今年もHE★VENSの暮らす家に春が訪れた。
「お、つばめちゃんが今年も来たんか」
「あぁ……あやつらは帰ってきてくれたのだ」
 普段より声を抑えめに話掛けるヴァンにシオンは喜びを隠しきれない瞳で答える。
 二人の視線の先には一羽の燕が青い空を旋回していた。その燕が向かう先はHE★VENSの暮らす家の軒天。そこでは去年作られた巣を修復しているもう一匹の――飛んでいる燕より尾の短い燕がいた。
 昨年、初めて燕の巣ができたときは大騒ぎだった。
 特にバードウォッチングを趣味としているシオンの喜びようはかなりのもので、白い頬を上気させてナギや大和に燕の生態について教える姿など今思い出しても微笑ましい。
「去年の板が役に立ってるじゃねーか」
 二人の姿につられたのか、トレーニングを終えた大和も集まり三人で空を見上げる。
 初めて巣ができた時、喜ぶ一方で問題も発生した。例えば燕のフンがその筆頭だ。
 ひなが大きくなるまでの二週間程度はどうしてもフンの被害が出る。そこで日曜大工も得意な大和が即席で板や段ボールを使いフン受けを作ったのだ。
「大和がしっかりと作ってくれたから今年も使えるのだ。感謝する」
「そんなすげーことはしてねえよ」
 尊敬のまなざしで見つめられて、流石の大和も照れ臭そうにそっぽを向く。
「またナギちゃん肩車して糸も張らななぁ」
 そんな二人の姿を微笑ましく見ているヴァンがそうぽつりと呟いた。
 シオンから燕の生態を教えてもらっている際、ひながカラスなどの他の鳥に狙われやすいと聞いた心優しき最年少が必死に対策を調べたことも昨日の様だ。
 燕より大きな鳥が入らないようにネットや糸を張ることが効果的と知った時はシオンとナギと大和が張り切って燕の邪魔にならないようにせっせと障害物を作ったことも懐かしい。
 そうやって、出来る限り自然に。しかし燕たちと共生しやすいようHE★VENS一同でお世話をしたこともあって、秋の別れの時期は気持ちが沈んだものだ。
 特にシオンなんて大変だった。生態も熟知し、それが自然のことと理解していたとしても寂しさは拭えないものだ。そうして、別れの季節となり、南へと飛び立つ燕の姿と秋の風の寂しさもあって寂しさを抱えるシオンに綺羅が言ったのだ。
「巣を恋ひて帰りわづらふ燕かな 汝さへ秋の風やかなしき……。これは……久安百首にある……和歌だ……。巣を恋しがって南へと帰りずらそうに燕の姿を……歌っている。あの燕たちも……そうだ……」
 そう言って綺羅は空を飛ぶ燕を指さす。その先にいる燕たちは、何度も遠くへ飛び立とうとしつつも一度巣へと近づきまた大空へと羽ばたこうとしている。
「きっと……来年も……来てくれる……」
「そうだ、そうだな。天草はその時を信じ待とう……」
 一つひとつの言葉に優しさが籠る綺羅に励まされシオンは力強く頷いた。
「えーじちゃんも喜ぶなぁ。去年も畑の害虫を食べてくれて助かった言っとたで」
 ヴァンの話し声に回顧していた意識が現在へと戻る。
 これから大忙しだとスマートフォンを取り出した彼は、きっとメンバー内のメッセージグループに嬉しい報告をしているのだろう。
「良かったな」
 彼も嬉しさが隠し切れないのだろう。その気持ちを発散するようにシオンの柔らかな髪を撫でる大和の大きな手は優しい。
「ああ」
 そう言って空で合流し飛び回る燕を温かい気持ちでシオンは見上げる。
 今年もHE★VENSの暮らす家に春が訪れた。
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