家事なんて、誰がしても同じだし、必要に駆られてするものだとずっと思っていた。
「お、ナギちゃん! 丁度ええところに! 今からお兄さんがたこ焼きつくったるからな! 本場の腕前見ときや!」
そういってヴァンは学校から帰宅したばかりのナギに桐を掲げて宣言した。
「え~! こんなプレートあったんだ!」
「みんなでタコパするためにお兄さん奮発したんやで~」
リビングにある一番大きなテーブルには大きなタコ焼き機と材料が所狭しと並べられている。
ウキウキと準備するヴァンの顔をナギはその大きな瞳でじっと見つめた。
「よっしゃ、ワックス掛けは気合だからな!」
HE★VENSの暮らす家の廊下でそう高らかに宣言したのは日向大和だ。
「ワックスなんて学校以外でしたことないんだけど……」
その大和の横ではいわゆるお掃除スタイルのナギがワックス用のワイパーを片手にでげんなりとした顔を見せていた。
「そうか? まあ、うちは実家が特殊だからよくやってだぜ。結構楽しいんだ。――まず、床をきれいにしなきゃいけねーから……」
そんなナギの表情を気にもせず、大和は長い廊下を足元から見上げるように先までみる。
「普通にやんのじゃ楽しくねーな! よし、最初の雑巾掛けは俺と勝負だ!」
「え! そんな!」
バッと低い姿勢を取り雑巾をスタンバイさせる大和にナギも慌ててワイパーから雑巾へと持ち変える。
「よっしゃ! いくぜ!」
まるで運動会で使うピストルよりも元気に響く大和の掛け声で、雑巾掛けレースはスタートした。
「ねえ、だめ? まだ開けちゃだめ?」
「まだ……ダメ……」
うずうずと電子レンジの中を覗くナギに綺羅が待ったをかける。
電子レンジの中では長方形の袋が膨らみを見せている。
「……もう、いいだろう……」
しばらくして、まず綺羅が電子レンジの中の袋を取り出す。そして、それがやけどするほどの熱を持っていないことを確認してナギに渡す。
「やった! あ、すごい! ねえ、きれいになってる!」
渡された袋に入っていたシートで電子レンジの中を拭くとみるみるうちに汚れが落ちていく。
そう、綺羅とナギは普段見落としがちな電子レンジの中を掃除していたのだ。汚れないように気を付けてはいるが、それでも定期的に掃除をしなければならない。
あまり前向きではなかったナギに綺羅が見せたのはこのキッチン掃除用の便利グッズ。もともと科学が好きなナギはその原理や構造に飛びついてこうして自主的に電子レンジを拭いている。
「俺は……コンロを……磨こう……」
嬉々として掃除をしているナギの姿を見守りながら、綺羅も自分の持ち場に気合を入れた。
「ほんと、シオンはアイロンがけ上手だよね」
「ほ、本当か? ナギからそのような評価を受けるとは、天草は天にも昇る気持ちだ」
リビングでメンバーのシャツをアイロンがけしているシオンはナギから褒められてその白い頬を喜びで赤く染める。
「そうだよ! 大和や意外に瑛二とかこういう作業苦手だしさ。ナギは苦手ってわけじゃないけど、シオンレベルまでするには集中持たなさそうだもん!」
嬉しさのあまり俯いてしまう手元には、ナギの言う通り――まるでクリーニングに出したかのように――皺ひとつないシャツが丁寧にたたまれている。
「そうか。そこまでナギに言われたのであれば、この天草シオンよりアイロンがけの高みを目指そう」
そうシオンが宣言すると、それに応じるようにアイロンからスチームが上がった。
「ねえ、ナギちゃんと押さえててよ」
「大丈夫だからちゃっちゃとやっちゃおう!」
ナギの押さえている椅子の上に立つ瑛二は必死に手を伸ばしながらシーリングカバーへと手を伸ばす。
「あ、とれた! ナギお願い」
「おっけ~。うわっほこりっぽい!」
知らないうちに溜まっていたほこりがナギや瑛二を攻撃する。
しかし、そこで臆しているとこのミッションは達成できない。
いったんシーリングカバーを床に広げた新聞紙の上に置いていると、「次はこれ」と切れた電灯を渡される。
「はい、新しいの」
少し背伸びをしてナギは新しい電灯を瑛二に渡す。
受け取った瑛二はそれを今外したばかりのソケットにはめ込む。
「念のため、電気つけてみようか」
「まっかせて!」
ナギを見下ろし頼む瑛二に、彼は電灯のリモコンをえいっとオンにする。
「あ、ついた」
「よ~し、じゃあナギがカバー磨くからそれもお願いね!」
「任せてよ」
電球交換部隊はハイタッチをして次の任務へと移った。
「あとはなにかあるか?」
「う~ん。お砂糖も買ったし、お味噌も買ったし……。あっ! 昨日でゴミ袋ラスト一枚だった!」
「ナギは良く気付いてくれるな……。では、あちらの売り場か」
とあるスーパーにてショッピングカートを引く瑛一の姿はある意味合成写真のようだ。しかし、現実に瑛一はナギの指示に従ってカートを動かしていく。
最初の頃はその姿に戸惑っていたナギだが今ではどこかしっくりときてちょっと笑ってしまう。
それにHE★VENSメンバーと暮らすようになってスーパーに行き始めた瑛一は、初めて見るショッピングカートの魅力に取りつかれたようで、誰と買い出しに行ってもハンドルを譲ってはくれない。
そんな上機嫌でカートを動かす瑛一を見上げながらふと考える。
家事なんて、誰がしても同じだし、必要に駆られてするものだとずっと思っていた。
しかし、実家を離れてメンバーと暮らす中でそれは大きな間違いだと気付いた。
実家にいたころは自分以外の家族がナギが気づかないところで家事をしていたのであってその苦労を一つも分かってはいなかった。正直体力は使うし、汚れるし、楽しくない。しかし、彼らと生活していく中で行っていく家事は、各メンバーが思いあってお互いが心地よく生活できるように自主的にしている。
それに感化されて次第に家事に取り組むようになったナギは意外に悪くないなと思い出した。
(今度……実家に帰ったらお料理でもしてあげようかな……)
いわゆるわがままな息子が手料理を作ったら、きっと家族は驚くにきまっている。
「? どうしたんだ?」
その時のことを想像して思わず笑みを零すナギに、メンバーへの思いやりが深い瑛一が優しく語りかける。
「なんでもな~い。はい、ゴミ袋おっけー! ねえ、おやつも買っていい?」
「仕方ないな……」
ゴミ袋を買い物かごに入れた後、もう買うものリストを制覇しナギはたカートを動かす腕を掴んで得意のおねだり攻撃をする。そんな末っ子ナギのお願いにに今日も瑛一は負けてしまう。
「やった! みんなで食べたいのあったんだよね~」
両手をパッと天へと伸ばし喜びを表したナギは瑛一をお菓子売り場へとせかす。
(今日はいっぱいお手伝いしたから、ちょっとぐらいご褒美あってもいいよね!)
家事を頑張ったみんなや自分へ何を買おうか胸をわくわくさせながら……。
おしまい