「え? なにこれ? わっかんない」
「なんでやナギちゃん! よう見てや!」
う~んとうなりながら白い紙に書かれた物体を見るナギにヴァンが情けない声を出す。
紙には個性豊かな落書きたちと矢印が順序良く並んでいる。
「お絵描きしりとりとは奥が深いのだな」
そんな二人を尻目にシオンは両手を胸の前で重ね、なにやら感動しきった表情でつぶやく。
とある日のHE★VENSハウス。リビングではヴァン、シオンそしてナギが一つのテーブルに集まりうんうんと唸っている。今日のお留守番組はこの三人だった。
意外にしっかり者のヴァンと気合を入れて午前中に掃除や洗濯を終え、暇を持て余した彼らが行きついた先はご覧の通りの絵しりとりの真っ最中。
「ヴァンってばいっつもおんなじ顔書くからわかりにくいの!」
ぷんぷんという擬音が似合うナギにヴァンは情けなく眉尻を下げる。
「せやかて、ナギちゃんもめっちゃデフォルメしてるやん」
「ナギはかわいいからいいんだもんね~」
「二人とも、とても愛らしい……。この鳥のようなこやつも、車のようなこやつもどれも良い」
「……ねえ、それって褒めてるの?」
純粋なシオンの瞳に嘘はないとは信じてはいるが、あまりの言い草に思わず聞いてしまうのはご愛敬だ。
「もうおっしまーい! ねえ、ヴァン何か楽しいことしてよ~。関西人でしょ?」
わーと両手を上げ、両足もバタつかせる最年少に、この遊びは長くはもたなかったとヴァンは悟る。
「ナギちゃん、それめっちゃ酷なフリやで。ヴァン子泣いちゃう~」
ナギの雑なフリにも対応可能な高性能の関西人は次の一手をぐるぐると考える。しかし、もうずいぶん色んな遊びをしているから目新しいものはパッとは浮かばない。
「泣くでないヴァン子よ。天草も一緒に考えよう」
「ほんま、しーちゃんはいい子に育ったなぁ」
本気なのか冗談なのかどちらともとれるシオンの言動に本当に涙があふれてきそうだ。
「いうてもな~」
ヴァンは顎に手を当てうんうん唸りながら考える。
本人曰く心が若いヴァンではあるが、最年長と最年少では十と少し年齢が離れている。そこに浮世離れしたシオンも加わり、三人で楽しく遊べるなんてそんな都合のいいことあるわけ――。
「あ! せや、ちょいと待っとってな」
そう言ってヴァンは二人を置いてバタバタと自室へと向かった。そうして戻ってきたときには彼の手にはなにやらカラフルなパッケージが握られていた。
「えーなにそれ! カラフルグミメーカー?」
「せやせや! この前ワイが会社見学行ったんは覚えとるか?」
「ああ、確かお菓子工場だったような」
先日、ヴァンはとあるバラエティー番組の収録でとあるお菓子工場の見学に行っていた。バラエティーとの相性がとても『イイ』ヴァンがスタジオや工場の人たちの笑顔を引き出していたことは記憶に新しい。
「そや、そこで貰ったんのがこれや! なんや、このセットを使えば色んな色のグミを好きな形でできるみたいなんや」
やってみるか? そう優しく尋ねるヴァンに対する答えは一つだ。
「とても興味深い……」
「まあ、ヴァンがどうしてもっていうならしてあげてもいいけどなー」
それぞれの、それぞれらしい返答に思わず笑みが深くなる。
「よし! やったら、準備するで~。ワイらは今からグミ職人や!」
オー! と拳をあげて、三人の暇つぶし第二幕がスタートする。
「水を用意してきたぞ」
「おう、しーちゃんありがとな、めっちゃ助かったわ~」
「型も取り外したよ!」
「あーやっぱりナギちゃんは仕事が早いな~」
ヴァンのよいしょともとれる褒め言葉も本人の雰囲気もあってか素直に言葉を受け取れる。
目を見合わせくすぐったそうに笑う二人に癒されながら、ヴァンは箱に記載している説明書を読み上げる。
「えっと、まずこのトレーの中ぐらいの溝に水を入れてくださいやて」
「はい! ナギが最初にする!」
「ほな、ナギちゃんにこれを進呈しよう」
そういって仰々しく付属のスポイトを渡すヴァンに、ナギもふざけてかしずきながらスポイトを受け取るときっちりと内線ピッタリに水を入れる。
「次は、この三つの溝に色の素を入れるんやけど、しーちゃんできるか?」
