何があったのかは知らないが、シスターには救いが得られなかった経験があるらしい。彼女は元々前線を担う海兵であり、そこで救いがないと言えば…何となくは察する。
アラバスタで起こった市街地戦のような。そしてそれは、きっとフレバンスでも同じだった。
「昨夜…ローさんの恩人に脅されたのです。彼はもう治っているのだから過去を持ち出すなと。」
「恩人?」
「えぇ。初対面で脅されるとは驚きました。それだけ海賊である貴方が大切らしいですよ。」
良かったですね、と思ってもないことを口にしてみたのだが、ローは言葉を失った様子で固まっていた。まさか死人が生き返るわけもなし、今回はローの早とちりだ。
言ったはずである。
諜報防諜局は将来〈利用できる〉海兵に対しての援護は惜しまない。そして相手がドフラミンゴであれば融通も利くし、調整もしやすい。おいこの海兵気に食わねェんだが…と言われれば、はいはい分かりましたよと引き離す程度造作もない。
「コ…」
「名は知りません。元帥直轄海兵ですが担当が違うので、二度と会うこともありません。」
「…そうか。」
恩人から詳しい話は聞いていない。彼とローの間に何があったのかも、どんな苦労をしたのかも聞いていない。だがフレバンスと聞けばまず浮かぶのが伝染病。さらには治ってるとも言われたので…やはり、大衆の愚かさだろうか。
「それで、神に祈りましたか?」
「いいや。だが全てを滅ぼしたかった。」
「そっちでしたか。強かですね。」
だからドフラミンゴは一時彼を受け入れたのだろうか。世界への憎みを察したから拾ったのかもしれない。それが今や敵なのだから、ご苦労なことで…ともと思う。自分で自分の敵を育てるなど、ハインとしては金を積まれてもやりたくないことだった。
「…なぜ、あの時…海軍は動かなかった?政府も軍もなぜ隣国を止めなかった?」
「救援要請がありませんでしたので。」
「嘘つけ。」
医者は感情を隠すことなく吐き捨て、刀をチャキリと持ち直す。それを見ていたのだろう同盟相手が動きかけ、慌てた様子でコビーが止めに入っていた。シスターは呑気に笑っているが、必要となれば動いてくれるだろう。
海軍は慈善団体ではない。
軍である。言い換えれば戦争屋。政治は管轄外で、飼い主の指示を聞く猟犬に近い集団だ。話し合いで決着が付かないのであれば武力で解決する。そう言う使い方も珍しくはない。
さらに、軍とは恐ろしい程に金を食う。
「天秤にかけた結果の判断です。」
「国一つを見殺しにするのが判断だと?」
「最善策を最速で、そう催促されたならば。」
鉛による深刻な病。どうせ治りはしない中毒患者。国が弱るほどに恐怖を抱く隣国。
そして見た目に現れた白い痣。
人と言うのはそこまで賢くない。自らが思っているほど万能ではなく、過大評価も図々しい。平等を叫ぶ者ほど平等ではなく、多様性を認める寛大な心も持ち合わせていない。それが人間の大半であり、大衆ともなれば肯定すらされる。
未知の伝染病だと囁いてみれば、いとも簡単に広まり。偏見、敵視、嫌悪、恐怖、挙句には迫害までも勝手にやってくれる。
歴史は簡単に繰り返される。
「魚人島の方々は今もあの扱いを受けていらっしゃいます。あれを模倣することは簡単ですよ。」
「…さぞ、楽しかったんだろうな。」
「いえ。仕事の一環です。上からの要望で鉛が欲しいと言われまして。」
ハインとしては魚人について何とも思っていない。革命軍にも魚人はいたし、姿形が違えども言葉が通じるならそれでいい。同じ人間なのに言葉が通じない奴もいる世の中、見た目よりも意思疎通能力の方が重要だ。
「なんだ、差別はしないってか?」
「まさか。ものさしの違いでしょう。私は魚人や白鉛よりもルーキーの方が嫌いです。どれがマシかと言うだけですよ。」
聖人ではないので、と笑って見せればローは何も言わずに睨んでくる。
「…差別反対とでも言えばいいですか。」
「される側になってみろ。」
「潰せばいい。それだけですよ。」
案外純粋らしい死の外科医は、言葉の通じない相手は嫌いだと視線を逸らす。だがふと何かを思い出したのか、刀を握ったまま空を見た。今にも降り出しそうな空からは風の擦れる音が聞こえてくる。
「恩人はどこにいる。」
「出航していきましたから知りません。」
「会うことは可能か?」
「管轄外なので知りません。」
どうにもあの恩人には嫌われている感覚がある。こちらとしては当時の役目を果たしただけであり、あの行いを正しいものだとは思っていない。正しくはないとすら認めている。
しかし選択肢として最善策だったのは事実。最速で効果が出ることも事実。さらに出費することなく利益が得られる方法であり、隣国を安心させる方法でもあり、フレバンスの住人を一人残らず消す方法でもあった。
「最適解でした。」
メリットが多く、デメリットはない。
全ての理想でしょう?とハインは医者に同意を求めてみる。天秤にかけた時にどちらを取るかと言われたら後腐れのないメリットだ。
フレバンスを差別したわけではない。
天秤にかけ、滅ぼした方がメリットが大きかったから滅ぼした。それだけの話だ。その為に伝染病を利用し、大衆の愚かさを突いただけ。
戦法の一つ、それだけの話。
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向き
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古い話と彼の生存について
初公開日: 2020年08月09日
最終更新日: 2020年08月09日
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1459
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星菜
影人形
宿伏の、よくわからない話です。語り手は恵の息子のはず
あぼだ