何が違うのかという話
マスターが復活してからは実に順調に行った。まぁ行って貰わないと困るというか、順調でなかったらマスターではなくガンツと名前の呼び捨てになっていたところだ。
洞窟が崩壊するんじゃないだろうかと心配になる勢いで破壊を撒き散らしているマスターから少し距離を取って後ろを付いて行きつつ、半分近く自爆のダメージを片端から癒していくスピカの様子も見ていた。
やはりあの杖はヒーラーとしての装備であり、あれを構えて、祝詞か賛美歌のような詠唱を行うと、杖を向けた先の人物の傷が治るようだ。たまに大きい一撃が(自滅で)入った時は近寄っているから、距離によって回復量の減衰が起こるのだろうか。
「まぁ、これがいつものうち(『アベンチャーエール』)の戦い方ね。皆が前に出て戦うのを、私が回復させていくっていうの。魔術でここまで回復量が高いのは、結構頑張ったのよ?」
「……、詠唱が必要だと、魔術なのか?」
「そこからね! ……まぁマスターなら説明してないとしても納得だわ」
一応、魔術と魔法とは違う物であり、パチンコで撃つのは魔法に属する、とは聞いているが、それだけだ。まぁあの戦い方なら必要ないだろうしなぁ。……自己回復や自己強化ぐらいは使わないのだろうか?
「詠唱のあるなしで判別しても大体合ってるわ。厳密な違いは、何をリソースとするかになるんだけど……ざっくり言うと、自分の体力を消費するのが魔術で、別の何かを消費するのが魔法ね」
「なるほど」
「と言っても、魔法が使えるのはほとんど杖で、あらかじめ魔石をチャージしておくっていうのが一般的だから、やっぱりその武器は珍しいわ。あ、私のこれも杖だけど、魔石をチャージする機能を削って増幅率を上げてるのよ」
一応パチンコを持った左手はコートの外に出しているので、視線が向けられればすぐに分かる。……なるほど。魔法を使うのは殆どが杖で、魔石を消費するものなのか。
……そう言えば、このパチンコで魔石を撃った事は、無いな? ……撃てるのか?
「……魔石をチャージする、とは?」
「言葉のままね。強化する時は魔石を砕くんだけど、チャージするときはこう、はめ込まれてる宝石に吸い込まれる感じ? になるのよ。で、ぼんやり浮かび上がる数字の回数だけ使えるの」
「なるほど。……あぁ、そうか。杖ごとに溜めて置ける回数には限界があるし、1回1回の威力や射程はそんなに変えられないのか」
「そういう事ね。それでも魔法の方が基本威力が高いし、杖に関して言えば鍛えて回数を増やしたり、本数を持ち込んだり、なんなら現地で拾った魔石をチャージしてもいいからやっぱり便利なのよ」
スピカの杖がそうなっていないのは……まぁ、普通に考えて、魔石をチャージに回すと儲けは減るから、だろう。それでなくても所属している冒険者の戦闘スタイルが偏っていて、なかなか『スポット』攻略が捗らない『アベンチャーエール』だ。
徐々に失速していく自転車操業を見ている感覚に近いな、これ。条件さえ揃えば強いのだろうが、今のところデメリットの方が目立ってしまっている。『スポット』の方が条件を合わせてくれるわけではないのだ。
……あぁ、そうか。だからあれほどに期待していると行ったのか。優れた前衛が真の意味で生きるには、優れた後衛が必要だから。回復によってしぶとさが格段に上がった前衛に、絶対に無視できない火力の後衛が守られているという状態は、実に良い。
「コア部屋があったぞ!」
なるほど。ともう一度納得していると、先行してもらっていたマスターからそんな声掛けがあった。迷うも何もない狭い洞窟の一本道。その行き止まりに、高さ3mほどの豪華な扉がそびえている。
活躍はほとんど見えなかったが、まぁ、うん、すごかったのだろう。あれだけ自爆ダメージを食っていたんだ、それ以上のダメージを叩き込んでいたに違いない。そのおかげで最初にマスターが立ち直るまで以外は散歩のようなものだった。
とはいえ、コア部屋……ボスことコアエネミーがいる場所は流石にそれなりに広さがある筈だ。それならまぁ、ただぼーっと立ってみているという事にはならないだろう。
「まぁ、基本は変わんねぇ。俺が突っ込んで正面から殴り合うから、スピカキャッツは回復、新人は出来る範囲で嫌がらせしてやれ」
「はいはーい」
「了解」
ようやく頼れるリーダーの姿に戻ったマスターからの、勝手知ったる感じの指示に承諾の返事を返す。……道中は殆どが蝙蝠で場所は洞窟だったから、相手は蝙蝠か、居てもモグラだろうか? まさか岩をも砕くワームではないと思いたい。
魔石を撃つのも試してみたいが、結果が分からない以上マスターが張り付いている状況は避けた方がいいだろう。同じく色付きはマスターが巻き込まれる可能性が高いから……透明なビーズとビー玉の魔力弾でちまちま削るか。
ベルトに下げたポーチの一つに手を入れて、ガラスビーズをいくつかまとめて握りこむ。今回するのは嫌がらせだ。火力はマスターに任せておけばいい。
「(というか、相手が何か分からないから具体的な動きが決められないんだよな)」
勝手知ったる感じで、こういう『スポット』には慣れているマスターとスピカはともかく……だ。こういう細かい所が抜けているから新人が居付かないのでは? ……まぁ、本人達に自覚がないなら言っても仕方ないか。
そんな事を考えている間に、マスターが外開きの重そうな扉を開き、中を覗き込んで……一つ頷いて、素早く中に入っていった。スピカもすぐに続く。
その後に続いて扉をくぐり、意外と暗くて見通せない部屋の中の様子に驚いている間に、背後で扉が閉まる音がした。