俺達は海賊だ。
世間では指名手配されて、追いかけられて、厄介に思われる存在。略奪、喧嘩、小競り合い、それらは大抵俺達のせいにされるし俺達のせいでもある。
だが組織ではないからこそ、縛られるものがないからこそ助けになれることもある。
海賊だって人なのだから、それぞれに性格や考え方がある。俺達は、ただ世界を知りたかった。安定した暮らしにも憧れはしたが、それでも世界が知りたかった。大秘宝を見つけ出したいわけでもない。純粋に、知らない世界が見たかっただ。知らない文化を体感したかっただけ。
面影のない彼女が言った、その言葉の意味を、気持ちを、価値を、若者特有の冒険心が知りたがっただけに過ぎない。
寄る島々で人と触れ合い、大した悪さをすることもなく。海軍に喧嘩を売ったことはおろか、刃を交えたこともない。海賊同士の小競り合いこそ絶えないが、それでも民間人は巻き込まないように注意している。
船が故障して漂流していた漁師を助けたこともある。迷子になった魚人の子を保護したこともある。津波の被害にあった小さな島の再建に、三年留まって協力したこともある。
良い子でいた自信がある。
だからこれまで指名手配されることもなく、名も知られないままに新世界入りした。俺達は世にも珍しい、新世界で一切無名の海賊団。
だがそんな経歴だったからこそ、指名手配されたときは騒ぎになった。あることないこと書き放題。全く知らない事件までも押し付けられている。無名でここまで来れたのは、出会う船全てを沈めてきたからだとかも言われた。
無名であったが故に扱いやすかったのだと思う。
まぁそういう扱いをされるのが海賊だ。分かりきっていたことだし、今更驚くことでもない。幸いとでもいうべきか、船員の大半が顔割れしていないので対策できた。
その一件で付いたあだ名は〈蜃気楼〉だ。船員総数不明、海賊船の数も不明、傘下の海賊も勿論不明、船長の名も姿も不明。
ならばまだ急がずとも逆転できる。
今は慎重に行動し、刺激してしまうのを控えたほうが良い。
そう思っていたのが半年前。
現状は幸い落ち着いている。
島の気候は夏。
乾いた海風がヤシの木を揺らし、ハイビスカスで休んでいた蝶が舞い上がる。
快晴の空には異変なく、グラスの氷が解けて軽やかな音が鳴った。
その男の静かな寝息はカモメの声に上書きされて、さらにオウムの声に隠される。
浜辺では大勢の者達が船を乗り降り、騒がしく雑談しながら作業をしていた。
どこかからは早くも〈できあがった〉声が聞こえる。
その声に起きることなく、男はかれこれ二時間ほど昼寝をしている。
首筋には軽い火傷の跡、ハンモックの傍らには刀が二振り。
寝ている口元は緩く微笑み、良い夢を見ていることがわかる。
彼の名はハービンジャー。
若いながらも二万四千人を束ねる船長だ。
声一つで統率を…なんてことはできないが、愛されて可愛がられている。
拠点であるロックアイランドは気候も安定し、景観も海も島民も良い。
これと言って敵対している海賊団もいない。海軍も必死に追ってこない。
幸いなことに指名手配もされていない。
おかげさまで彼らはこうしてのんびりと休暇を楽しめる。
だが彼らは特殊な形で話題になっていた。
たしかに指名手配はされていない。しかし手配書は出ていた。
写真のない手配書には〈情報提供を求む〉と書いてある。
そうそう見ることのないこの手配書に、どれほどの効果があるのか分からない。
そんな手配書が風に流されて、船長の腕をぺしりと叩いた。
「…?」
寝ぼけ眼でそれを見て、なんだこれか…とため息をつく。
長々とあくびをしたらぼんやりと空を見上げ、そしてようやく起き上がった。
しかし何かを再度確認するように空を見上げて、慌てて浜辺へ走り始める。
「昼過ぎてんのか!誰か起こしてくれって言っただろ!」
あははと船員達は笑い、副船長だろう男が呆れたように答え返す。
「起こしてくれなんて言われてないが?」
「うっそ。」
「夢の中で頼まれても流石に分からんよ。」
彼の名は208。普段はベスと呼ばれている。
彼はハービンジャーの旧友であり、この海賊達の頭脳的役割を担っている中心的な人物だ。
もしかしたら、担わされているとも言うのかもしれない。
まぁ副船長というものは往々にして苦労人がなる傾向がある。
仕方のないことだと当人も諦めているし、だからこそ務まっていた。
ハービンジャーは小型の船に乗り込むと、オールを持つ者達を急かしながら海を見つめる。
以前から試したいことが一つあった。
ロックアイランド近海は小さな島が無数にあり、お互いに船が発見しずらい特徴を持つ。
軍艦から隠れやすい反面、軍艦を見つけにくい難点も含んでいる地形だった。
最悪、海賊船と軍艦が出会い頭にぶつかる可能性もあるわけだ。
しかし心得はある。この海域で海賊は善だ。
海域の島民達と仲良くやっているので、近くに軍艦があれば彼らが電伝虫で教えてくれる。
危ないから隠れておきなさいよ、とこれがまた優しい者達だ。
だからこの海域に他の海賊達が来て騒ぎを起こしたのならば、一番に駆けつけて戦って見せる。
お互い当たり前に仲良くやっているに過ぎない話なのだが、この仲の良さが自慢でもあった。
さらにもう一つ、判断材料がある。
この海は比較的浅くサンゴの多い温かな海だ。
軍艦は速度を落とし、サンゴや入り組んだ島の岩に注意しながら進んでいく。
その速度は通常時の半分にすら達しない。
人魚や魚人達にとって、そんなもの止まっているも同然。
そうして発見した軍艦を、巡回している人魚と魚人の班が知らせてくれる。
きっかけはずいぶん昔になるが、些細なことだった。
そもそもこの海の近くには大きな海溝が存在し、遥かな深海とつながっている。
そこから上がってきた彼らと意気投合、地上で遊びたいという願いに協力した。
結果、彼らはこうして安全のために一役買って出てくれている。
拠点の近くでは人魚や魚人の子供達が遊び、大人達は軍艦の監視。
お礼として海賊側からは陸の物資や情報、その他深海にはない物を提供している。
これも良好な、純粋に仲の良い関係。
盟友、親友、仲間、これ以上に信頼できて頼もしい者もないだろう。
まぁそれはともかく。
島民や人魚達の活躍もあって、ようやく近海を巡回する軍艦のルートが確定できた。
何時どこを通ってどこに行くのか、誰が乗っているのか、何を運んでいるのか。
それがようやく全て判明して、最終確認までも完了して。
だから船長として腕を見せてやろうじゃあないかと、彼はこの日を楽しみにしていた。
しかも皆を驚かせたかったものだから、内緒でひそかに企み事をしつつ、だ。
しかし大事な場面ならばきちんと副船長ベスにお願いをしておくべき。
だがこれもまた、彼らにとってはいつものこと。
だから彼は愛されていた。
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だから、俺は旅をした。
初公開日: 2020年10月01日
最終更新日: 2020年10月01日
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コメント
ハービンジャー。
だから俺らは先を行く。下を示されたなら下へ下へ。星の屑となろうとも、俺らは先駆け。
旅をする。
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