お酒飲んだりチーズ食べたりしながら書く なんか書く 生ハムはいいぞ
「今日は?」
「んー、バイト昼まで。そっからちょっと大学寄ってくる」
「夜ごはんどうする?」
「あー、わかんない、またあとで連絡するよ」
行ってきます、と律義に声をかけて玄関を出て行ってくれるのは、なんやかんや年ごろだとしても、やさしい子に育った証拠だろうか。もうすっかり大人になってしまった背中に、行ってらっしゃい、と声をかけて、玄関の扉を閉める。……期待は、あまりしていない。でも、少し不器用な、あの人に似た、息子が、毎年してくれることが、うれしくないわけがない。今年は何をしてくれるのだろう。すこしの期待に胸を膨らませながら、まだ寝室で眠るあの人を起こしに行く。
***
「で、まあ大方そんなことだろうとは思ったけど。忙しいボクを呼んだんだから、報酬はばっちりくれよ?」
「って言っても、サリューはラボにこもってるだけじゃんか」
「こもってるだけ、とは失礼だな。やってることはちゃんとやってるよ。世界を動かすレベルでね」
聞く人が聞けば、嫌がられそうな発言。まあ、いつも通りなのだけど。長年の友人、サリューの少し寝不足気味の顔を見ながら、ファストフードのセットドリンクをすすった。いつの間にか大学内でも一目おかれる存在になってしまった彼は、まあいわゆるすごい人なのだろう。僕にとって、それはあまり感じられないのだけれど。
「しかし君も、毎年律義だね。頑張るからネタがなくなるんだよ」
「うるさいなあ、いいだろ別に」
「まあでも、君の母君にはボクも少なからずお世話になってるしね」
協力してあげよう、とサリューは誇らしげに笑った。そうしてフライドポテトを一つ口に入れる。もぐもぐと口を動かしながら、食べ物類を少し端に寄せ、携帯端末を立ち上げた。ホログラムディスプレイには、様々な国の言語と、僕が今一番悩んでいる母の日についての文献。
「もうあらかたやりつくしちゃった、っていう感じがしてさ」
「きっと彼女はカーネーションの一つでも送るだけで大喜びしてくれそうなもんなんだけど」
「それはそれで味気ないだろ」
「そうかい?じゃあ、アクセサリーを贈る、とか」
「それは父さんが母さんの誕生日にやってる」
「ご飯を作る」
「もう何回かやったから新鮮味に欠けない?っていうか普段も作るし」
「お菓子?」
「母さん最近体重気にしてるみたいだから却下」
そこまで行ったところで、ホログラムをいじる手を止め、サリューがはあ、と一つため息をついた。ドリンクを手元に引き寄せて、半分ほどを飲み干した。
「全部だめじゃないか」
「いやだからさ、驚かせたいとかじゃないんだ、ただ、呆れられてないかな、とか、考えると、いろいろ、思うとこがあるんだよ……」
……母親が、僕を産んでいなくなってしまう世界があった、と、昔から聞かされてきた。いま彼女がここにいるのは奇跡みたいなもので、偶然で、そして必然でもあったのだという。なんともとんちんかんで、僕にはおおよそ理解の及ばない領域だけれど、時間旅行、いわゆるタイムトラベルや、並行世界を研究してきた父が言うのだから、間違いはないのだろう。現に僕やサリュー、それから長い友人であるギリスとメイアも同じような研究をしている。並行世界はあるし、そこに僕だっているのだ。もしかしたら、別の、母さんのいない世界の僕が。その僕がしてあげられないことを、友人や家族にしてあげたいと思うのは、やっぱりすこし変な考え方なのかもしれない。それでも、何もしないよりは、したほうが絶対に良い。多分、そうだ。
僕が一人で考え込んでいる間、サリューはポテトを食べ終え、またじっとホログラムを覗いていた。ねえ、と話しかける前に、彼が口を開く。
「長考は終わった?」
「うん。いや考えても答えでなかったんだけどさ」
「お、それならちょうどいいね。いいこと、思いついたんだ」
サリューが僕に言う。なるほど。たしかに、それは、いいかもしれない。
「あ、お金足りるかい?」
「うわ、失礼だな、相変わらず。なんせバイトしてるからね。余裕だよ」
「お、じゃあここのも払っててくれよ」
「まあ、これくらいは仕方ないかな……」
忙しいとこ来てもらったわけだし、ね、とこれ見よがしに言葉をくっつけると、サリューは当然、というように笑った。
自分の携帯端末を取り出して、母さんと父さんにメッセージを送る。
***
「こんなところに呼び出すなんて、なんか新鮮やんねえ」
「いや、その……母の日、何かしたくってさ」
「私を呼ぶ必要はあったか?」
「父さんは今回はおまけ。ちゃんとしたのは、父の日待っててよ」
僕が父さんに向かってそういうと、母が笑った。
「っていうことで、はい、これ」
「なあに、これ」
「……サッカー、の、ユニフォームと、シューズ」
一緒にサッカー、したくてさ、というと、母さんは、驚いた様子で、そのユニフォームとシューズの入った袋を胸元に寄せた。
「だから運動靴で来い、だったのか?」
「そういうこと。母さんもだし、父さんなんて最近座ってばっかだろ。だから、一緒にやれたらな、って」
なんだかどんどん照れ臭くなってしまって、僕が小さかった頃みたいにと、小さく付け加えた。それを聞いて、少しうつむいていた母さんがようやく顔を上げた。なぜだか少し、目に涙をためて。目いっぱい息を吸って、彼女が言葉を紡いだ。
「ありがとう……!」
大人が泣くところなんてそうそう見ないものだから、実の母親とは言え、すこし動揺してしまった。
「う、あ、え、……泣くほど嫌だった?!」
「うふふ、もう!ありがとう、って言ってるのに、いやなわけがないやんね!ほんとにほんとに、うれしいなあ……」
さっそく着替えてくるやんね!と家のほうに走り去っていってしまった彼女を見て、父親が、じゃあ、私ももう少ししっかりした格好を、と、母親と同じ方向へ向かう。
……彼女が昔、話してくれたサッカーをする話。昔話、おとぎ話のようなそれに出てくるユニフォームの色と似たものを選んだことに、彼女は気が付いているだろうか。気づいていても、気づいていなくても、どっちでもいい。母親がいま生きていて、僕も、父さんもここにいる。このやさしい世界線を守るのは、きっと僕の役目だ。
「これからも、よろしくね、母さん」
つぶやいた言葉は、届かない。けれど、その僕の言葉にうなずくように、足元で小さく、菜の花が、揺れた。
(あなたとせかいに えいえんのこうふくを)
ありがとうございました~!ルーン親子何年ぶりだ……たぶん二年はかけてなかった気がしなくもない。じみに毎年書いたりしてた
大学生にしちゃったよ……サルくんは出した過ぎたのでだしました。彼がサッカーすればいいじゃん、っていいました。あとで親子に交じってやります。