「逃げろ!不死身の兵士に変えられるぞ!」
女と共に助けに現れた男たち、商売をしていた女たちが逃げ惑う。
そこに兵士が小剣を投げた。
一人の女性が小剣を背中に受けて、倒れ込んだ。
「エラ!」
彼女の仲間が立ち止まり、近づく。
刺された女性は立ち上がると、仲間だった女性を殴りつけた。玩具のように女性は飛んでいき、どさっと地面に落ちる。
「あはは!素直に俺についてくれば、不死身の兵士になんてならなくて済んだのによ」
カルシア王国の兵士達は下卑た笑い声をあげ、逃げ惑う人々を狂ったように追いかける『不死身の兵士』を眺めている。
胸糞の悪い場面だった。
テイラーは少しだけ罪悪感に駆られてもいた。
あの時女を助けていたら、少なくても彼女は『不死身の兵士』になることはなかったのではないかと。
目立つのは自殺行為だ。
けれども彼は動いた。
『不死身の兵士』の首を掻っ切り、機能停止させた。
その上、その場の兵士たち五人すべてを殺した。
その中には門番をしていた兵士も含まれていた。
「ありがとうございます!」
生き残った者が集まり、テイラーにお礼を言う。
「あれ、あなた!」
聞いたことがある声がして、振り向くとそこにいたのはマリーナだった。
戦闘に参加しようとしていたのか、随分勇ましい恰好をしていた。