影山飛雄の名は高校生の頃からその界隈では十分に有名だったし、卒業後シュヴァイデンアドラーズに入団してすぐに華々しい活躍を見せてからはスポーツファンにも知名度を広げていった。それでも俗な言い方をすれば「世間に見つかった」のは2016年の夏、ということになるのだろう。バレーボールに対して第三者的な立場をとれない月島は、オリンピックのいうものの一般の人間に対する影響力というものを舐めていたと言わざるを得ない。いずれにせよあの夏、灼熱のリオデジャネイロでサービスエースを鮮やかに決めて地元の解説をも熱狂させたまだ十九歳の影山飛雄は、「見つかった」。スポーツ専門でない雑誌の表紙に選ばれモデル顔負けのポーズを取って本屋で月島を硬直させ、単独のCMに出演してその棒読み具合に知り合いたちの腹筋を痛めさせ、特番が組まれ「恩師」として取材された高校のバレー部のコーチと監督を涙ぐませた。高校時代のチームメイトが全国級の著名人になるなんて、月島にしてみれば迷惑以外のなにものでもない。知り合いの知り合いぐらいの人間にサインをねだられるし、高校時代の写真はないのかと聞かれるのだってしょっちゅうだし、極めつけは、月島だって知らない影山飛雄のことをテレビやネットに知らされることだ。うるさいな、しょうがないでしょ、と月島は誰にでもなく自分に心の中で呟いた。別に僕、あいつと仲良くなんかないし。
影山飛雄を姉が語る、という特番の内容が告知された時それまで大っぴらにされていなかった家族の存在に全国のファンが(どうもいるらしい――大量に)どよめいたようだが、烏野高校排球部OBも大いにどよめいた。日向も山口もマネージャーの谷地も驚いていたので、月島ばかりが知らなかったわけではない。影山が自分のことを話さないにも程があるだけだ。菅原だけが「ちらっと聞いたことがある」そうで、元キャプテンに「さすがスガ。保護者だから姉も知ってるんだな」というよく考えると激しく矛盾しているような褒め言葉をもらっていたけれど、誰も突っ込まなかった。
そんなわけで、放送される前からその特番は仲間内で大いに宣伝され話題にされ、放送開始の一日前と一時間前にはそれぞれ「明日例の特番だぞ」「今日例の特番だぞ」というグループLINEまで入り、月島は到底「あーなんかそんなんやってたんだ、忘れてた」という体でスルーすることは出来ず、さりとてもともと入っていなかったバイトの予定をわざわざ入れるというのも意識しずぎのようで、とどのつまりは結局、見た。自宅で、生で。
忌憚ない意見を言わせてもらえば、特番は少しばかり大げさでやたら視聴者の情緒面に訴えかけるような作りが月島はあまり好かなかった。初めて見た、よく似た面差しの姉の言葉はシンプルだった。余計なものがたっぷり含まれていたのはナレーションの方だ。
共働きの親が忙しいから祖父が面倒を見てくれたとか、中学生の時にその祖父が亡くなっただとか、ナレーターがやたら情感たっぷりに語っているけれども何も特別なことではないと思う。あのばかみたいに整った顔つきもずば抜けたプレーもとかく「普通」とかけ離れたあの彼にしては、「普通」としか言いようがない過去だ。
番組の序盤、アドラーズの試合会場で影山飛雄の名前入りタオルを首に巻いて「超かっこいい、サーブ超すごい、顔がめちゃくちゃいい」なんて語っていた女性ファンなんかはこれを見て涙ぐんでいるのかもしれない。月島は全然影山のファンではないし、タオルは買わないし、涙ぐんだりなんか死んでもしないけれど、唇は震えた。
月島がただの一観客にすぎなかった中学の試合、影山の手から放たれたトスが誰の手にも触れずにコートに落ちたあの一瞬をまざまざと思い出した。あの時、月島が自分をどちらの立場に重ねていたかなんて考えるまでもなかった。自分だったらセッターにあんな態度をとられたら黙っていないし、高校でチームメイトになってからもさんざん嫌味はぶつけた。今だってそうだ。月島は、影山よりもむしろ、彼のトスを無視したチームメイトの気持ちの方が推測することができる。
わかっている。
彼らも月島も、影山飛雄のことを、自分たちが傷つけることのできる「普通の人間」だなんてきっと、わかっていなかった。
元気?と聞いてきた国見
金田一もだっけ
月島には手段がない
牛島や星海は無理
木兎さん せめてくろおさんか赤葦さんなら
直接「げんき?」
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影山飛雄特番を見た月島の話
初公開日: 2020年05月04日
最終更新日: 2020年05月05日
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影山オリジンの話を特番で知った月島の話を書きたい