「なんと重大な……! 天草にできるだろうか」
「せやせや重大やで~やからしーちゃんに頼むんよ」
「ヴァンは零しちゃいそうだもんね~」
「こらナギちゃん! 本当のことでも言ったらいかん」
急に任されあわあわと震えていたシオンも、ヴァンとナギのやりとりに肩の荷が下りたようだ。丁寧に袋を破り、赤・黄色・青のグミの土台となるものを作っていく。
「そうしてこれや! この大きな溝にグミのもとをいれて~。これで、この上に色をたらせばグミができるっちゅーわけや!」
どうだと腰に手を当て自慢げに言うヴァンにかわいい二人はわーいと手を上げる。
「じゃあさ、じゃあさ、まずナギがしてもいい?」
「もちろんだ」
「ナギちゃん最初が肝心だからな~」
楽しさが抑えきれないというようなナギにスポイトを渡すと、トリ型の枠をグミの下に置いて黄色の液体を流し込む。
「なんと! こやつはすぐに固まるのか」
「ねえ。早速できたよ!」
にっこりとできたばかりのグミと一緒に笑顔を見せるナギは何とも愛らしい。
「ナギちゃんじょうずやな~。これな、この三色を混ぜることで色んな色ができるみたいやで。さっそくお兄さんもやってみよか~」
そう言ってヴァンはスポイトで赤と黄色を混ぜオレンジ――自分のメンバーカラーを作り出した。
「ヴァンはそういうとこあるよね~」
「そういうとこがいいんやろ?」
にやにやと笑いあう二人の傍でじっとシオンが今出来上がったばかりのオレンジ色の液体をじっと見つめている。
「お、どないした? しーちゃんも自分の色を作るか?」
「そうだな、それよりも――」
日付の変わり目に差し掛かった時。やっと瑛一は帰宅することができた。
まっくらな玄関の先でリビングからうっすらと明かりが漏れている。
「今日はオフじゃなかったか?」
「そんな堅いこと言わんで、えーちゃん」
他のメンバーは寝静まったのか、ヴァンが一人缶ビールを片手に晩酌をしている。
「健気にえーちゃんが帰ってくんの待っとったんやで」
「それは感謝する」
機嫌がいいのかけらけらと笑いながら言うヴァンに、思わず瑛一も笑みを零してしまう。
「えーちゃんにな、見せたいものがあんねん」
「見せたいもの?」
にやにやと笑いながらヴァンはキッチンへと向かう。その間に上着を脱ぎ、帰宅の片づけをしていると「じゃーん」と一枚の皿を差し出された。
「これは……?」
白い皿の上には色とりどりの可愛らしい動物や記号が並んでいる。
「今日な、ナギちゃんとしーちゃんと一緒にグミを作ってん」
「そうか。それは良かったな」
面倒見のいい最年長は酔っぱらいながらも「これがしーちゃんで、これがなぎちゃんで」とグミの制作者を一つひとつ伝えていく。確かに、ヴァンが夜更かしをしてまで瑛一に伝えたくなる気持ちもわかる。それだけ二人のことを大切に思っているし楽しい時間だったのだろう。
「そんでな、もう一枚作品があんねん」
「ほう。――これは……」
「な。かわええやろ?」
先ほどの皿よりも一回り小さい皿には赤・青・黄色・ピンク・オレンジ・緑・紫の小さなハートが円を描くように並んでいた。
「最初は普通に作っとったんやけど、しーちゃんがみんなのグミを作りたい言うて三人で作ったんや。大変やったで~。もともと赤と青と黄色しかなかったんやから、『ピンクがつくれない!』言うて二人とも泣きそうやったんやからな。まあ、えーじちゃんが白の食紅くれて事なきを得たけど」
「イイ! これはなんて愛に溢れた作品なんだ!」
皿を受け取り感動で震える瑛一にそうだろうとヴァンもその時の情景を思い出しながら頷く。
「ナギちゃんもしーちゃんも『みんなに見せるんだ』って食べずに待っとったんやで。まあ、えーちゃんが今日遅いゆうからトリはワイ一人に任せてもらったけど」
三人の思いが詰まったグミを見て、綺羅も瑛二も大和もたいそう喜んでいたと聞き、瑛一もそれはそうだろうと頷いて見せた。
「明日、感想伝えてあげたや」
「ああ、もちろんだ」
そう言って最年長とグループリーダーは褒められて照れる二人を想像し、くすりと笑いあった。
終